第十五話 偶然の神
《リシャン、彼はこの世界のユーザーにも関わらず、その真実に気づいているのかもしれません》
この世界は時間も空間も閉ざされた世界かもしれない‥‥幸平のその言葉を聞いていたクロウは、すぐにリシャンに告げた。
(‥‥それなのに、気づいた)
リシャンは胸元のネックレスを握ったまま、心の中で応える。
《本来、閉じた世界の住人が、自らその閉じていることに気づくことはありません。この世界を管理している、何かが、悟らせないよう仕組んでいるはずですから》
(真実に、近づきすぎた、ってこと?)
《おそらく。立ち入り禁止区域というのはこの世界が閉じた場所であることを確信させる場所、あるいは、この世界の管理区域のことをさしていると思われます》
「‥‥‥‥」
リシャンは隣を歩く幸平の横顔を見た。
治ったはずの足取りは確かなのに、その背は、何か重いものを抱え込むように、わずかに丸まっている。それでも前を見据える彼の瞳には力がみなぎっているように見える。
幸平を襲ったのは恐らくただの警察ではない。管理側の一部の人間が、管理区域に侵入しようとした人間を阻止‥‥と、いうよりも、問答無用で排除する為の機関なのだろう。たった今、そのものたちに襲われたはずの幸平は、それでも全く揺るぐ事がない。
それほどまでに彼の世界の真実を知りたい、という気持ちは強固なものだ。
「‥‥ふふ」
リシャンは自然に笑いがこみあげてきた。
それは以前の自分と全く同じだった。
最も、真実など知らされずに、世界を暴こうとする者達を刈る側の方だったが。
今まで聞かされてきたことが間違っていると知ったとき‥‥まさに今の幸平と同じ気持ちだった。
今はまた迷いの中にいる。
真実のその先になにがあるのか、どうすればたどり着けるのか。
そしてそれを知った時、自分はどう思うのか‥‥。
運命などというありきたりな言葉で片付けたくはないが、世界を知ろうとする彼を助けたのは偶然の積み重ねだった。
たまたま出会ったこの男こそ、自分が知りたかったものへの、一番の近道なのかもしれない。
「‥‥‥‥」
リシャンは、ネックレスからそっと手を離した。
そして口元に、小さな笑みを浮かべる。
リシャンは神を信じてはいない。だが、この時ばかりはその偶然の神の存在に感謝せざるをえなかった。
「‥‥ねえ、コウヘイ。その話、もっと詳しく聞かせてくれる?」
「‥‥‥‥」
幸平は立ち止まってリシャンの顔をじっと見つめた。
何台かの車が通りすぎ、その度にヘッドライトの光が二人を照らしては消えていった。




