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電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第十一回 分裂司令官の陰謀の巻
86/90

十二

 いた!

 たった一度、垣間見た、お蘭の細いおとがい、やや浅黒い肌。つむっていても、切れ長の、大きな瞳が億十郎の視界に飛び込んできた。

「お蘭殿!」

 駆け寄り、肩に手を伸ばそうとした億十郎を、理恵太が鋭い叱声で止めた。

「やめなさい! 何をするつもり?」

「えっ?」と、億十郎は顔を挙げ、理恵太と目を合わせる。

「何を……? 決まっておる! すぐさま、娘御たちの目を覚まさせるのだ! 偽の記憶など、刻み付けさせて堪るか!」

 同情するように、理恵太はゆっくりと頭を振った。

「気持ちは判るけど、この状況で強引に目を覚まさせるのは、考え物よ。今の娘さんたちは、あたしたちが仮想現実に接続しているのと同じ状態なの。もう一つの世界で、長い夢を見ているのよ。無理に接続を断つと、悪い影響が残るわ。夢で見た記憶と、本当の記憶が入り混じり、どっちが自分か判らなくなって、あとで困るわ」

 億十郎は、苛々と拳を前歯で噛んだ。

「糞っ! では、どうすれば良い?」

 アイリータと、理恵太が、じろっと二十六号司令官を睨んだ。

 司令官は、ぎくりと背を反らせ、たじたじと後じさる。

「な、何だ、その目はっ!」

 アイリータが押し殺した声で迫った。

「記憶消去の手順を教えなさい。ここにいる全員に刻んだ、偽の記憶を消すのよ! あんたなら、できるでしょ?」

 ぐるりと、億十郎は、二十六号司令官に向き直った。怒りに、全身が小刻みに震えるのを、抑え切れない。

「本当か? 本当に、お主なら、娘たちに刻んだ、偽の記憶を消せるのか?」

 全身全霊を込めて、億十郎は司令官を睨み据えた。怒りが物理的な迫力となって、司令官に突き刺さった。

 司令官は、さっと顔を青褪めさせた。ぴくんっ! と全身の筋肉を硬直させ、ただただ呆然と億十郎の視線を受け止めている。

「よせ……よせ……っ! 近づくなっ!」

 悲鳴を上げ、首を何度も横に振る。だが、全身は凍りついたようにびくとも動かない。

「今すぐ、娘たちに刻んだ嘘の記憶を消せっ! そして、元に戻すのだっ!」

 億十郎は大喝した。

 びくうっ! と司令官は全身を慄かせ、ぴょんと、その場で飛び上がった。

「は、はいっ! 今すぐ、いたしますっ!」

 甲高い声を上げ、直立して、ぎくしゃくと茶酌み人形のように、ちょこちょこと小走りになって、部屋の隅に歩いて行く。

 ふうーっ、とアイリータが息を吐き出した。

「今のは、凄かったあ! あたしも、あんたの怒りに、倒れそうになったもん!」

 理恵太も、顔を蒼白にしている。

「あたしも……。何だか、自分が怒鳴りつけられているみたいだったわ!」

 億十郎は恥じ入った。

「申し訳も御座らん……」

 司令官は、猫背になって、装置に向き合っている。手許が素早く、装置の抓みや、取っ手を動かしていた。

 ちら、と億十郎は司令官を見た。

 司令官が顔を挙げ、億十郎に視線をやる。

 凝然と、億十郎の胸に、氷が居座った。

 何と、司令官は、億十郎の顔を見て、冷笑を浮かべたのである。

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