第九話 コーデバトル5 結果発表
僕と雪が急いで先ほどまでいたショップに戻って服を買い、走って一階の集合場所に戻る頃には他の組はもう揃っていた。
「一分一八秒遅刻やで。いや、一九秒。二十秒やな」
洋平は腕時計を見ながら言う。
「すみません。ちょっとのんびりし過ぎました」
呼吸を整えながら雪は言った。僕は少しだけ汗がにじんでいるのを感じた。洗濯できない素材だという買ったばかりのアロハシャツに汗が染みないか心配だった。
「お前アロハ買ったんか」
「あ、はい。僕じゃなくて、雪に押しつけられて買ったやつなんで文句は彼女に言ってください」
「おお、そうなんか。危うくこき下ろすとこやった。似合ってんで」
洋平はにこやかに親指を立てた。僕が不安になって雪を見ると、雪は「大丈夫大丈夫、たぶんね」と非常に自信なさげに言うので僕まで恥ずかしくなってくるのだった。
「まあ、洋平はファッションセンスないからね。何を言われても痛くもかゆくもないよ」
そう言ったのは、誰かと思えばアミリアだった。いつもは肌の半分以上を露出させて街を徘徊している彼女だが、突然ラッパーのような格好になっていたので一瞬誰だか分からなかった。
「アミリアはあと金のネックレスが合ったら最高やな。それに比べて丸はどうなんそれ。ポロシャツにデニムって、おっちゃんやん。もうちょい攻めたらよかったやん」
「いや、分かんねえんだよ、ファッションが、俺は」
「そんなてっぺーみたいなこと言うなよ」
洋平は丸を揶揄しながら同時に僕を揶揄した。見事な嫌味の二枚抜きである。
「で、なんなんこれは」
と洋平が次に目を付けたのは木ノ葉と安藤である。二人とも装いが新たになっており、とくに木ノ葉はいつもと少しテイストの違う、かっちりとした服装に身を包んでおり、大人っぽい色気のようなものを醸し出している。
しかし、そんなことよりも目を引くのが、安藤の手首がロープにくくられており、その反対側の端を木ノ葉が握っていることである。
「これ、犬のリードです」
と木ノ葉は答えた。
「なんで?」
「いや、あの後もこの子があっち行ったりこっちに行ったり大変だったんですよ。だから、百円ショップで買いました」
木ノ葉がそう言うと、ロープをぐっと引っ張った。すると、胸元の刺繍を気にしていた安藤は、まさしく犬のように木ノ葉の方を向いた。
「今、話聞いてた?」
木ノ葉は安藤に言う。
「ん、ごめん、聞いてなかった」
安藤がそう答えると、木ノ葉は楽しそうに笑い、「ね?」と洋平に不敵な笑みを浮かべた。ずいぶんと強引な手法ではあるが、木ノ葉は安藤を手懐けることに成功しているようだった。
「まあ、何はともあれ、あれやな、どうですか山川さんからはなんかありますか?」
洋平は山川さんに話を振ると、一歩後ろに身を引いた。
「どんな服を選ぶのかなって楽しみにしていたんですけれども、やっぱり皆さん個性的なものを選んでくれて頼もしかったです。毎年恒例でやらせてもらっているけれども、来年もお願いしちゃおうかしら」
山川さんは笑っていそう言った。
「まあ、来年は僕じゃないんですけれども、後任の運営長がいると思いますので、その時は何卒」
「それではそうね、私はここでさよならだけれども、この後は皆さん撮影してから帰るのよね? 気を付けて」
「お世話になりました。ありがとうございました。また結果の方が分かりましたらご連絡させていただきますので」
「洋平ちゃん、またご飯行きましょうね。美味しい焼肉屋さん見つけたから」
「え、いいんですか? ぜひまたお誘いいただければ」
「いいのよ? たまには洋平ちゃんから誘ってくれても」
「いえいえ」と洋平は少したじろぐ様子を見せる。「そんな滅相もありません」
洋平は深く頭を下げた。
ショッピングモールを出た僕たちは、ミスコンが始まった日に宣材写真を撮影したスタジオで再度撮影を行った。一組当たり、約五十枚ほどの写真を撮影し、その中から一枚を選択するというのは非常に難儀なもので、僕と雪がどちらもキレイな表情で写っているのは三枚しかなく、うち一枚は画角が少し傾き、一枚は僕のアロハシャツの襟が変な方向を向いていたので、結果的に消去法で一枚が選ばれた。
