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電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第十一回 分裂司令官の陰謀の巻
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十三

「何をしたっ!」と叫び掛けた億十郎の声は、出し抜けに巻き起こった喧騒に、瞬時に掻き消された。

「敵襲っ! 敵襲っ! 敵機甲部隊、接近中! 爆撃機も確認!」

 廊下から、拡声器が喚く。司令官の声だ。もちろん、すべての司令官は、同一人物が分裂したものだから、同じなのも当たり前である。

 アイリータが、さっと青褪めた。

「どうしよう! こちらには、一人も兵士は残っていないわ!」

 ずしずしずし……と、遠くから地響きが伝わる。同時に、どおおおん……と、砲撃音が混じった。

 理恵太が叫んだ。

「娘さんたちを、どうするのっ?」

 アイリータは二十六号司令官に詰め寄った。

「司令官っ! ここで江戸仮想現実に繋がる関門を造れるんでしょ? その装置は、向こうのアジトを制御するためよね?」

 二十六号司令官は、ぽかんと大口を開けている。詰め寄られ、がくがくと頷いた。

 億十郎は大股で近づき、喚いた。

「本当か? 本当に、ここから江戸へ戻れるのか?」

 億十郎の、必死の気迫に、司令官は歯を食い縛った。抵抗しようと試みたらしいが、億十郎の気迫が勝っていた。

「も、戻れる……。こちらから、江戸に繋がる関門を作り出せば、向こうへ戻れる!」

「すぐやれっ!」

 億十郎は、全力で叫んだ。

 弾かれたように、司令官は装置に向き直った。両手が狂おしく動き、操作する。

 一方の壁が、ぼうっと滲んだような光を放ち始める。と、真ん中に一筋、剃刀で切ったような細い線が出現した。線はぐーっ、と横に広がり、壁一面を占める。

 関門が開いた!

 開いた関門の彼方は、真の闇である。

 が、どっと向こうから、新鮮な空気が室内に雪崩れ込んだ。微かに、風も感じる。明らかに、向こう側は別世界だ。

 億十郎は、寝そべっているお蘭に近づき、ぐっと抱き上げる。理恵太も、近くに目を閉じている娘を抱き上げた。さすがに【遊客】の膂力は素晴らしく、自分より明らかに大柄な娘を、軽々と持ち上げている。

 億十郎はアイリータに命令した。

「お主も手伝え!」

 呼び掛けられ、アイリータは目が覚めたように顔を挙げ、自分も眠っている娘を抱き上げる。

 それが切っ掛けで、三人で寝そべっている娘たちを、関門を越えて運び込んだ。向こうは暗いが、室内の明かりで地面の様子は見て取れる。地面はしっとりと湿っていて、見上げると夜明け前の、暗い空が見えた。

 お蘭を最初に、三人で夢中になって、意識のない娘たちを移動させる。意識を喪失状態の人間の身体は、これほど重いものかと、億十郎は思い知った。

 ぐったりとした身体を運び上げ、怪我のないように、そっと下ろす。その作業を何度も、何度も繰り返した。

 ようやく総てが終わり、億十郎は疲労にがっくりとなっていた。さすがに、一人当たり十人以上を運ぶのは疲れる。

 くるりと振り向くと、何もない場所に、四角い空間が切り取られ、室内の様子が見て取れた。アイリータと司令官は、室内に残り、億十郎と理恵太は江戸の地面に立っている。

 娘たちが寝かされていた室内には、敵の攻撃らしき音が、ずしずしと響いていた。

 天井からぱらぱらと埃が落下し、近くに落ちた爆弾の衝撃で、壁に亀裂が走る。

 アイリータは億十郎に向き直った。目が真剣である。

「こっちの、江戸に関門を作り出した装置は、あたしが責任を持って破壊するわ! もう、江戸仮想現実と〝戦略大戦世界〟が繋がる事態は、二度と起きないでしょう」

 言葉を切り、アイリータは理恵太を見た。

 理恵太はアイリータの言葉に、身を固くしている。アイリータは、優しく話し掛けた。

「あんたは、江戸にいるべきよ」

 アイリータの言葉に、理恵太は顔を上げた。唇が微かに震えている。アイリータは、ゆっくりと首を振って、言葉を重ねる。

「そう。あんたも思っているでしょ? 今じゃ〝戦略大戦世界〟は、あんたの世界じゃない。あんたの世界は、江戸仮想現実よ」

 顔を上げた理恵太は、大きく目を見開いた。

 理恵太の視線を追った億十郎は、アイリータの背後から、二十六号司令官が忍び寄る光景を捉えていた。

 手には、どこに隠していたのか、短剣を構えている。司令官が、アイリータの背中に短剣を振り上げ、突き刺そうとしていた。

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