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ミスコン!!  作者: ともやみやもと
1章 白鳥雪はアナウンサーになりたい
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第六話 コーデバトル2 雪と鉄平


 六人がペアごとに分かれてモール内の好きな店舗で自由に買い物をする時間になり、僕たちはとりあえず基準を定めるために学生が手を出せる平均的なお店に入った。試しにシンプルなTシャツの値段を見てみると、三〇〇〇円だった。安いのか高いのか、僕にはよく分からなかった。

 

 コーデバトル、そう銘打たれてはいるものの、負けたらミスコンのレースから脱落するといった厳しい制約があるわけではない、申し訳程度の競争である。最低限雪に迷惑をかけない範囲であればなんでもいいだろう。


「これ、白と黒どっちがいいかなあ」


 僕が適当に服を見て回っていると、二つのワンピースを交互に体に合わせながら雪が僕にそう聞いてきた。


「白じゃない?」


 僕はそう言った。


「白かあ。黒がいいんだけどなあ」


 雪は不服そうである。


「じゃあ聞かないでよ」


「だって私、名前が白鳥雪なんだよ? これで白を着たらいくら何でも白すぎると思わない?」


「いいじゃん、白すぎるに越したことはないでしょ。服も名前も心も」


「なんか、こう、狙ってる感じがしてウザくない?」


 雪は白いワンピースを体にあて、鏡越しに着用感を見ていた。


「別にそんなことはないと思うけど」


「そうかなあ」


「ていうか、雪もウザいとか言うんだね」


 少し驚いた僕はそう言った。


「ほら、そうなるでしょ? 例えばだけど、私の名前が白鳥雪じゃなかったら、別にそういう言葉を使っても変だと思わないと思うの」


「関係ある?」


「あるよ。たぶん」


「じゃあどんな名前が良かったの?」


 僕がそう言うと、雪は二つのワンピースを胸に抱えて少し考えた。


「アヤネとか?」


「どういう漢字?」


「糸へんに旬の絢に、音。それで絢音」


「白鳥絢音かあ。なんで絢音がいいの?」


「わかんないけど、わがままそうじゃない?」


「全国の絢音に失礼だね」


「それか、雪は雪でも、小雪がよかった」


「白鳥小雪?」


「そう。雪よりも小雪の方がわがままな感じがしない?」


「雪はわがままになりたいの?」


「そういうわけじゃないけどさあ」


 雪はそう言いながらワンピースを両方ともラックに戻した。


「てっぺーは? 自分の名前好き?」


「考えたことないよ。そんなこと」


「名前に鉄が入っているのに?」


「名前に鉄が入っていたら変?」


「そうじゃなくて」


 雪はそう言いながら一枚の黄色ベースの色鮮やかなアロハシャツを手に取りった。


「名前に鉄が入っていたら、こんな服着れないじゃない?」


 名前に鉄が入っていたらアロハシャツが着られないとは、分かるような、分からないような、ちょっと変わった感性の持ち主ではあるようだ。


「どのみちそんな服を僕は着ないよ」


「そうかなあ。もしてっぺーの名前がカズヤとかヒロキだったらアロハシャツも着ていたかもよ?」


「そうかなあ」


 僕がそう言って服を見ようとすると、雪はそのアロハシャツを僕に渡してきた。


「着てみてよ」


「本当に言ってる?」


 僕がそう言うと雪は笑いながら頷いた。渋々アロハシャツに袖を通して鏡を見ると、なんだかちんちくりんで小学生みたいな男が映っていた。


「んー、まあ、思ったよりも変ではないかも」と雪。


「変だよこれ」


「そう? 見慣れないだけじゃない?」


 僕はすぐに脱いでハンガーにかけ直して元に戻す。雪は再び服を物色し始めた。


「てっぺーはさ、彼女に着て欲しい服とかあるの?」


 店内を歩き回りながら雪はそう言った。


「何で?」


「だって、これ一応カップルの休日がテーマなんでしょ? 男の人ってどんな服装が好きなのかなって思って」


「まあね。どうだろ。彼女いたことないから分からないけど、好きな服を着て欲しいかも」


 好きな服を着て欲しいと言えば聞こえはいいけれど、言い換えれば何でもいいということでもある。

 

