幕間2
謁見が終わり、玉座の間を下がったユーリは、しばしの安堵を感じながら石造りの廊下を歩いていた。
エルナは少し疲れたと言って先に控室に戻っていた。
だから今、彼はひとりで、城の中庭に面した小道を歩いている。
「……本当に、終わったんだな」
森での激闘、ダランとの因縁、精霊王との別れ、そして――新たな爵位と領地。
すべてが、一つの節目となって静かに過ぎ去ろうとしていた。
そんなとき――
「……コホン」
控えめな咳払いとともに、後ろからふわりと花の香りが漂った。
振り返れば、そこに立っていたのは――王女、エステル。
それも、儀礼の衣装ではなく、軽やかなドレスに身を包み、ほんのり頬を赤らめた少女の姿だった。
「ユーリ・フォン・コーリング。少し、時間をいただけますか?」
「……エステル殿下」
「殿下なんて、固いですわ。エステルとお呼びくださいな。だって――私、あなたの唇を奪ったのですもの」
彼女の微笑はどこか拗ねたようで、しかしどこまでも真剣だった。
「さっきの謁見でのあなたの言葉……妻として迎えたい、なんて。びっくりしましたわ。けれど……納得も、しました」
言葉を選ぶように、彼女は視線をそらす。
「だって、あの精霊の娘さん……とても綺麗でしたもの。まるで、童話から抜け出してきたような」
「……」
「でもね、私、諦めませんわよ」
再び視線を合わせたエステルの瞳は、まるで夜空の星のように強く輝いていた。
「あなたのことを、ちゃんと知りたい。あなたともっとお話しして……もう一度、唇を奪いたいですわ」
言い終えると、少女はくるりと踵を返し、さっとその場を去っていく。
残されたユーリは、少しだけ困ったような、それでもどこか嬉しげな笑みを浮かべて、風に揺れるドレスの裾を目で追った。
「……また、面倒な人に好かれてしまったな」
けれど、その声にどこか温かさがあったことを、彼自身がまだ気づいていなかった。




