第二十三話 光の翼を纏って
リシャンは幸平のだいたいの逃走ルートを確認して、同じように裏路地を通って警察の目をかわしていく。
《その道は最短ですが、途中で警察車両と鉢合わせます。右に迂回‥‥》
《警官がいますが、3分たったら塀の陰まで走ってください》
クロウの誘導は的確だ。
リシャンは警察の包囲網を抜けて、目的地へと向かっていく。
《その先は警察車両が密集している場所の一つです》
「つまり、そこってこと!」
見失ってからの時間からの移動距離を考えれば、目的地はそこに違いない。
《大通りに出た瞬間、警官達のただ中に突入することになります。注意してください!》
「注意‥‥つまり‥‥」
強硬手段に訴える事になる‥‥多分、クロウが意図したのはそういう事ではないというのは分かってはいるが、それも含めてクロウは分かっている。
リシャンは立ち止まった。
胸のペンダントに手を当てる。そこから前後に伸びて棒になる。
先端が折れ曲がり、長い鎌に変わった。
《バッテリー残量が残り僅かです。残りをどう使うかは任せますが‥‥》
「だったらこれ!」
リシャンは両手で鎌を回転させた。
緑と赤の光のシャワーがリシャンを包み込む。
「‥‥‥やっぱりこの格好が一番しっくりくる」
解いていた髪が団子状に結わえ直っている。服も今まで着ていたカーディガンやスカートではなく、丈の短い赤の着物に薄桃色の帯。足は素足になっていた。
鎌の先が僅かな振動で音を発している。
タッタ‥‥と、軽快に駆け抜ける。
クロウの言う通り、何台もの警察車両がとまっており、ヘルメットと防弾の服、そして透明な盾をもった突撃用の人員が何人も立っている。
「な、何だ!」
リシャンを見た、警官隊は驚きながらも盾を向ける。
「甘い!」
ジャンプして上から大振りに鎌を斜めに振るう。
硬質の材料で出来ているはずの盾は、薄い紙を切り裂くように、抵抗なく、ス‥‥と、切れた。
「うわ!」
頭を抱えた警官の肩に足をかけ、リシャンは大きく跳躍して、警官隊が包囲している古ぼけた建物の二階の窓ガラスを破って中へと入った。
「‥‥‥‥な!」
砕けたガラスが日の光を受けてキラキラと輝く。
リシャンの両脇に広がるそのガラスの輝きは、光の翼にも見えた。
着地した先に後藤幸平はいた。コンクリむき出しの柱の後ろにうずくまっている。
「‥‥死神が‥‥迎えに来たのかと思った‥‥まさか‥‥ユズリハさんなのか?‥‥どうしてここに?」
「ふふ‥‥」
すぐには答えず、リシャンはもったいぶったように笑う。
「なぜ来た? ここは包囲されている。逃げ場はない」
「‥‥それであなたは最悪のテロリストとして、現場で処断される」
「違う! 俺は何もしていない!」
「分かってる。あなたは嵌められたのよ。中野雄二に」
「‥‥そうみたいだな」
幸平もそれは分かったようだ。取り乱しているようで、冷静に考える頭はまだ持っていることを、リシャンは理解した。
「じゃ、あなたはどうするつもり? 投降してもその場で処断されるのは、分かってるでしょ?」
「逃げる手段はない‥‥声高に無実を叫んでも聞き入れてはもらえない‥‥もう、無理なんだ」
「‥‥へえ」
リシャンは嘲笑うような笑みを幸平に向けた。
「あなたが前に言った、『この世界の仕組みを暴いて、みんなに知らせたかった』という言葉はその程度のものだったの? 妹さんを救えなかったこの止まった世界を変えたいというあなたの想いは、何処かに羽を生えて逃げて行ったの?」
「そんなことはない!‥‥けど‥‥」
「‥‥‥‥」
リシャンは目を細めて幸平を見つめた。
「まだあなたがその足で歩けるなら、まだ世界の真実に向き合う心が折れていないなら‥‥」
リシャンは白い腕を上にあげる。
「この手を取りなさい」
「‥‥‥‥」
リシャンは幸平に向けて、その手を差し出した。




