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ミスコン!!  作者: ともやみやもと
1章 白鳥雪はアナウンサーになりたい
9/15

第八話 コーデバトル4 丸とアミリア


 コーデバトルが始まると、丸はちらりとアミリアを見た。


 アミリアの服装は、いつもとあまり変わらない。いわゆるスクープネックと言われるタイプの黒のトップスを着ている。首元は詰まっていて、生地が胸元まで三角形に広がっている。肩と背中が露出され、アミリアの胸の大きさと肩幅の広さが強調されるようなデザインである。


 ボトムスはと言うと、太ももから膝にかけてはタイトで、ひざ下から少し広がるブーツカットのケミカル加工を施された淡いデニム。


 丸はそれほどファッショについて詳しいわけではない。デザインよりも効率を重視するタイプであるので、同じ白いTシャツを七枚所持しており、毎朝の服を考える時間を極限まで減らしている。運動をするということもあり、速乾性の高い、さらさらとした素材のものばかり。ボトムも場合に応じて着分けるために、チノパン、デニム、スラックス、短パンをそれぞれ一着づつ。ボトムの色は全て黒で統一され、ある意味置きに行った服装をしていることが多い。


 機能があって、デザインがある。丸のファッションの理屈で言えば、アミリアの服装は必要以上に華美であり、デザインとして無駄の多いものが多い。それに、やはり大学生にしては露出が少し多いように思えた。あくまでもターゲットが大学生である以上、それについては一考の余地があるだろう。


「さて、どうしよっか」


 アミリアは右手をお尻のポケットに入れ、左手で軽く髪の毛を耳に掛けた。


 コーデバトルか、と丸は思う。普段あまり着飾る事のない丸にとって、どこから手を付けていいのか分からないような難題である。そもそも、ミスコンに出ている人間が皆ファッションに興味があるわけではないのだ。


「俺、普段同じような服しか買わないからなあ」


「まあ、言われてみればそんなイメージはあるかも」


「アミリアはどんな服買うつもりなんだ?」

 

「どうしようかな。あんまり決めてはいないけれど、いつも通りかな」


「いつも通りか」


 丸はついアミリアの全身を舐めるように見てしまった。それを察したアミリアは目を細めて、訝し気に丸を見返した。


「何?」


「いやいや、ごめん、何でもないよ」


「何でもないならキモいか。何でもなくないなら理由は聞くけど」


 それもそうか、と変に納得してしまった。意味もなくただじろじろ見たのであれば、それこそただの変態である。


「いや、なんていうか、こう、露出が多い気がして」


「ダメ?」


「いや、ダメとかそういうことじゃないけど」


「じゃあ何?」


「イメージ的にどうなんだろうと少し思っただけだよ。ミスコンって割と清純な感じを売りに出すのが一般的な気がするから」


 丸がそう言うと、「別にそんなことないと思うけど」とアミリアは少し考え、近くで山川さんと話していた洋平を呼んだ。洋平は振り返ると話を一旦中断し、こちらに向かってきた。


 自分で言っておきながら、何だか小さいことを気にしているようにも思えた。洋平に聞いたところで「なんでもええよ」と返ってくるのが山の関である。ただ、その判断がミスコン全体にとっていいことかどうかは分からないが。


「服って露出多かったらダメ?」


 アミリアは手を広げて、今自分が着ている服を洋平に見せた。


「別にええんちゃう?」


 洋平はおおむね想像通りの反応を見せる。そして、後ろにいる山川さんを呼び、アミリアの服装を見せながら


「これって露出多いですか?」


 と尋ねた。


「いいじゃないの。歳をとったら肌なんで見せられないんだし。出せるところは出しちゃって結構よ、まだ若いんだから」


 山川さんは、笑いながら右手でOKのサインを作りながら言う。言われてみればそれもそのはずで、色々なブランドを取り揃えているショッピングモールからしてみれば、様々な種類のコーディネートを提案してくれる方がありがたいに決まっていた。要するに、売れればいいわけで。


「じゃあ、私はこんな感じで。丸は?」


「まあ、ゆっくり見ながら考えるよ」


「そ。じゃあいこっか」


 他の二組に少し遅れて、二人はようやくエスカレーターで三階に向かった。スポーツ系のブランドにしか興味のない丸にとって、並んでいるテナントは始めて見るものばかりだった。ファッションに興味を持つきっかけとしてはちょうどいいのかもしれない。