 雪は店内を一周したのち、再び先ほどのワンピースの前で立ち止まると、


「じゃあ、これでもいいんだ」


 と言って先ほどの黒いワンピースを引っ張り出した。


「まあ、そうだね」


「でもてっぺーはこっちがいいんでしょ?」


 雪はそう言いながら今度は白を引っ張り出した。


「いいというか、雪のイメージって感じかな」


「うーん。両方着てみようかな」


 雪はそう言うと、二つのワンピースを持って試着室に入った。カーテン一枚を隔てたところで雪が着替えていると思うと、そんなところで待っているのも変な気がしたので、僕は離れたところで服を物色することにした。


 ジーパンを二つ手に取った。一つは六千円で、もう一つは一万二千円。倍も値段が違うが、どっからどう見ても同じにしか見えない。どっちを買うかと言われれば、もちろん六千円の方を買うが、じゃあ六千円のジーパンと三千円の黒いズボンだったらどっちを買うかと言われれば、三千円の方を僕は買う。それなのに休日のカップルをイメージしたコーディネートを考えてくれなんて言われてしまったから、僕はどうしたらいいのか分からない。


 僕がジーパンを畳んで元に戻した時、遠くから「ねえ」と僕を呼ぶ声が聞こえた。試着室に戻ると、白いワンピースを着た雪が不服そうな顔で立っていた。


「普通こういう時は試着室の前で待ってるもんじゃないの?」


 雪はそう言う。


「そうなの?」と僕。


「わかんないけど、カーテン開けたら誰もいなくて悲しかったんだけど」


 雪はそう言って少し笑うと、


「なんかいい感じの帽子とってくれない?」


 と続けた。「なんかいい感じの帽子」と言われると難しいけど、麦わら帽子を見つけた僕はそれを手に取った。分からないけど、白のワンピースと言えば麦わら帽子という刷り込みがある。


「なに、ひまわり畑にでも行かせるつもり?」


 僕が帽子を渡すと、雪はそう言いながら帽子を被った。試着室の鏡で様々な角度からその具合を確認し、つばの高さや帽子の深さを調整していた。


「ちょっと写真撮ってくれない?」


 雪がそう言うので、僕がカメラを向けると、雪は帽子のつばを押さえて軽くポーズをとった。一発だったが、すごくいい写真が撮れた。


「写真撮られ慣れてるね」と僕。


「そんなことないよ。適当だよ」と雪。


「でも、木ノ葉はいい感じの写真を撮るのに二十枚以上撮影したよ」


 僕がそう言うと、雪は少し驚いた顔をした。


「木ノ葉の写真撮ったの?」


「うん。懇親会の後ね」


「そうなんだ。仲良いんだね」


「まあ、仲良いというほどのことではないけどね。たまたま帰りの方向が一緒だっただけだから」


 なぜか言い訳みたいな口調になってしまったが、雪はあまり興味がないといって様子で「そうなんだ」と言いながら再び試着室に入っていった。僕は近くの椅子に腰を掛けて雪が着替え終わるのを待っていた。


 少しすると、カーテンが開いて黒のワンピースを着た雪が現れて、それを見た僕は心臓がとまりそうになってしまった。さっきまでとは違ってすごく大人っぽくて、色気があった。色が違うだけでここまで印象が大きく変わるのかと思った。


「どうかな」


 雪はスカートを揺らしながらそう言う。


「いいと思う。すごく」


 僕がそう言うと、雪は振り返って試着室の鏡を見て頭を触った。先ほどまでかぶっていた麦わら帽子は、試着室の脇のフックに丁寧に掛けられていた。


「んー、でもやっぱり頭が寂しい感じがするなあ。帽子とってくれない? 野球帽みたいな形のやつ」


 雪がそう言う。僕は黒いニューヨークヤンキースの帽子をとって渡した。雪は「おー、これこれ」と満足そうに受け取るとそれを被った。帽子を被ると、大人っぽさが中和されてカジュアルになるような気がした。


「写真撮って」


 雪がそう言うので、僕はポケットからスマホを取り出してカメラを向けた。


「恥ずかしいから、あんまり見ないで撮って欲しいんだけど」


 雪はそう言う。


「いや、それは難しくない?」


「まあ、そうだよね」


 雪は帽子をもう一度かぶり直してこちらを見た。僕が「3・2・1」と合図を出して撮影するその瞬間、一瞬だけ雪は舌を出してウインクをした。今までの雪からはあまり想像がつかない表情に僕が少し驚いていると、雪は帽子のつばを手で下げて顔を隠した。


