↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の森で、今日もふたり暮らし  作者: なお。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/13

第12話 森に立ち昇る煙

リシェルが帰ったあと、俺たちは残った肉をどうするか考えていた。


「……さて、こっちはどうするかな」


「まだあるねぇ」


「せやねん。せっかくの肉や。腐らせるわけにいかんで」


 生の肉を長く置いておくわけにはいかない。


「こいつは一旦天日干しにするとして、もっかい燻製を試してみるか。今度は、この前みたいに煙を当てるだけやなく、ちゃんと小屋も作ろう。燻製小屋の作り方、調べられるか?」


「うん。調べてみるね。けど、前も言ったけど燻製だけで、どれだけ保存期間が延ばせるかは、うちにもわからへんで?」


「塩も無い今の状況やったら、それ以外方法ないやろ」


「わかった。ちょっと待ってな」


 アイは目を閉じて、両手をこめかみに当てた。


 その間に俺は残った肉を切り分け、日当たりと風通しのいい場所に吊るした。



*



 それから、また何日か経った。


 俺たちはシェルターのそばに、小さな燻製小屋を作っていた。


 骨組みは枝を組んだ簡素なものだ。壁もシェルターと同じように、枝や葉を使っている。地面を掘り下げて火床を作り、そこから小屋まで煙道を掘った。その上に木の板を並べて蓋をしてある。


