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ミスコン!!  作者: ともやみやもと
2章 秋野木ノ葉は恋をしている
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第十三話 朗報

 




 パスタが食べたいと木ノ葉が言うから、木更津から戻ってきた僕たちは千葉駅で降りて駅中のイタリアンに来た。それなのに、木ノ葉は机に突っ伏したままで、カルボナーラを食べようとしない。


 駅中のイタリアンなんていうだけあって、提供は早いが味はイマイチである。こんなことならばもう少しマシな店を探すことだってできたわけだけど、遠くへ行くのはめんどくさい、かといってお腹が空いているわけでもないからゆっくりしたい、でもカフェはやだ、立ち食いそばなんて論外、そんな木ノ葉のわがままを聞いていて、消去法的にこの店が選ばれたわけである。


 僕はジェノベーゼを食べながら、時々机の真ん中に浮いているお団子を指で弾いていた。プルプル揺れて、ゆっくり止まるのが面白かった。


「元気出せって」


 僕は卓上の粉チーズをお皿いっぱいに掛けた。チーズで誤魔化せば、それなりに食べられるようになる。


「無理」


 突っ伏したまま、木ノ葉はそう言った。


「まあ、そういうこともあるよ」


 友達を励まし慣れていない僕は、型枠で成形したようなありきたりな言葉しか出てこない。


「洋平さん、最低な人だったんだね」


 最低、は少し言い過ぎではないだろうか。色々と引っかかるところはあるが、結果がどうであれ、元より洋平からしてみれば木ノ葉の好意など知ったこっちゃないわけで、彼は彼なりに普通に生きていただけである。それを勝手に後を付けられて、判断されて、むしろ可哀相なのは洋平である。


 そう考えると、木ノ葉が可哀相に思えてくるのだった。一生懸命頑張った結果、ここまで凹んでしまった挙句に可哀相なのが自分ではなく洋平なのだから。


「ミスコンって、途中でやめれるのかな」


 木ノ葉はやはり突っ伏したまま言う。


「さあ」


 僕はパスタをクリクリ巻いて口に運んだ。


「もう意味なくない? どうせ雪が勝つんだから」


「まあね」


「だいたい何なのミスコンって。何が楽しいの?」


 木ノ葉の怒りの矛先が洋平からミスコンに変わってゆく。


「ムカつくわ。ほんとに」


「ミスコンが?」


「洋平が」


 木ノ葉は洋平を呼び捨てにした。


「てっぺーってなんでミスコン出てるんだっけ?」


 木ノ葉は首の向きだけ変え、腕を枕のようにして横を向いた。


「まあ、友達が欲しかったからかな」


「良かったね。友達できて」


「友達って?」


「え、私友達じゃないの?」


 木ノ葉は体を起こした。


「いや、友達だよ」


 僕はそう言った。僕自身木ノ葉のことは友達だと思っていたし、木ノ葉もきっと僕のことを少なくとも嫌いではないだろうとは思っていた。それでも、はやり改めてはっきりとそう言われるとなんだか体がむず痒い。ましてや、女の人の友達というのは、僕の人生に今まで一人もいなかったわけで。でも、悪い気はしない。


「はーあ。どうしようかな。私何のためにミスコン出たんだろう」


 木ノ葉は頬杖をついて、むすっとしながらカルボナーラを巻き、口に運んだ。


「別に、洋平さんと葛西が付き合ってるって決まったわけじゃないんだから」


「でも平日にお泊りなんて、それなりの関係性でしょ」


「まあね。それか、まあ、略奪愛?」


「それはなあ、後味悪い」


「木ノ葉にもそういう概念あるんだね」


「あるよ」と木ノ葉は笑った。「高校の時そういう人たちいなかった? そういうのってなんか得るものよりも失うものの方が多い気がするんだよね。だって、そうでしょ? ほとんどのカップルはいつか別れるわけで」


「そんなこと言ったら、友達だってそのうちいなくなるけどね」


「いや、友達はいなくならないでしょ」


 木ノ葉はそう言った。誰でも知っている、当たり前のことみたいに言うもので、果たしてそうだろうかと、そんな疑問を挟む余地もないくらいである。


 きっとこれが一般的な感覚なのだろう。僕と木ノ葉は友達であり、それはきっと永遠に続く。そんな楽観的な認識を共有することで、人は繋がりを意識し、それに寄り添って生きてゆく。


 だけれど、やはりそれは僕には少し難しい。どうしてもいつかなくなると、そんな風に思ってしまう。それは必ずしも死ぬことではない。なんとなく疎遠になってゆき、少しずつお互いの人生からフェードアウトしてゆくことが多いだろう。ましてや男と女であればなおのこと。例えばどちらかが結婚をすれば、気軽に会うことはできなくなる。


「そうだといいけれど」


 僕はただそう言った。


 その時、ポケットが小さく振動した。スマホを取り出してみると、ミスコンのグループラインに洋平からの通知が来ていた。


 僕は画面を開いた。



 『こんにちは。皆さんのおかげで大きな仕事が舞い込んでまいりました。この度、七月十二、十三の土日に木更津の旅館でロケを敢行する運びになりました。つきましては、何としてもその二日間は空けていただきたく存じます。ご親族の方々にも、その前後では死なないように取り計らっていただけると幸いです。取り急ぎご報告まで。詳しい活動内容については後日会議で共有したいと思います。では。アディオス』



「木ノ葉、スマホ見ろ」


 僕がそう言うと、木ノ葉はのっそりと起き上がり、スマホを手に取った。木ノ葉が画面に目を向ける

と、わかりやすく目がどんどんと大きくなっていった。


「え、これ、さっきのとこだよね?」


「そうだと思う」


「じゃあなに、仕事で行ってたってこと?」


「そうだと思う」


「じゃああの人は彼女ではないってこと?」


「そういうことになるね」


 厳密に言えばそれとこれは関係ないが、ここで水を差す必要もないので僕はそう言った。木ノ葉は手を口に当てて、ちょっとだけ泣いた。


「えー、どうしよう。なにそれ、ずるい、好き」


 木ノ葉は感極まってそう言う。


「どうしよう。もう無理。好き。本当に好き」


 木ノ葉はそう言いながらグループラインに「好き!」と送った。洋平からは、すぐに「苦しゅうない」

と送られてきた。


 考えてみればすべては木ノ葉のひとり相撲であって、実のところ驚くほど何も起きていないわけだが、一人で勝手に落ち込んでいた木ノ葉にとってはこれほど嬉しいニュースはない。


 木ノ葉はスマホをテーブルに置くと、パスタをズリズリと食べ始めた。


「えへへへ、美味しい。あはは」


 木ノ葉は気持ち悪い笑みを浮かべながらそう言った。頭にちょこんと載ったお団子が、またぴょこぴょ

こと動き始めた。





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