第2話 紫紺の少女
警官が手を下ろした。
「!」
幸平は反射的に目を瞑り、頭を押さえ込む格好になる。直後、複数の銃声が、埠頭に響き渡る。
コンテナの上にいた海鳥が驚いて飛び去った。
「‥‥‥‥?」
撃たれた足以外に痛みは感じない。
外した? と一瞬考えたが数メートルの距離で、これだけの人数がいて、全員が外すことはまずない。
「‥‥‥‥」
幸平はゆっくりと目を開けた。
そこには、いきなり警察に殺されようとしたというその事実よりも、更に信じがたい光景が広がっていた。
手前に十五、六歳ぐらいの少女が立っていた。
少女は黒髪を高い位置で左右に結んでいる。黒と紫を基調にした豪華なフリルドレスを身にまとい、胸元や腰には大きなリボンや宝石風の装飾があしらわれている。片脚だけ紫色のニーソックスを履き、宝石付きの飾りを付けているのが特徴的だ。手には大きな紫色の結晶が付いた装飾的な杖を持っている。
彼女は今までいなかった。
急にこの場に現れたようにしか見えない。
何れにしろ、こんなかっこうをしてる人には、普段であれば近づかないだろう。
「まーったく‥‥結局、こうなってしまうのよね」
少女はそう呟きながら幸平の方に顔を向けた。
「ふふ」
少女は幸平に笑みを浮かべた。
白い肌と整った顔立ち、そしてやや釣り目気味の目の色は紫色だった。
おかしな衣装を身にまといながらも、どこか貴賓と神秘性を感じさせる顔立ちをしている。
警官達は明らかに動揺している。銃口が今度は少女に向けられた。
「な、何だお前は! 何処から現れた?」
「‥‥‥‥」
少女は目を細めて、警官を見つめた。
「この世界のルールを維持する為の組織は、一人の人間の命を一方的に消すのが正しいことなのかしら?‥‥だとしたら余計なことだったかもしれないけど」
「撃て!」
取り囲んだ警官達は、一斉に少女に向けて発砲した。
波止場中に幾重にも重なった銃声の音が響き渡る。
幸平は思わず、顔を背けて目を瞑った。
それからゆっくりと目を開く。
「‥‥‥‥?」
少女は何事もなく立っていた。
足元には少女に向かってきたと思われる銃弾が転がっていた。
「‥‥その武器は旧式だけど使えば対象の人間の命が危険になる‥‥有機体を維持している人間は、命というものは、失われたら二度と戻らない‥‥尊いものと考えているものだとばかり思ってたけど‥‥」
少女は細長い棒のようなものを持っていた。
「‥‥これは」
月のような弧を描く大きな刃が、長い柄の先端に取り付けられている。それがある種の武器であることがすぐに分かった。
刃は内側に鋭く湾曲しており、その曲線は三日月を思わせる。柄は黒く細長い棒状で、両手で握れるほどの長さがある。刃の部分は赤みがかった色調で、縁に沿って光が走っているように見え、まるで刃自体が熱を帯びているかのように見えた。
「しっかし、リアルの振動って、結構、響いてくるのね」
コンテナの上にとまっている一羽のカラスが、鳴き声をあげた。
「もちろん分かってる、クロウ。今の私もそんなリアルの法則に従う存在だってことに」
まるで彼女の言葉に呼応するかのようにカラスがまた鳴いた。
警官の一人が少女を撃った。
少女は長柄の武器‥‥恐らく、鎌を回転させる。キン‥‥という金属の金切り音が響き、跳弾が幸平の顔のすぐ脇を掠めていった。
「‥‥う」
幸平は頭を押さえて屈む。
「まあ、干渉してしまった以上は仕方がないんじゃない? 誰かに事情を聞かなきゃならなかったから‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥丁度いい」
少女は幸平を見てまた微笑んだ。




