第十話 紅蓮の刃
「!」
近くで、パン‥‥という乾いた音が響いた。
この音は聞き覚えがある。
昔、仮想世界で散々、使っていた武器の音だ。
「銃声が聞こえた!」
=危険です。リシャン、そこから離れてください=
「了解」
リシャンはポッドから先端に宝石のついた杖を出した。
素直に銃声が聞こえた方向から離れるようにコンテナの積み上がる港を歩いていく。
「‥‥‥‥」
リシャンは立ち止まった。
正面に‥‥何かの制服を着た男達が集まっている。
耳にかけている半透明の片眼鏡の板を下ろす。そこに男達の素性が表示された。
どうやら奥でコンテナに登っている男性を狙っているようだ。
「あれはどういうこと?」
=分かりませんが、制服をみると、彼らはこの世界の法を守るエージェントのようです。彼らが狙っているとするなら、それは彼らの方を犯した者を罰するのが目的でしょう=
「なるほど」
=関わる意味はありません。すぐにそこを離れましょう=
「‥‥‥‥」
リシャンは言う通りに背を向けようとしたが、また銃声が響き、男性は下に落ちた。
足を止めて振り返る。
耳に手を当てて翻訳機を付ける。
遠くの会話が耳に飛び込んできた。
理不尽‥‥。投降したのに、なぜ撃つ‥‥。
立ち入り禁止区域への進入‥‥。
「‥‥‥理不尽‥‥」
=リシャン=
「‥‥‥‥分かってる‥‥分かってるけど‥‥」
リシャンは大きく息を吸い込む。
潮の混じった空気が体を満たしていく。
「気になったことがあるから‥‥クロウ、そこは勘弁して!」
低姿勢で疾走する。その後ろをクロウが追いかけてきた。
銃口が倒れているその男性に向けられた瞬間、リシャンは男達のその中心の中に割って入った。
「な、何だお前は! 何処から現れた?」
突然現れたリシャンに、男達の動きが止まる。
「この世界のルールを維持する為の組織は、一人の人間の命を一方的に消すのが正しいことなのかしら?‥‥だとしたら余計なことだったかもしれないけど」
「撃て!」
我に返った警官達は一斉に引き金を引いた。
乾いた銃声が港に響いた。
リシャンが手首を返すと、杖の宝石が淡い光を帯びる。
金属のこすれ合う低い音とともに、柄の先から刃がせり出した。
内側へ鋭く湾曲した、月のような弧。
三日月を思わせるその刃が、宝石を根もとにして長柄の先端へと組み上がっていく。
赤みを帯びた刃の縁に光が走り、まるで刃自体が熱を持っているかのようだった。
杖は、両手で握れるほどの大きな鎌へと変わっていた。
リシャンは鎌を回転させる。
キン——甲高い金属音とともに、弾はその刃に弾かれ、倒れた男性の頬のすぐ脇を掠めて、明後日の方向へと逸れていった。