 二人はとりあえずエレベーターで上がってすぐのお店に入った。アミリア曰く、ここは大学生になじみが深い有名なセレクトショップだという。自社ブランドの服がメインではあるが、少し値は張るものの、一部インポート系のものや、素材がしっかりとしたドメスティックブランドも取り揃えてあるのだとか。


 丸はとりあえず店先にあるジャケットを一枚手に取った。ショーウィンドウに飾られているマネキンが着ている、くすんだ緑色のデニムジャケットである。羽織ってみると、少しだけ肩がきつかったが、自分でも悪くないように思えた。


「お、いいじゃん」


 と隣のアミリアは悪くない反応を示した。


「悪くないよな? ちょっと肩がきついけど」


「でも体重落とすんでしょ? そしたら着れるんじゃない?」


 そう言えば、そんな話があったなと思い出す。ミスコン本番で丸はアミリアに背負い投げで投げ飛ばされる予定となっている。


「あれ、冗談だと思ってたんだけど本当だったんだ」


「え、めっちゃ本当のつもりだった。私と言うか、洋平がノリノリだったからさ」


「まあ、良いんだけど。でも俺柔道なんて授業でもやったことないんだけど、素人でも受け身とかできるもんなの?」


「練習すれば大丈夫だよ。それに、ちゃんと受け身が取りやすいように投げるつもりだから」


 アミリアは女性にしては身長が高い方だが、丸と比べれば十五センチくらいの身長差はある。ずいぶん簡単そうに言うが、そんなことは果たして可能なのだろうかと甚だ疑問ではあった。


「まあ、どのみち部活が終わって太るのも嫌だから、多少絞ろうとは思ってたからちょうどいいけどね。でも、お手柔らかに頼むよ」


 丸はジャケットを脱いで、値段を見た。すると、なんと五万円もする代物で、つい「高っ」と口を付いて出てしまった。


「いくら?」


「五万だって」


「全然足りないじゃん」とアミリアは笑う。「でも、普通のとは作りが違うのはぱっと見でわかる」


「確かにね」


 口ではそう言うが、やはり丸にはこれに五万円も払う気が知れなかった。自分が普段ランニングの時に使っている、雨を弾いてなおかつ汗を外に逃がしてくれるお気に入りのマウンテンパーカーでさえ一万ちょっとであることを考えれば、それが四枚買える計算である。


 丸はジャケットをそっとラックに戻し、難しい顔をして店内を歩き始めた。


「私これ着てみる」


 とアミリアが手に取ったのは、着物のように生地を前で交差して着る、ベージュのラップドレスだった。


 丸は試着室の前でなんとなく待ちながら、帽子を手に取ってみたり、アクセサリーをはめたりしていた。基本、アクセサリーはおろか腕時計すら邪魔に感じられる丸にとっては、あまり関係のないものであったが、興味本位で付けてみれば何か変わるかもしれないと、そんな期待があった。


「どう?」


 後ろから声が聞こえ、振り返ると着替えたアミリアがいた。先ほどまで来ていたトップスを脱いだようで、ラップドレスということもあり胸元が開けていた。そして何より丸が気になったのは、アミリアの下着が少し見えていることだった。カップの部分は見えないが、アミリアが少し動けば黒い肩ひもが見え隠れした。


「下着見えてるけど」


 丸ははっきりとそう言った。 


「変?」


 アミリアは驚く様子も、恥ずかしがる様子もなく、当たり前のように言う。


「え、何、見せてるの?」


「うん。見せブラ」


「え、なんで見せてんの?」


「可愛くない?」


「分からん。エロいが勝つ」


 丸がそう言うと、アミリアは溜息をつく。


「分かってないわね。これがいいんじゃない。だいたい、ちょっと下着が見えたくらいでぴーぴー言わないの」


「別にぴーぴーは言ってないだろう。と言うか、そういうファッションなんだとしたら、もっとハッキリ見せてる感じじゃないとわかんないだよ。今の感じだと意図せず見えてる感じがしてしまう」


「こんな感じ?」


 アミリアはこともなげに生地が交差した部分を少し広めに開いた。先ほどよりもしっかりと前を開けているので、紐どころか谷間まではっきりと見えていた。


 あまりにもはっきりと見えるもので、丸はつい目を逸らしてしまう。


「おう、まあ、そうだな。やっぱりやめておいたら?」


 丸が思ったのは、見せるにしてはアミリアの胸が大きすぎるということだった。胸が小さければそういうファッションとして成立するのかもしれないが、胸の主張が大きすぎるあまり、性的なニュアンスが強く押し出されてしまうのかもしれない。


