第二十四話 包囲を抜けて
「そうだな‥‥」
険しかった幸平の表情がフ‥‥と緩んだ。
「どのみち逃げることは出来ない。逃げた所でどうにもならないなら、せめて目的を達する為に足掻く。それしかない」
「上等」
リシャンは頷いて伸ばしてきた幸平の手を掴んで引き上げて立たせた。
「それでどうする?」
割れた窓枠の端から下の通りを見渡す。
武装した警官の数がさっきより増えている。増援を待って突入してくるのは確実だ。
《リシャン、周辺の地図を把握してきた。そっちにデータを送る》
リシャンの片眼鏡の板に、周囲の地図が投影された。
「‥‥なるほど」
後ろの非常口から外に出ることが出来る。一旦は巻くことが出来るかもしれない。
「裏手に地下の連絡通路に通じるマンホールがある。そこに行くことが出来れば‥‥」
問題は上空のヘリだった。上からこちらの挙動をこと細かく観察している。
「あのヘリというやつは、この建物の上で旋回行動を繰り返している。向こうを向いて死角になったその一瞬を狙って、マンホールまで一気に飛び降りる」
「一階まで降りることはできるかもしれないが、マンホールを開けて降りるまでには時間がかかりすぎる」
「問題ない!」
その言葉が終わるか終わらないかの瞬間、室内に何かが飛んできた。
リシャンはとっさに、その金属の缶のようなものを、鎌の柄で外へと弾き返した。
缶が外で破裂する。それは煙を吹きだす道具だった。
外で驚きの声があがる。室内を煙で混乱させてから突入するつもりだったが、すぐに返されるというのは想定していなかったようだ。
だが、すぐに彼らは雪崩れ込んでくる。
《今だ!》
クロウからヘリが死角に入った事が告げられる。次の死角に入る前に、ここには警官で溢れかえっているだろう。
今しかない。
「幸平!」
「!」
リシャンは幸平の手を掴んで裏口まで走る。背後の壁を鎌で×状に切り裂いてから足で蹴ると即席の出口が出来た。
「このまま降りる!」
「分かった!」
二人は二階から飛び降りた。真下には丸いマンホールが見える。
「こんなもの!」
リシャンは鎌を振るう。
鉄で出来た分厚い蓋は、いとも簡単に細切れになった。
二人は出来たその穴に落ちる。
「‥‥‥痛たたた‥‥」
下水の通る水の水路に落ちたおかげで、それほどのダメージは受けなかったが、あちこちすりむき傷が出来る。
上を見上げれば、開けた穴がひらいたままで、白い光を水路に照らしている。
「最悪ね」
「だけど、ここから行くことができる」
「施設の場所は分かってるの?」
リシャンの持つ鎌の刃が白い光を放つ。通路が奥まで見えるようになった。
「ああ、ここからそう遠くはない。2キロほど東に向かっていけばいい」
「それって‥‥」
「最初に襲われた埠頭‥‥そこに施設はある」
「了解」
リシャンは大きく頷いた。
通路は狭く、段差があったり、水たまりで滑りやすい箇所が所々にあったりと、思った以上に移動のペースはあがらなかったが。それでも30分程で目的の場所に到着した。
《そのマンホールから上がってください》
クロウの誘導で、重い蓋を押し上げて外に出る。
「‥‥‥‥」
先にリシャンが上がり、幸平の手を掴んで上に引き上げる。
外は夕日の紅い光が射し込んでいた。
見覚えのある様々な色のコンテナが並んでおり、その隙間から漏れた光の矢が、目に刺さってくる。
図らずも同じ景色がそこに広がっていた。
「俺はあのとき‥‥」
幸平が先に歩きだす。
あのときというのは、警官に襲われて撃たれたときのことだ。
「あのとき、禁止区域に入ろうとして、そこで、警察に見つかって追われた‥‥普段は誰もいないから簡単だと思っていたんだが‥‥」
「‥‥‥‥」
リシャンは鎌の柄で、先に進もうとする幸平の行く手を遮った。




