第6話 初配信
「王様。明日配信したいんだけど、良いかな?」
深夜。
僕は私室で寛いでいた王様に声をかけた。
「……久しぶりに顔を見せて、一体何を言い出すのかと思えば、その件か」
赤ワインを呑んでいた王様が、呆れたような顔を僕に向ける。
「一週間も音沙汰が無かったから自身の立場を忘れたのかと思ったぞ。その顔を見る限り、ずいぶんと寄生生活を楽しんでいるようだな」
ここ一週間、栄養のある物を鱈腹食べて、暇さえあればお風呂に入っていたので、それが顔色に出ていたのかもしれない。
「いやー、実に良い一週間でした! 王様最高!」
嫌味を言って来た王様を、あえてヨイショする。
「ふん。ようやくやる気になったのだ、許そう」
王様はそこで言葉を区切ると、怪訝な顔で言葉を続けた。
「だが、明日とはまた急だな。大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫! ナナを信じて!」
王様に向かってVサイン送る。
たぶん意味は通じないだろうけど、雰囲気は伝わったはずだ。
「そうか。では明日、楽しみにしているぞ」
退室を促すように手を振る王様にペコリと頭を下げ、僕用にしつらえてもらった客室へと戻る。
なんだかんだ、王様も気になっていたようだ。
「楽しみにしているぞ」なんて言っちゃってさ。
「明日、楽しみだねぇ王様。ふひひひひっ……」
とりあえず、明日の【配信魔法】は顔見せ程度の短時間の配信になる予定だ。
【僕という謎の人物の紹介】、【配信魔法の説明】、それから【配信魔法で何をするのか】、【配信魔法を使う目的】等々を伝えようと思っている。
「待ってろよ、人類。僕が最高の娯楽を届けてやるからな!」
まるで遠足前日の子供のように、変にフワフワ・ワクワクとした気持ちを抱えたままベッドにダイヴした僕は、ものの数秒で深い眠りへと落ちていくのであった。
「良いね、快晴! 絶好の配信日和だ!」
開口一番。
フカフカのベッドから跳ね起きた僕は、うーんと精一杯伸びをした。
「ナナ様、朝食の準備が整いました」
「ありがとう、すぐ食べるから持ってきて!」
僕専属のメイドであるモカさんの声に、瞬時に反応する。
モカさんは自堕落な僕を一から十まで世話してくれる、シゴデキのメイドさんだ。
……たぶん僕の監視も兼ねていると思うんだけど、それでもメイドさんのいる生活、悪くないと思います!
「本日のご予定をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
朝食を食べ終わった後、モカさんがいつものように僕の予定を尋ねてくる。
この一週間、朝食→自由時間→昼食→自由時間→夕食→自由時間のニート生活だったので「特にないよ」と答えるのが定番となっていた。
ただ、今日は違う。
「今日はお昼に王様と会う予定があるよ」
「は?」
僕の返答が予想外だったらしい。
モカさんがらしくない声を漏らすもんだから、思わずカラカラと笑ってしまった。
「……失礼しました。それではお支度を手伝わせていただきます」
「えー? この格好のままで良くない?」
「流石に、それは……」
そこまで言って、モカさんが口を噤む。
「ごめんごめん、困らせたかったわけじゃないんだ」
僕が寝間着を脱ぎ始めると、モカさんはホッとした表情で息を吐くのだった。
「来たよー」
「来たか」
手を上げて軽く挨拶をすると、王様が政務中の手を止めて僕に目線を向けた。
「……相変わらず、その変な格好には慣れんな」
「そう? ミステリアスでイケてると思うけど」
今の僕の格好は、全身を真っ黒のローブで覆った隠遁者スタイルだ。
自室以外ではフードをすっぽり被って鼻先まで隠しているので、僕の素顔を知っているのは極少数の人達だけである。
「まぁ良い。それでは行こうか。着いて来い」
「はーい」
王様に促され、執務室の近くにある部屋に移動する。
王様は、ここの一室を僕の配信部屋として手配し、改良してくれていた。
「どうだ? 要望は一通り叶えたと思うが」
「うん、バッチリ!」
部屋を見渡してから、王様に向かってOKサインを送る。
フカフカのソファに、仮眠用のベッド。
軽食を準備出来る簡易キッチンに、小さなテーブルセット。
正直、こんな快適な環境、必要ない。
だけどあえて用意してもらった。
自室と仕事部屋は区別したいもんね。
「遅れました」
「遅くなりました」
ナナシュタイザーとノゥキンナノディスが遅れて入室してくる。
密室で男4人。
何も起きないはずもなく……というのは冗談で。
僕が行使する配信魔法を、またその目で見てみたかったのかもしれない。
「よし、役者も揃ったし、早速配信しちゃいますかぁ」
ソファにドカリと腰を下ろし、首をグルリと回して関節をポキポキ鳴らす。
「あ、そうだ」
思い出したかのように声を上げた後、王様に視線を移して、意地悪そうにニヤリと笑う。
「言ってなかったけど、これって全国民への公開配信だから、王様も軽く挨拶を考えておいてね」
「……は? お前、何を言って──」
「──始めまーす!」
王様の言葉を遮るようにして、僕はパチンッと指を鳴らすのだった。
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