間章 菜々美の夢
その夢を、菜々美は何度も見る。
夜が深まり、静寂が世界を包むころ。
まぶたを閉じると、そこには見たこともない風景が広がっていた。
石畳の城下町。輝く魔法陣。剣と鎧に身を包んだ人々。
まるでゲームかアニメのような“異世界”の光景。
そして、その中心に――いつもひとりの青年がいた。
金でも銀でもない、どこか懐かしい光を持つ瞳。
落ち着いた声と、誰かを導くような背中。
見知らぬ顔、異なる名前、けれど――菜々美には、はっきりと分かっていた。
――あれは、兄だ。
夢の中で、その男は剣を振るい、誰かを助け、仲間と笑い合っていた。
その横顔は、現実で失った兄の面影そのものだった。
最初は偶然かと思った。二度、三度、偶然にしては奇妙な一致だった。
けれど、それが十夜、二十夜と続き――菜々美は確信するに至った。
「……お兄ちゃん、生きてる」
現実では、兄は死んだ。自分をかばって、事故に巻き込まれて――その命はもう、この世界にはないはずだった。
けれど、夢の中で彼は生きていた。違う名前で、違う世界で、それでもまっすぐに、変わらぬ優しさで誰かを守っていた。
「姿が違っても、分かる。私が見間違えるわけない。だって、世界で一番大切な人だもん」
涙がこぼれそうになっても、菜々美は笑った。
自分だけが知っている秘密のように、この夢の存在を胸にしまいながら。
それからの彼女は変わった。
学校でも、日々の生活でも――笑顔を絶やさなくなった。
眠ることが、怖くなくなった。
むしろ、夜が待ち遠しかった。
夢の中で、兄に会えるから。
触れられなくてもいい。声を交わせなくてもいい。
ただその姿を見るだけで、生きる意味を思い出せた。
「きっと、会える。いつか必ず、また――」
星が瞬く窓の外に、菜々美はそっと願いをかけた。
届かなくてもいい。ただ、伝えたい。
大好きなお兄ちゃん。私は、あなたを待ってるよ