撮影が終わり、投稿を済ませると、この後バイトがあるという雪と丸を除いて五人で食事に行った。話というのはほんとうにくだらないもので、去り際の山川さんの一言が気になっていたアミリアが洋平と山川さんのただならぬ関係性を疑い、それに洋平が必死に弁明をするといったもので、僕は終始笑いながら聞いていただけだった。
家に帰ってきたのは夜の九時を過ぎた頃だった。久しぶりに一日中外で活動した僕は心身ともに疲れ果てていて、気が付いたら着替えもせずにベッドの上で眠ってしまっていた。
十一時半くらいに目が覚めて、さっそく皴になってしまっていたアロハシャツを手で伸ばしてクローゼットにしまい込んだ。地味な色のアイテムが多い僕のクローゼットの中に黄色い服が一着混ざり込むので異様な存在感を放っていた。
そして、スマホを見てみると、バイト終わりの雪から今日の撮った写真を送って欲しいと連絡が着ていたので、十枚ほどの写真をまとめて送ると、同じく十枚ほどの僕の写真が送られてきた。僕のスマホに雪の写真が入っているももちろん変な感じがするが、雪のスマホに僕の写真が入っているのはより一層不思議な感じがした。
写真のフォルダを何気なく遡ってみると、洋平やアミリアが映った食事の時の写真があり、雪の写真があり、顔合わせの時にプラットホームで撮影した木ノ葉の写真、そして、カラオケでみんなで撮った写真がある。そこからさらに遡ると、途端にに高校時代、そしてスマホを買った時に試しに撮影した実家の犬の写真まであっという間に辿り着いてしまった。枚数にしてみれば、僕がここ一ヶ月で撮った写真の方が、それ以前に撮影したすべての写真よりも多いくらいだった。
僕は美術の時間に撮影した弘樹の作品で手が止まり、じっくりとみた。よくある石膏でできた像の模写をするもので、僕は弘樹よりもずっと絵が上手かったので、影の付け方や光沢の出し方を教えていたのをぼんやりと思い出した。そして、僕の時間が停まっていたのだと、カメラフォルダを見てようやく思い至るのだった。
ミスコンの出場者と洋平、それから何名かときおり話す運営の人。止まっていた時間の中で突然現れた彼らは、こうしてカメラフォルダを見てみると、僕の人生をずいぶんと彩ってくれているように思えた。ここ一ヶ月で急激に動き始めた僕の人生は、写真に切り取って見てみれば、ずいぶんと華やかで充実しているように見えるのである。
僕は大きく溜息をつき、またベッドに横になった。くだらない動画を二時間くらい見て、電気を消して再び眠った。風呂と歯磨きは明日起きてからすればいい。
コーデバトルの結果が決まったのは、投稿から一週間後のことである。ルールでは、一週間後の同日同時刻に、一番いいねとりポスト数の合計が多かった組が勝つということになっており、勝った組にはショッピングモールでの商品券一万円がもらえるという。
勝ったのは、木ノ葉と安藤の組だった。次に反響が大きかったのは丸とアミリアの組で、僕たちが一番少なかった。
もちろんこの結果というのは自明であった。ミスコンはまだ始まったばかりで、徐々に増えてはいるもののほとんどフォロワーがいない。そのため、必然的に現実世界の交友関係がそのまま結果に直結する。つまるところ、友達が圧倒的に多い木ノ葉が仲間内の票を獲得したのだった。
そして、もしかしたら写真のインパクトも大きかったのかもしれない。洋平の指示で、安藤の犬のリードは外さずに、木ノ葉が後ろで突っ立っている安藤をロープで一生懸命引っ張っている写真を投稿したのだった。他の二組がいわゆるピースやらなんやらという凡庸な写真であることを考えれば、このコミカルな写真は二人のキャラクターや個性が伝わりやすいものだったことは間違いないだろう。
丸 龍太 280人
安藤 忠親 154人
萩原 鉄平 98人
桜田 アミリア 404人
秋野 木ノ葉 805人
白鳥 雪 677人




