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巨大な扉が軋むような音を立てて開かれると、衛兵の声が高らかに響いた。
「ユーリ・フォン・コーリング殿、入廷!」
一歩ずつ赤絨毯の上を進むたびに、無数の視線が彼に注がれる。左右に並ぶ貴族たち、王国軍の重鎮たち、そして玉座に鎮座する国王。その傍らには、見覚えのある白銀の巻き髪の少女が立っていた。白いドレスに身を包み、微笑みを浮かべるその姿――エステル王女だった。
(また面倒なことにならなきゃいいけどな……)
心の奥でそんな不安を抱きながらも、ユーリは王の前まで進み、膝をついて頭を垂れた。
「よくぞ戻った、ユーリ・フォン・コーリング。そなたの帰還を皆、待ち望んでいたぞ」
「恐れながら、陛下。任務は無事、完了いたしました。……精霊の森の異変は、解決されました」
重苦しい沈黙が数秒続いたあと、王はゆっくりと頷いた。
「うむ……詳しく報告を聞こう」
ユーリは立ち上がり、簡潔ながら要点を押さえた説明を始めた。闇の組織、キメラの存在、そして黒幕である精霊族の追放者・ダランの暗躍。彼が精霊の森を実験場として利用していたこと。そして――
「……そのダランは最後に“鍵”と呼ばれる何かを発見し、転移魔法で姿を消しました。それと、祠の宝玉を破壊されたことで森の結界は一時失われました」
「結界はどうしたのだ? 森は今、無防備なのか?」
「いえ、創造の加護の力を用い、代替となる宝玉を――完全ではありませんが、機能する結界を再構築しました。言いづらい事ですが結果としてそれは、精霊の森を守るという効果ではなく、私の領域――土地を守る宝玉となったようです」
ざわつく貴族たち。その中で、王は静かに目を閉じ、考えを巡らせる。
「つまり、その森は今、そなたの加護に守られているということか」
「……はい、陛下」
「ならば、その森周辺をそなたの新たな領地とするのが自然であろう。父君と同格、伯爵としての名を授け、精霊の森とその周辺地域を領地として治めよ」
一瞬、場が静まり返る。
だが、次の瞬間――
「さすがですわ、ユーリ様は私の唇を奪った男ですもの」
朗らかに、あまりにも場違いな調子で放たれた声に、全員が一斉にそちらを向いた。
「な……!」
ユーリが驚きに目を見開く。玉座のすぐ傍で微笑むのは、他でもないエステル王女だった。白銀の髪が揺れるほどに堂々と、彼女は両手を腰に添え、誇らしげに言い放った。
「陛下、ご報告が遅れましたが……この者は、以前私の唇を奪い去った、“勇敢な”殿方ですわ」
「エ、エステル様――!」
ユーリは慌てて制止しようとするが、時すでに遅し。場内は騒然とし、貴族たちの間からもざわめきと戸惑いの声が漏れる。
「ほう……なるほど、それは覚悟あってのことかユーリよ」
王が目を細める。
「ち、違います! そ、それはただの事故で、ぶつかった拍子に――!」
「まあまあ、そんなに慌てないで。あれは“運命の出会い”というものでしょう?」
ウインクを飛ばすエステルに、ユーリはどう返せばいいのか分からず、額に手を当てた。
(……だから嫌だったんだ、王族の前は……)
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玉座の前。謁見の場にはまだ先ほどのざわめきが残っていた。
だが、ユーリはその空気を切り裂くように、静かに、そして力強く口を開いた。
「陛下、もう一つ……ご報告がございます」
王は目を細め、頷く。
「申してみよ」
「今回の任務において、私は一人の少女と共に戦い、共に生死をくぐり抜けました。……彼女は、かつて精霊族の王女であり、今はただ一人の生き残りです」
周囲がざわめく。
「精霊族の王女……?」「まさか、生きていたのか……?」
「彼女の名はエルナ。私は彼女と、婚約を結びました。……彼女を、私の正妻の1人として迎えたいと考えております」
その瞬間――
「ちょ、ちょっとお待ちなさいませ!!」
甲高い声が謁見の間に響き渡った。声の主はもちろん、エステル王女である。
「王女と! つまりお姫様と! 二人続けてお姫様を妻にしようとおっしゃるの!? ずるいですわ、それはあまりにも……」
「……いや、ちょっと待て、エステル様。俺はあなたを――」
「な、なんですの? 何か文句でも? あれは事故ですって何度も言いますけど、わたくしの唇を奪っておいて、そのまま逃げようなんて、絶対に許しませんわよ!」
「話が飛躍してる! 俺は逃げてないし、そもそも逃げ場がなかったし!」
そんな二人の応酬に、謁見の場がまたも騒然とする。が、当のエルナはというと、いつものように落ち着いた目でエステルを見つめ、やや困ったように首を傾げた。
「あなたはユーリの事が好き?」
「そ、そんなこと!? わたくしは――!」
「心配しないで。私はユーリが選んだ道を信じているし、私も彼を選んだ。だから、誰が何と言おうと、私は引かない」
その毅然とした言葉に、一瞬エステルは言葉を詰まらせた。そして、ぷいと顔を背けて一言。
「……ふん、女の戦いは、これからですわ」
王が軽く咳払いをして場を整える。
「……うむ。どうやら、そなたの周囲はなかなか賑やかなようだな、ユーリ・フォン・コーリング。だが、今の時代、真の力を持つ者にこそ、新しき時代の礎を築く資格がある」
王は再び立ち上がり、正式に言い渡す。
「よって、そなたを伯爵とし、新たに“精霊領”を賜る。そして、その正妻として精霊族の姫・エルナを迎えることを、この王が認めよう」
「……畏まりました。身に余る光栄です、陛下」
ユーリは深く頭を垂れ、その傍らでエルナも静かに頭を下げた。
その姿を、王は満足げに見つめ、そして横目で――まだ少し不機嫌そうなエステル王女を眺めて、苦笑した。
「……さて。今後がますます楽しみだな」




