第十七話 止まった世界
彼の答えはだいたいの予想は出来たが、リシャンは敢えて聞き返す。
「うまく説明できないが、この世界‥‥そのものだ」
「‥‥‥‥」
「俺はこっそりと調べてみた‥‥‥この世界は隔離されている‥‥‥地機械はそのメンテの為のものだった」
「‥‥‥‥」
リシャンはネックレスを握りしめる。
この中野雄二という男は、この箱舟世界の秘密をある程度知っているようだ。いうなれば彼は管理側の人間だった。
だとしたら疑問が幾つか残る。
なぜそれを幸平に教えたのか。
リシャンはあえてそれを口にはしなかった。
「この世界は、ある時代で止められてる。技術が、これ以上一歩も進まないように、誰かが仕組んでるんだ」
「‥‥止められてる」
「ああ。考えてみろ。何十年経っても、車も、電話も、薬も、何ひとつ変わらない。変わらないんじゃない、変えられないんだ」
中野雄二は、レンジからピザを出して皿の上に乗せた。
「‥‥俺には、妹がいた」
渡されたピザを見つめながら、幸平は呟いた。
「‥‥‥‥」
「病気でな。今の医療じゃどうにもならないって言われた。‥‥でも、おかしいだろ。進むことさえ許されてれば、この世界だって、いつかは治せたはずなんだ。なのに、誰かがそれを止めてる。妹は——止められた世界のせいで、死んだ」
「‥‥‥‥」
リシャンは、ネックレスを握る手にそっと力を込めた。
彼の言うことは、ほとんど正しい。この世界が閉ざされ、止められているのは事実だ。ただ、彼はまだその先を知らない。その外に何があるのかも、自分たちが宇宙を漂うちっぽけな箱舟の中にいることも。
《リシャン》
耳元で、クロウの声がした。
《彼‥‥ナカノユウジの話の筋は通っています。ですが——管理の側にいた人間が、なぜわざわざ、その核心を一人のユーザーに渡したのか。そこだけは、どうしても引っかかります》
(‥‥分かってる)
クロウに言われるようなことはリシャンにも分かっていた。
だが、リシャンはナカノユウジが‥‥コウヘイが掴みつつある世界の真実を前に、どう考え、どう判断していくのかを知りたかった。
それはかつてのリシャンが辿った道と同じだった。
今はただ彼らの話の続きを聞きたかった。
「人間は、進むべきなんだ」
幸平はそう言って顔を上げた。その瞳には、傷を抱えながらも、確かな力がこもっている。
「進化は人の不幸を無くしていく。それを誰かの都合で止めていいはずがない。‥‥だから俺は、あの仕組みを暴いて、みんなに知らせたかった」
(進化は‥‥人の不幸を無くす)
心の中で繰り返す。
それが彼らが下した判断。
それが正しいか正しくないのか‥‥。
今のリシャンには分からなかった。
見つめていた目の前のグラスの氷が溶けて、カラン‥‥と小さな音を立てた。




