第十八話 ガラス越しの街
情報提供者の中野雄二のマンションに隠れて二日が経った。
幸平は端末でずっと何かを調べているようで、食事のとき以外は机に向かっている。
中野雄二はいつも出掛けており、マンションにはいない。
手持無沙汰のリシャンはテレビを見ることが多かったが、内容はありきたりのドラマなどが多く、参考にはならなかった。
それにも飽きると窓から外の景色を眺めた。
遠くに都心のビル街が広がっているのが見える。
ここなら安全かもしれないが、いつまでもこうしていることは出来ない。
「‥‥‥‥」
ベランダでカラスが窓を突いた。それはクロウから連絡がある合図だった。他の人に声が聞こえるわけではないが、リシャンは幸平のいる部屋から離れた。
(どうだった?)
《ナカノユウジは現在勤めているという、デザイン会社に入っていきました。そこで普通に仕事をしているようですが、今日は会った何人かは、省庁‥‥管理者でした》
(‥‥やはり)
中野雄二をあまり信用していなかったリシャンは、クロウに足取りを追わせていた。
もしかしたら外で管理者と連絡を取っているのかもしれないと考えたが、まさにその通りだった。
《で、いつまでそこにいるつもりですか?》
(分かってる)
リシャンの体を作っている有機体は仮初めのもので、バックアップがないこの状況では使用期限に制限がある。身体が原子崩壊する前に013にあるリシャンのAI本体とのアクセスを正規の手順で終了しないと、リシャンのAIに深刻なダメージを負ってしまう。
もってあと数日。その限られた時間で何をするべきなのだろうか。このままここにいても、望む答えを得られないなら、いても仕方がない
《ナカノユウジが戻ってきた》
(‥‥‥‥)
リシャンは先んじて玄関に回る。
合図のノックの音が三回、静かに鳴った後、ドアが開いた。
「お帰りなさい」
家に戻ってきたらそう答えるのが普通とクロウに聞いたリシャンは、中野雄二にそう呟いた。
「え‥‥あ、ああ、どうも」
中野雄二は少し驚いた顔になる。リシャンは首を傾げた。
戻ってきた中野雄二は、幸平の机に真っ直ぐに向かった。
「特にお前を探してる様子はないみたいだ」
「そうか」
幸平は端末の椅子に寄りかかった。
リシャンは目を細める。それは考えこむときの癖だ。
もしかして情報を探る為に、管理側と接点を持ったのだろうか、それならそれで納得はいくが、そうでなかったら‥‥。
「ネットにも何も情報は上がっていない。他に世界の真実を探っている者がいるかどうかも探してみたんだが‥‥」
「そりゃ、管理側もその辺は厳重だろうしな」
厳重に情報統制しているはずなのに、このナカノユウジという男だけが、その網から逃れているのはやはり不自然だ。
管理側の人間と会っている事も踏まえて、ここにいるのも安全とは言い難い。
《彼らと一緒にいてもこれ以上、得られるものはないと思います。装置という存在が分かった以上、リシャン一人で調査に行くのが効率的かと》
「‥‥‥‥」
この世界の状況を探るだけならそれでいい。
そうではない。
確かにリシャンは最初、幸平をこの世界を知る情報源とだけ考えていた。
幸平は陰謀に繋がっている人間だ。真実に近づいたから狙われ、中野を知り、"装置の奥"を目指している。幸平に付いていくことは、そのまま"誰が、何のために世界を止めているのか"という核心への道を辿ることに繋がることになる。
だがそれは表向きの理由だ。
幸平は、世界の嘘を見抜いた数少ない同類と思っていた。
世界の真実と向き合ったとき、彼らがどう考え、どう判断していくのか知りたかった。それはかつての自分が辿った道と同じだった