 安直かもしれないが、アミリアのこういった開放的な性というものは幼少期をスペインで過ごしていたことと関わりがあるような気がした。彼女はからはどこか日本人にはないマインドのようなものをときおり感じることがある。


「何だそれ。小学生か」


 アミリアはそう言って試着室のカーテンを閉めた。ファッションだというのであれば強く否定するのも違うかもしれないが、ミスコンという枠組みを考えた時に、洋平や山川さんが許したとしても少しばかりやりすぎな感は否めなかった。


 二人は店を出て、アミリアが気になっているという店に向かった。アミリアは先ほどのドレスは購入せず、元の格好に戻っていた。見せブラの話があったからか、先ほどまで露出が多いと感じていたアミリアのいつもの服も、大したことないように思えてくるのだった。きっと、こうして人々は耐性を獲得し、ファッションというものが広がってゆくのだろう。そう考えると、丸は自分のファッション観が遅れているような気さえしたのだった。


「ちなみにこんなこと聞くのもアレだけど、アミリアって彼氏いるんだっけ?」


 歩きながら、丸は尋ねる。


「ん、いるよ。そんな畏まらなくてもいいけど」


「まあ、一応な。ちなみに、アミリアがさっきみたいな服装をすることは彼氏に何も言われないのか?」


 もし自分の彼女がそんな服装をしていたらどうだろうかと丸は考えるが、やはり少しいい気はしないような気がした。


「言われるよ。でも普通に黙らせるかな」


「どうやって?」


「殴って」


「いや、殴るなよ」


 丸が言うと、アミリアは笑った。


「あはは、ごめんごめんそれはさすがに嘘。でも、私がしたい服装を否定するような人とは一緒にいれないって付き合ってすぐのころに言ってあるから、今はもうあんまり言われなくなったよ」


「そっか。理解のある人で良かったな」


「まあね。なんだかんだ私には甘いからね」


「年上?」


「うん。今社会人二年目。私が大学一年生の時大学四年生だった人だから。丸は?」


 アミリアが丸にそう尋ねる。


「何が?」


「彼女とか」


「ああ、この間までいたよ。最近別れた」


「ええ、なんで?」


「なんでだろうな。なんか上手くいかないんだ」


 丸は自分でモテないことはないと自負している。だが、どうしてか、フラれるのはいつも決まって丸の方である。


「そっか、まあ色々あるよね」


 アミリアはそういう。心のどこかで「丸ってモテそうなのに」みたいなことを言われることを期待していた丸は、アミリアのあっさりとしたリアクションに拍子抜けしてしまう。


 そんな話をしているうちに次の店に辿り着いた。こちらも先ほどと同じようなセレクトショップである。先ほどに比べると少しだけ手ごろな価格であり、アミリアはよくここで買い物をするということだった。ざっと店内を見渡してみると、客層も全体的に若く、同じくらいか少し年上の人で賑わっていた。


「これ、いいんじゃない?」


 と、アミリアが丸に手渡したのは、メンズのポロシャツである。襟元に白いラインが入っていて、胸元にはワンポイントで花のようなマークが刺繍されている。非常に普遍的なデザインで、ファッションに対して保守的な丸にとっても手を出しやすいアイテムだった。


「着てみようかな」


 ポロシャツを受け取り試着室に入った。着ているTシャツを脱ぎ、鏡で自分の体の仕上がり具合を少し確認し、ポロシャツを被った。胸のあたりが少しきついかもしれないが、減量するならばちょうどよい着感になるだろう。


「どう?」


 丸はカーテンを開けてアミリアに確認してみた。


「いい感じ、似合う似合う。やっぱりポロシャツには筋肉だね」


 首元のボタンにぶら下がっている値札を確認してみると、七千円だった。シャツ一枚にしては少し高いが、自分の金でないのだからたまにはこういう服を買ってみるのもいいだろう。似合わなくても自分の財布は痛まない。


「これにしようかな」


「いいんじゃない? 人の金だし」


「そんなこと言うなよ」


 丸は笑ってそう言った。思ってはいるものの、言ってはいけないことである。


 丸はカーテンを閉め、再び着替えていつもの白のTシャツに戻った。手元には、パリッとした折り目の付いた、少しだけノリの匂いがするポロシャツがある。今まで感じたことのない高揚感のようなものを覚えた丸は、このポロシャツに合うボトムは何だろうかと考え始めた。


 売り場に戻った丸は、店のアイテムを物色し始める。残りは1万3千円で、この金額で買えるボトムとなると、かなり絞られる。ここに来て、先ほどまで皆が口を揃えて言っていた二万円で全身を揃えることの難しさを実感したのだった。


