第二十二話 狩りの輪の中で
アーケードにある大きなテレビは、後藤幸平が、この街でテロ活動を行い、商業ビルの一つを爆破したと報道している。
被害は死傷者が10人以上。その数字はどんどん大きくなっている。
「‥‥‥‥」
リシャンはテレビの情報を元に、その中心地である、商業ビル街の中心地へと向かった。
その先には赤いランプを点灯した警察車両も向かっている。このまま進めば何れまた警察と出くわすのは明らかだ。
角を曲がると、道に黄色いテープが張られており、警官が何人か立ってそこから先を通さないようにしていた。
封鎖された道の前に、野次馬らしき人々が結構いたことは、様子を探るには都合がよい。
(クロウ、近くにいる?)
《あなたの斜め上の灰色のビルの上にいます》
「‥‥‥‥」
リシャンは素早く視線を向ける。
ここからでは見えないが、そこにクロウの目と耳になるカラスが止まっているはずだ。
(この封鎖を突破するルートを探して)
《まだ彼に関わるつもりですか? この混乱に乗じて、その施設へと侵入する方が得策に思われますが》
「‥‥‥‥」
クロウの言うことは最もだった。だが、それをそのまま受け入れることは出来なかった。
(私は幸平を助けた。それで彼は命を繋いだ。私は、こんな結末の為にそうしたわけじゃないのよ)
《‥‥‥‥》
(もう彼はあとにはひけない。命の使い方を‥‥どうするのか、私は彼の答えを聞きたい‥‥)
「‥‥私は知りたい!」
気が付けばリシャンは言葉を声に出していた。
野次馬を赤く光る警棒で追い払っていた警官の一人が、リシャンの方に歩いてくる。
リシャンは背中を向けて現場から立ち去る姿を見せる。
《進行方向、左に小さな路地への入り口が見えます。しばらく真っ直ぐに進むと、突き当りの木戸を開けて右に行ってください。それから先は、これから偵察してきます》
「‥‥ありがとう」
色々と言ってはくるが、最後は助けてくれるのがクロウだった。
リシャンは笑って礼の言葉を呟く。
クロウの言葉通りに、狭い路地に入る。
ビールケースなどが無造作に置いてあり、表通りとは全く違う顔を見せている。
(上空から幸平を探せる?)
《難しいですね、彼も隠れてますから、上から探しても特定は難しいかと》
プロペラで空を飛ぶ乗り物が飛び回っている。
幸平がむやみに姿を晒しているはずがない。
(上から警察が集まっている位置を確認して)
《了解》
上空から、警官隊がどこへ収束し、どの区画に厚く、どこを封鎖しているか。
狩りの形が、獲物の居場所を指し示す。
輪が狭まっていく中心が、幸平のいるあたり。
「‥‥‥‥」
リシャンは耳元の小さなイヤリングを触る。
これは小型の翻訳機だが、簡単な調査端末も兼ねている。この世界は電波というものを使用した旧式の通話機で遠距離会話をしていることは中野のマンションにいたときに調べて知っていた。
=‥‥対象を五つ橋付近で目撃したという情報あり‥‥=
=‥‥住吉通りで見失った‥‥=
=‥‥応援を要請‥‥=
無線の声は拾えるが、そこから先の足取りは不明だった。
《リシャン、警官の配置図を送る》
クロウの言葉を受けて、リシャンは片目に半透明の板を下ろす。そこには、この都市部の立体地図と、警察のいる地点が赤い点で表示されている。
住吉通りを中心に警官が集まっているが、そこで見失ったことは分かっている。
「‥‥‥‥」
身を隠すとすればどこが最適と考えるだろうか。
都市部の人が多い場所に紛れるのが有効なのは、特定されていない場合に限る。
確実にこの近くにいると分かっているときは、逆に通報されてしまう。
幸平は郊外へと続くルートを選択したと思われる。
警察が住吉通りで見失ったのは10分前程。また発見されていないとすれば、路地裏に入り込んで、そこから移動しているか、隠れているはずだ。
「ここね‥‥」




