第十二話 連れて逃げる
手前にいる警官が銃口を向けてきた。
「‥‥‥‥」
リシャンは足元の男性を見下ろした。足を押さえ、苦しげに顔を歪めている。
意識はあるとは言え、自力では動けない。
つまり選択肢は三つ。
男達を全員ダウンさせるか、このまま一人で逃げるか、この男を運んで逃げるか‥‥。
簡単なのは一人で逃げること。そして男達をダウンさせるのは現状、難しいだろう。
関わってしまった以上、途中で見捨てることとはできない。運んで逃げることは難しいかもしれないが、やるしかないようだ。
「よし、彼を連れて逃げる」
《リシャン、無茶です。複数同時に撃たれたら、その鎌では守りきれません》
イヤリングからクロウの声がした。
「分かってる。だから、逃げるの」
リシャンは倒れている男性のそばに膝をつき、その腕を自分の肩へ回した。
「立って! 歩けるなら、それでいい」
「‥‥お前、何なんだ」
「そんなの、いいから」
警官の一人が撃った。
リシャンは空いた手で鎌を回す。キン、と乾いた音が響き、弾はあらぬ方へ逸れた。
だが、それで弾けたのは正面の一発だけ。横合いから、別の銃口が火を噴いた。
考えるより先に、リシャンは男性を抱え込むようにして、積み上がったコンテナの陰へ転がり込んだ。
すぐ背後の鉄壁に、銃弾が当たって硬い音を立てる。
既に息が、上がっていた。
重い。この体は、こんなにも重い。一人を肩に担いだだけで、脚が震え、腕が痺れる。
仮想の世界では感じることのなかった、生身の圧力だった。
《右の通路の先には警官二人が塞いでいます。左へ。コンテナの列を三つ抜けた先に、出口があります》
「‥‥助かる、クロウ」
頭上で、一羽のカラスが旋回していた。
男性の腕を肩に食い込ませ、半ば引きずるように進む。彼の足は、もつれながらもついてきた。
それで十分だった。
背後に、複数の足音。
「ふん!」
リシャンは振り向きざま、鎌を一閃させた。
積み上がっていた木箱の山が、断ち切られて崩れ落ちる。瓦礫が、通路を塞いだ。
追っ手の足音が、遠ざかっていく。
コンテナの迷路を抜けると、錆びた倉庫の並ぶ一角に出た。
リシャンは人気のない倉庫の奥へ幸平を運び込み、壁に背を預けさせる。
そこでようやく、鎌を握る手の力を抜いた。
鎌の金属音が硬質の音を響かせる。
柄が縮み、刃が畳まれて、もとの細い杖へと戻っていく。
「はあ、はあ‥‥なんとかなったわね」
二人とも肩で息をしていた。