 小屋の中には肉を吊るす場所を作り、下から上に煙が流れていく作りだ。


「臭っ!……くそ、いくつか腐ってもうたな……」


「天日干ししてただけやもんね。しゃあないよ」


 俺たちは匂いを確かめながら、肉を吊るしていった。


「……よし、こんなもんかな」


 肉を吊るし終え、俺は火床に薪を置き、火をつけた。


「……何をしているの?」


 不意に、背後から声がした。


 振り返ると、リシェルが立っていた。


 彼女は俺たちを見ると、次に燻製小屋へ目を向けた。


「あぁ、リシェル。これか? 肉を燻製にしてるんや」


「燻製?」


「燻製を知らんのか? 煙に当てて、燻すんや。うまいこといったら、今より長く保存できるはずやねん」


 俺は焚き火の調整をしながら答えた。


 炎が大きくならないように気をつけながら、煙が出るのを待つ。


「アイ、ちょっと扇いでみてくれるか?」


「はーい」


 アイは枝葉を手に取り、火床のそばにしゃがんだ。


 ゆっくりと枝葉を動かす。


 火が揺れ、煙が立ち上った。


「もうちょい弱めでええよ。急がんでええから」


「これくらい?」


「うん、そんな感じや」


 俺は煙道の板を一枚ずらし、溝の中を覗き込んだ。


 煙は流れていた。板を戻し、燻製小屋へ向かう。


 小屋の中を覗くと、下の方から入った煙が、吊るした肉の間を抜けていた。


「お、来てる来てる」


「ほんま? よかったぁ」


 アイがほっとしたように笑う。


「後は煙が勝手に来るように火床の調整やな」


「煙に当てると、保存できるの?」


「たぶんな。風味や香りなんかも変わるはずや。もっとも、今の状況じゃ、どこまでちゃんとできるか、わからんけど……。少なくとも、試してみる価値はあると思ってる」


「そう……」


 彼女は少しの間、何も言わずに作業を眺めていた。


 しばらくすると、小屋の壁際から煙が漏れ始めた。俺はそちらへ回り、葉の重なりを少し直す。


 今度は煙道の途中で板をずらし、煙の流れを確かめた。少し流れが悪くなっている。


「……うーん。思ったより難しいな」


「煙、ちゃんと通ってるんやろ?」


「通ってはおるんやけどな。もうちょい安定させたいねん」


 俺は火床に戻り、薪の位置を調整した。


 アイも枝葉を置き、煙の出方を見ている。


 二人で何度か確認を繰り返すうちに、煙は少しずつ安定して小屋の中を流れるようになってきた。


「よし。しばらくこれで様子見やな」


 俺は衝立をのけ、吊るした肉を見上げた。


 リシェルも隙間から小屋の中を覗き込んだ。


「……不思議なことをするのね」


「そうか?」


「ええ」


 リシェルは短く答えた。


 そのまま燻製小屋を眺めていた。


 森の中には、火がはぜる音と、葉の擦れる音だけが響いていた。



*



 一旦作業を終えた俺たちは、リシェルも誘い、食事を取ることにした。


「そういえば、これを渡そうと思っていたの」


 リシェルは腰に付けた袋を外して、こちらに寄越した。


「森の木の実や果物よ。この前のお肉のお礼」


「いや、お礼ってもらったん俺らやろ」


「あ、それもそうね。じゃあ、今日の食事のお礼でいいわ」


「じゃあって……まあ、ええわ。助かるし貰っとく。ありがとな」


 俺は笑顔で受け取った。


「ワタル、そろそろ焼けてきたで」


「お、ほんじゃいただこか。包み焼きばっかで悪いけどな」


 俺は葉にくるんだ肉を一つ、リシェルに手渡した。


「ありがとう……え、以前のものとは香りが違う。同じ肉よね?」


「せやで、果実を塗り込んでん。めっちゃ美味しいわ。うちこれ甘酸っぱくて好き」


 アイが肉を頬張りながら答えた。


「いただきます」


 リシェルが肉を口に運ぶのを見届けてから、俺も自分の分を手に取った。


 そうして肉を食べながら、ふと思いついてリシェルに尋ねた。


「そういや、こっちではどうやって保存食作ってんの?」


「こっち? あなたたちと変わらないと思うわよ。生活魔法の水分操作で干物にしているの」


「ほー、そうなんか。魔法なー……魔法!?」


 俺は思わず身を乗り出して叫んだ。


「な、何をそんなに驚いているの?」


「いや、魔法て! 魔法があるんか!?」


「当たり前じゃない。何を言ってるの?」


「ほぇ〜……悪いけど、ちょっと使ってみてくれへん?」


 俺は次に焼くつもりだった肉をリシェルに渡した。


「変な人ね……これでいい?」


 リシェルは渡した肉をたちまち乾燥させて、こちらに返した。


「うお! なんやこれ!」


「へー、こんな感じなんやねー」


 アイが俺の手元を覗き込んで感心していた。


「ん? アイ、なんか反応おかしないか?」


「何が? 普通やん」


「いや、普通もっと驚くやろ。魔法があんねんで」


「そんなん言うても、うち魔法あるん知ってたし」


「なんでお前知ってんねん! 聞いてへんで! いつからや!」


「えーっと……ワタルが最初に『ほんま、どこやねん、ここ』って聞いたとき、かな?」


「なんで、言わへんねや?」


「ん? 重要やと思わんかったし」


「重要やろ!」


「だってワタル、魔法使われへんやん」


「いや、そうやけど! そうやけども……なあ!」


 なんとも言えない気分で頭を抱えた。


「変なワタルやなぁ。な? リシェル」


 ポカンとしていたリシェルが、アイの呼び掛けに反応した。


「……あなたたち、魔法が使えないの?」


「そうやな。魔法なんて今初めて見たわ」


「え? そんな事あり得るの?」


「……なあ、リシェル。ひょっとしたら知ってるかもしれんから聞くんやけど……俺ら、こっちの世界の人間とちゃうねん」


「……え?」


 リシェルはわずかに眉を寄せ、俺とアイの顔を交互に見た。


「もし帰る方法とか知ってたら、教えてもらえると助かるわ」


「……ごめんなさい。わからないわ。そんな話自体、初めて聞いたもの」


「そうやんなぁ。そんな甘ないよな」


 俺は小さく息を吐いた。


「うちが調べてもわからんかったしね」


 俺は頭を掻きながら、言葉を続けた。


「ま、気にせんとって。なんとか生きてるしな。こっちのこと、いろいろ教えてもらえたら助かる」


「ふふ、前向きなのね」


 リシェルは柔らかく微笑んだ。


「わかったわ。今日は帰るけど、また来るわね」


「おう、またな。木の実もありがとな」


「またね、リシェル」


 リシェルを見送ってから、俺は燻製小屋へ目を向けた。


「さて、火ぃ見てこよか」


「うん。上手くできるとええね」


「せやな。せっかく作ったんやし、頼むでほんま」


 小屋からは、細い煙が立ち昇っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。