「ごめん、今のなし。忘れて」


 耳まで赤くなった雪がそう言う。雪があまりにも恥ずかしそうにするので、僕まで体が痒くなってくるのを感じた。


「そんなに恥ずかしいならやらなきゃいいのに」


「いや、だって、こういうこともやってけるようにならないとって、思って」


 雪は消え入りそうな声でそう言うと、ふうと息を吐いた。


「よし、次の店に行こう!」


 雪は気持ちを切り替えてそう言った。


 僕たちは少し価格帯が高い別のフロアの店に向かうことにした。雪曰く、一万円の物を二つ買うよりも、一万五千円の物を一つと五千円の物を一つ買う方が良いらしい。


「そういえば、てっぺーって彼女いたことないんだ」


 エスカレーターに乗ると、雪がはそう言った。


「まあ、うん。そうだね」


「好きな人は?」


「それはさすがにあるよ」


 僕がそう言うと、雪は「そうなんだ。ごめん」といって少し申し訳なさそうな顔をした。


「まだ何も言ってないけどね」


「あ、そうだね。ごめん」


 好きな人がいたにもかかわらず彼女がいたことがないということは、という話ではあるため、雪の反応は別におかしくも何もない。


「どんな人だったの?」


 雪が僕に聞く。


「んー。一番好きだった人は普通にクラスの人気者で可愛くて、誰にでも分け隔てなく話しかけてくれる人だった、かな。分け隔てなく仲良くしてくれるから、僕もよく話してて、それで普通に好きになった」


「チョロいね」


「そうだね」


「私は勝手に木ノ葉みたいな子を頭に浮かべちゃったけど、あんな感じ?」


「どうだろう。そういうわけでもないけかな」


「やっぱり男の人って結局木ノ葉みたいな子が好きなんだね」


「そういうわけでもないって言ったんだけど」


「でも、写真を撮ってあげたんでしょ?」


「まあ、そうだけど、それって今関係ある?」


「もし告白されたらどうする?」


「まあ、あれかな。仮定の質問には答えられないかな」


「なにそれ、政治家みたい」


 エスカレーターで三階に登ると、二階とは店の佇まいが大きく異なる店が並んでいた。先ほどまでは服が店の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれていた印象があったが、この階は店の広さに対して服の量があまりにも少ない。


「ちょっと喉乾いたからそこで休まない?」


 雪が指を差すので、見てみるとそこには休憩スペースがあって、自販機二つとベンチが三つか並べられていた。二つのベンチはそれぞれ、ベビーカーを押した母親と、カップルが座っていた。僕たちはそれぞれ飲み物を買い、間の一つに腰かけた。


「雪は? 彼氏いないの?」


 僕は缶を開けながら雪にそう聞いた。聞かれた質問を相手に返すというのが会話の基本であることを僕は承知していた。雪に彼氏がいないことは知っているけれど、僕がそれを知ってるのは変だから知らないふりをした。ここで応用を利かせられるほど、僕には会話の技量がない。


「いないよ」


 雪はそう言う。


「いたことは?」


 いたこともない。知っているけど、やっぱり知らないふりをした。


「ないよ」


「へえ。意外だね」


「そう?」


「好きな人はいたことあるでしょ?」


「まあ、昔ね。でも、アナウンサーになるって決めてからは、そういうのもない」


 雪はそう言うと、ペットボトルの蓋を取ってお茶を飲んだ。ショッピングモールが少し暑いので、僕お茶にすればよかったと後悔した。


「ずいぶんストイックなんだね」


「うん。やり過ぎじゃない? ってよく言われるけど、なんとなく、ね」


「なんとなくなんだ」


 僕がそう言うと、雪は足をぶらぶらさせて少し考えてからゆっくりと口を開いた。


「やっぱりアナウンサーになるには男性関係はキレイでいないといけないんだよね。普通のお付き合いくらいは別に問題はないけど、万が一変な写真とか出回っちゃったらその時点で内定は貰えないからさ。そこまで恐れる必要はないって分かってはいるんだけど、何が良くて何がダメかの線引きが難しいの。考えれば考えるほどにわかんなくなっていっちゃって、だったらもう全部ダメでいいやって思ったの。その方が変に悩まなくて済むしね」


