第十一話 イカれた女
「撃て!」
「‥‥‥‥」
リシャンは男達の人数と向きを確認する。
角度、速度、リアルの空気抵抗、少しでも間違えれば、例え骨董品的なものであっても、致命傷を負ってしまう。
予想弾道が片目のレンズに投影されるが、そんな情報を無視して、リシャンは杖だったものを鎌へと変形させて、向かってきた銃弾をはじき返した。
「‥‥ふう」
小さなため息をつく。足元には金属の小さな弾丸が転がっている。こんなものが柔らかいタンパク質で出来たリアルの体にめり込んだとすれば、生命活動はすぐに停止してしまう。この武器はあまりにも野蛮だ。
「‥‥その武器は旧式だけど使えば対象の人間の命が危険になる‥‥有機体を維持している人間は、命というものは、失われたら二度と戻らない‥‥尊いものと考えているものだとばかり思ってたけど‥‥」
同時に五発の銃弾を弾いた。仮想世界では全く気にしないような程度のことだが、衝撃で腕がちょっとしびれている。
「しっかし、リアルの振動って、結構、響いてくるのね」
コンテナの上のカラスが鳴いた。
《あれほど、危険な事には首をつっこむなと言ってたのに‥‥全く。彼らは危険です、その攻撃を受けると‥‥》
「もちろん分かってる、クロウ。今の私もそんなリアルの法則に従う存在だってことに」
《本当ですか?》
話してる間にまた撃ってきた。
一発だけだったので、リシャンは鎌を少し体にずらしただけで、軸でその弾丸を弾いた。
その跳弾は倒れている男のすぐ脇を掠めた。
男は怯えて頭を抱える。
「まあ、干渉してしまった以上は仕方がないんじゃない? 誰かに事情を聞かなきゃならなかったから‥‥」
リシャンは男を見つめる。
信じられない‥‥という顔をしたその男の表情を見て、リシャンは笑みを浮かべた。
警官達は距離を詰めてきた。
彼らは弾を弾かれたとは考えず、外したと思ったらしい。
これ以上近づかれると、回避が難しくなる。
その警官の指揮者らしき男が大きな四角い箱を顔に当てている。
「応援を要請する。A級重大犯罪者を追跡中に、おかしなコスプレをしたイカれた女と遭遇。こちらの武器がなぜか効かない」
警官は箱と話している。それは大きすぎるように見えるが、旧式の通信機のようだ。
翻訳機と収音装置が的確に遠くの会話を拾い、リシャンはその内容を理解した。
《早くその場を離れてください。敵対している者たちの仲間がこちらに向かっています》
「‥‥分かってる。それより‥‥」
リシャンが気になったのは、おかしなコスプレをしたイカれた女というフレーズだった。
「コスプレって何のこと?」
《‥‥調べました。コスプレとは、キャラクターや特定の人物の服装や外見を真似して、その人物になりきって楽しむ仮装行為‥‥のことらしいです》
「?? どういうこと? このヒラヒラの服装ってこの世界ではありふれた格好のはずよね?」
《そのはずです。不完全なスキャンでしたが、その世界のブロードキャストでよく見られた服を模倣したもので、むしろ、男性には好評だと思いますが》
「その割に、イカれた奴扱いされているけど?」