 ボトムとなると、より一層難しく感じられた。トップスであれば、プリントのデザインや色の具合、生地の厚みなどでアイテムの良し悪しを判断することはできるわけだが、ボトムの場合同じようなデザインばかりでそれを着た時にどのような着用感になるのか全く想像がつかないのである。しいて言えば、太さが少し違うくらいだろうか。


「私、これ着てみるね」


 と、少し離れたところで店内を物色していたアミリアが試着室に入った。わざわざ報告してくるということは、感想を求められているのだろうと思い、丸は試着室の近くに移動した。


「これ可愛くない?」


 カーテンを開けてアミリアが出てくる。彼女はセットアップのネイビーのスウェットを着ていた。上下ともにかなりボリューム感のあるデザインで、襟元がゆったりとしたデザインになっているため右肩が露出し下着の紐が露わになっている。そして、裾が短くかなり詰まった仕様になっているため、やはりへそが見えていた。アミリアはどうしても下着とへそを少し出さなければ落ち着かないのだろう。しかし、下着が黒いということもあり、先ほどのような露骨な感じはせず、自然なファッションとして認識することができた。


 スウェットといえば家で快適に過ごすためのものという認識があったが、こうして見てみると、そんな脱力感をファッションに昇華してしまう事だってできるのだと、感心する思いだった。


「良いんじゃない?」


「こういうの欲しかったんだよね。ストリートっぽくて可愛い」


「いくら?」


「上下で一万五千円」


「いいじゃん。買ったらいいんじゃないか?」


「そうだね。あと帽子かな」


 アミリアは試着したまま靴を履き、店内をうろうろ歩き回ると、帽子をいくつか手に取ってそれぞれ試した。そして、最終的に黒のバケットハットに決めた。


 バケットハットを合わせるとより一層洗練された印象になり、どこぞの韓国アイドルにも引けを取らなかった。


 アミリアはそれらを購入すると、店員さんにミスコンの企画であることを伝え、買った服を着ていっていいか尋ねた。店員さんはあらかじめ聞いていたのか、「やっぱりそうだったんですね」と快諾した。


「ボトム、どうするの?」


 すっかり服装を一新したアミリアは、早くしろと言わんばかりの面持ちだった。先ほどまで来ていた服は、スウェットを買った時にもらったショッピングバッグに無造作に詰められていてた。


「やっぱりジーパンかなあ」


 丸はなんとなく気になっていたデニムを手に取り、広げた。


「ジーパンて」とアミリアは笑う。「おじさんしかジーパンって言葉使わないよ」


「そうなのか。何て言うんだ? デニム? ジーンズ?」


「私はデニム派かな」


「その場合デニムジャケットはなんて言うんだ?」


「それはデニムジャケット」


「それはそうなのか。ファッション用語は本当にややこしいな」


 丸はそう言いながら、デニムを抱えて試着室に入った。とりあえず履いてはみるものの、良いのか悪いのかイマイチピンと来なかった。しかし、普段黒いボトムスばかり履いているので鮮やかな色に包まれている自分が少し新鮮に感じた。


「どうだろう。あんまりピンと来ないんだが」


 丸はカーテンを開けてアミリアに尋ねた。想像していたよりも太めのデザインで、ごわついた感覚が否めなかった。


「んー、別に変じゃないけどね。あんまり見慣れないけれど、普通に似合っていると思うよ」


「買っていいと思うか?」


「それは自分で決めなよ」


 アミリアは笑って言った。


 丸が時計を見ると、時間まで残り十分と言ったところだった。もう一店舗行くくらいの余裕はあるかもしれないが、そこでいいものを見つけられる保証などどこにもないわけで、そう考えるとここで買ってしまった方が良いかもしれない。


 もう一度鏡に向かい、全体像を見た。買うことが決まっているポロシャツにもう一度袖を通し、着用感を確かめる。見れば見るほどに、しっくりくる気がした。


「買おう。これ以上考えても仕方がない」


 丸はそう言って、二つの商品をレジに持っていった。洋平から預かった二万円を封筒から取り出し、トレーに置いた。


「良くお似合いでしたよ」


 店員さんは、クスっと笑いながら丸にそう言った。店員さんなのだからきっとそう言うだろうと思うが、それでも悪い気はしなかった。


「じゃあ、戻ろうか」


 すっかりと新しい服に身を包んだ二人は、来た道を折り返し、何気ない話をしながら洋平と山川さんの待つ一階のロビーへと向かった。

 



 




 





 

 





 














 

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