第二十一話 凍った楽園
大きなビルの中の一つに入ると、そこは大きな家電売り場だった。
広いフロアの中には、電化製品が整然と並べられており、その商品の手前には、最新型‥‥の文字と、その商品を買う為の値段が大きく表示されている。
「‥‥何これ」
リシャンはその一つを手で触れる。
全自動炊飯器‥‥お米を炊く機械。翻訳機によって文字は読めるが、説明を見てもよく分からなかった。
レコードプレイヤーというものは、丸い板のようなものが中央にある。これはレコードというものを操作する機械だが、説明をみるとそれは音を記録した媒体のことらしい。
大きな箱はテレビで、これは中野雄二のマンションにもあった。
そこには女性の歌手が歌っているのが映っている。
歌い終わった後、彼女が頭をさげると、まわりから大きな拍手がおこった。
閉じた世界ではあっても、確かに人の心が宿っている。
「‥‥‥‥」
リシャンはエレベーターに乗って、一階まで降りていく。ガラス窓には、街の景色が何処までも続いている。
そこには、ありきたりな風景で満ち溢れているだろう。
エレベーターガールというエレベーターを操作する女性に頭を下げて外に出る。
幸平は「進化は人の不幸を無くす、止めるな」と言った。
妹を失った彼にとって、この世界は残酷な牢獄だ。
それは正しい。でも——目の前で笑うこの人たちは、進歩を知らないまま、それでも幸福だ。
だとしたら、この凍った世界は、ただの牢獄なのだろうか? 無知の幸福は、不幸なのだろうか?
「‥‥‥‥?」
遠くでサイレンが鳴った。
道行く人々が辺りを見渡す。
これはこの世界で、建造物が燃えているときに、周囲に警戒を知らせる合図だった。
何処かで火事が起こったのだろう。その程度に考えたが。
《リシャン、近くの建物で爆発が起こったようです。警察はテロリストと発表しましたが‥‥その犯人を後藤幸平と言ってます》
「!」
クロウの言葉に足が止まる。
(まさか‥‥いくら何でもそんな事はしないでしょ)
足元に一羽のカラスが止まる。
《警察はこの街に非常線を張ったようです。彼が捕まるのは時間の問題でしょう》
「‥‥‥‥」
赤いランプを光らせながら、警察車両が何台か走っていく。
コウヘイがテロなどということをするはずがないのは分かっている。
彼は嵌められたのだ。
「全く‥‥」
リシャンは舌打ちして、都心部の方向に行先を変える。
《まあ、言っても無駄かもしれませんが、穏便にお願いします》
「分かってるって」
《‥‥‥‥》
クロウはそれ以上、何も言わなかった。




