第1話 黄昏の埠頭にて
『死神少女の箱船星海』をお読みくださり、ありがとうございます。
本作は『死神少女の箱庭世界』の続編にあたる二期です。前作を追ってくださった皆さま、おかえりなさい。あの世界の続きを、またご一緒できることを嬉しく思います。
はじめての方も、この一話から入れるように書いていますが、背景をより深く知りたくなったら、どうかシリーズ一作目から。
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“そっちに行ったぞ!”
“逃がすな!”
コンテナの積み上がる埠頭の中、そんな声があちこちに響き渡る。夕闇迫る黄金の光が、隙間から矢のように差し込んでくる。
「な、何でこんなことに!」
声から少しでも遠ざかるように、二十代ぐらいの若い男性が足をもつれさせながら走り続ける。
ベージュ色のブレザーと赤のネクタイ‥‥少し茶色がかった髪は染めているのかもしれない。
「とにかく逃げないと」
コンテナの陰に隠れるように、背中をもたれかける。
息は完全にあがっていた。
そして青年を追っている者達の数は多く、既に周囲を取り囲まれつつあった。
「俺は‥‥こんなとこで掴まるわけにはいかない」
男性はコンテナに上る。それまで遠慮がちに届いていた夕日の輝きに、青年は目を細めた。 このまま上を渡って隠れながら行けば‥‥そう考え、姿勢低く、速足で港の出入り口に向かう。
鉄を踏む硬い音が静かに響くが、波止場の波の音に紛れてそれは大したことではなさそうだった。
しばらく進んでいると、追手の声が聞こえなくなった。
何とか逃げ切れたようだった。
この先どうすべきか‥‥とにかく落ち着けるところまで行ってからにしようと考えた。
男性はコンテナを降りようとしたが‥‥。
「!」
足元のコンテナの壁に、銃弾が当たった。カン‥‥という乾いた音の後、小さな振動が伝わってくる。
「‥‥‥‥くそ」
複数の警察の制服姿の男が、男性を狙っている。外したのはわざとで、いつでも撃たれる状況にあるのがすぐに分かった。
スーツ姿の中年の男性が手前に出てきた。
拡声器を口に持ってくる。
=後藤幸平、君がやった事は重大な罪だ!=
「‥‥‥‥」
既に身元がバレているようだった。つまりこのまま家に戻るわけにもいかなくなったということだ。
「‥‥‥‥」
男性‥‥幸平は警官たちを睨みつける。
待ち合わせの場所は確かにここだった。もしかしたらそれ自体がおびき寄せる罠だったのかもしれない。
上がっているコンテナの周囲には警官に取り囲まれている。遠くからは銃で狙われており、逃げることは無理そうだった。
「‥‥分かった! 投降する!‥‥!」
幸平は手を挙げたが、その瞬間、足に焼けるような鈍い感覚が走り、直後にそれは激痛に変わった。
「うがっ!」
銃声は聞こえなかった。だが撃たれたのは確かだった。遅れてきた痛みに、こらえきれずに下に落ちて転んで足をおさえた。流れる血が滴り、周囲に血だまりが出来ていた。
「ぐ‥‥そんな‥‥いきなり」
捕まれば拘束される‥‥その程度だと考えていた。いきなり発砲してくるとは考えられない話だった。
警官達が集まってきた。全員が拳銃を手に持っている。
「後藤幸平、立ち入り禁止区域へ進入しようとしたこと、間違いないな?」
警官の一人が淡々とした声でそう聞いてきた。
「まだ行ったわけじゃない。そ、それより‥‥」
痛みに気を失いそうになる。
「間違いないな」
「あ、ああ」
仕方なく幸平は警官の言葉に首を縦に振った。
質問してきた警官が手を上に上げた。それを合図に、全員の銃口が幸平に向けられた。
幸平の顔から血の気が引いて、足の痛みを忘れそうになる。
「ま‥‥待ってくれ!」
夕日の逆光で警官達の表情は分からないが、陰になったその顔は人間には見えない。
彼らは躊躇なく撃ってくる‥‥幸平は確信をもってそう思った。




