幕間 恋する王女の気持ち
わたくし、エステルはこの王国の第一王女であり、誇り高き王家の令嬢。
でもね、誰にも言えない秘密があるの。
それは――
……わたくし、恋をしてしまったのですわ。
ええ、とってもとっても突然に、しかも、信じられないような形で。
あの日のこと、今でも忘れられない。
父上に呼ばれて、久しぶりに謁見の場に顔を出したとき。
そこにいたのは、一人の騎士でも貴族でもない、ちょっと野暮ったいけれど、目だけは真っ直ぐで強い少年。
彼の名は――ユーリ・フォン・コーリング。
ちょっとした不注意でぶつかった拍子に、彼の顔が近づいて、そして――
「んっ……!」
……ちゅっ。
信じられない。
初めてのキスが、そんな風に、事故のように訪れるなんて。
もちろん誰にも言えなかったわ。だって、あれは本当に事故だったのよ?
でも、その時――
彼の目が、わたくしを真っ直ぐに見つめたの。
責任を取るとか、言うわけでもなく、慌てるわけでもなく。
ただ、「ごめん」と、静かに、真剣に。
急いでいたみたいで、そのまま去ってしまったけれど…
それが逆に、なんだか胸に響いてしまって――
「……あれは、なんだったのかしら……?」
それからというもの、夜になると、胸がきゅっと締め付けられるような想いに襲われる。
頬が熱くなる。
鏡の前でため息をつく。
つい、手紙でも書こうかと思って、でも書けなくて、ぐしゃぐしゃに丸めて捨てる。そんな日々。
わたくしは恋をしている。
名前を聞いたのも、その時だったのに。
侍女を使って調べさせたりもした。
彼の顔が、声が、頭から離れない。
「次に会えたら……ちゃんと、ちゃんと話すんだから」
そう、心に決めていた。
だから――
あの謁見の場で再会した時、わたくしの心は限界を迎えていたのよ。
だって、あんな風に美しい少女を連れて、しかも「妻として迎えたい」だなんて。
「ずるいですわ! あまりにも!」
気づけば、声が出ていた。抑えられなかった。
彼が自分のものじゃないと知ったときの、あの胸の苦しさ。
それは、ただの憧れなんかじゃない。
本当に、恋をしていたんだって――あの瞬間、ようやく気づいたのよ。
だから、これで終わりにするつもりなんて、まったくないの。
ええ、恋の戦いはここからですわ!
絶対に、負けたりなんかしませんもの!