「そうなんだ。だからカラオケにもいかなかったの?」


「うん。だって、万が一誰かが未成年飲酒でもしたら、その場にいるだけで私も飲んだと思われてもおかしくないでしょ?」


「でも、懇親会は来てたよね?」


「さすがにね。実はあんまり行きたくなかったけど、ミスコンで勝とうと思ったらやっぱりみんなと仲良くしていかないといけないって思ったの。だから行った。なんか打算的に聞こえるかもしれないけど、結果的には楽しかったし、みんないい人だし、良かったと思ってるよ?」


「そうか。まあ、雪がいいなら別にいいと思うけど。じゃあ、そういうのはアナウンサーになるまでナシなんだ」


「うん。そのつもり」


 僕は軽く頷いて、コーヒーを口にした。


 その言葉を聞いて、僕は気持ちが楽になるような気がした。もちろん、雪のことが好きというわけでもないし、そんな下心があるわけでもないが、僕の性格上相手がこちらに対して一本線を引いてくれるというのは、こちらとしても無理に仲良くなろうと気張る必要がないため、それはそれはありがたい話である。


 もちろん何かを変えたいという気持ちをもってミスコンに参加したということは忘れてはいない。けれど、物事をあまり性急に進めるのが苦手な僕の性というものがすぐに変わることはない。行動が考え方に結びつくのには、少しばかり時間がかかるものなのである。


「でも、ちょっと意外かも。てっぺーがそういうタイプの子を好きになるって」


 雪がそう言った。


「ずいぶん話を巻き戻したね」


「あ、ごめんごめん。今ふと思ったから言っただけ」


「雪って、ふと何かを思うことがあるんだね」


 ふと思った僕はそう言った。


「何それ、私を何だと思ってるの?」


「んー、何だろう。例えばだけど、日曜日に翌週分の夕食をまとめて作って冷凍するみたいな人だと思ってる」


「え、逆にしないの?」


 雪は少し驚いてそう言った。


「しないよ。だって、ふと何かを食べたくなったとしても、それがあったら食べられないじゃん?」


「それはてっぺーが栄養バランスとかを考えてないからでしょ?」


「考えてないね。ビタミンが酸っぱいことしか知らない」


「酸っぱいのはビタミンCだね。ビタミンもいっぱいあるんだよ? AとかDとかB1とかB2とか」


「ビタミンGは?」


「そんなのないよ」


「じゃあビタミンB1をビタミンBにして、ビタミンB2をビタミンGにすればいいのに」


「なんでGなの?」


「それは適当。別にFでもPでもKでもいい」


「ビタミンKはあるよ。っていうか、なんで今ビタミンの話してるの?」


 雪はは笑ってそう言う。


「知らない」


 僕がそう言うと、雪は「何の話してたんだっけ」と言いながら頭の中で会話を遡った。


「あ、そうだ、てっぺーが木ノ葉みたいな子を好きになるのが意外って話だ」


 雪が思い出してそう言う。


「せっかく話を逸らしたんだから、わざわざ思い出さないでよ」


「てっぺーって答えたくない質問が来たら話逸らすよね。だんだんわかってきた」


「言っておくけど、その子は別に木ノ葉みたいな子ではないよ」


「じゃあどんな子なの?」


「んー、難しいね。まあ、いいよそんなことは」


 その時、僕と雪のスマホが同時に鳴った。見てみると、洋平から「十分後に一回のロビー集合でよろしゅう」というメッセージと忍者恰好をした猫のスタンプがミスコンのグループチャットに送られてきた。


「え、十分後?」


 雪がそう言う。


「みたいだね」


「話し過ぎた?」


「みたいだね」


 雪は少し考えて、


「ねえ、さっきのにしない? 私は黒のワンピースを買って、てっぺーは黄色いアロハシャツ。お互いにらしくないものを買うっていうのはどう?」


 と言った。僕はあまり気乗りしなかったが、かといって他にいい案があるわけでもなかったので、渋々先ほどの店に戻った。


 最終的に、雪は黒の一万二千円の黒のワンピースと四千円のニューヨークヤンキースの帽子、それから四千円のシルバーのブレスレットを買った。

 僕は六千円のアロハシャツと、一万二千円のちょっといいデニムを買って、二千円余った。


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