第31話 第三者視点:Sr.ヒスリック(3/7)
アクジョレーテが私達の輪へ加わってから数ヶ月。
気づけば彼女はただの物珍しい話題の人物から、学園きっての有名人になっていた。
「この問題を……アクジョレーテ君!」
「はい!」
授業中。
教師に指名された彼女が、威勢よく返事をする。
「答えは? わかるかな?」
「えっと……」
眉を寄せて、少し考えてから。
「こう、ですか?」
「素晴らしい! 正解だよ!」
教師の手放しの称賛に、喧騒が起こる。
「また当てたぞ」
「あいつは平民なのに凄いな」
最初は好奇の目だった。
けれど、今は違う。
彼女の実力を、努力を認める者も増えていた。
「さすがですね」
「えへへっ!」
私が声をかけると彼女は照れ臭そうに笑う。
彼女も頑張っているから私ももっと頑張れる。
彼女は尊敬出来るお友達だ。
彼女と出会えて、本当に良かった。
「ヒスリック、ちょっといいかな」
「はい、ナナシュタイザー様」
放課後。
私は少しだけ胸を高鳴らせていた。
「今度の休日、良ければ新しく出来たという喫茶店へ行ってみませんか?」
ナナシュタイザー様からのデートのお誘いに、思わず顔が熱くなる。
凄く嬉しい。
婚約してから何度も誘われているはずなのに、私はまだ彼に恋する乙女のままだ。
「喜んで!」
勢いよく返事をしてしまった。
恥ずかしい。
でも、この気持ちは抑えられない。
「ふふ」
ナナシュタイザー様が微笑みを浮かべる。
それを見るだけで、私も自然と笑顔になれた。
「楽しみですね」
「はい!」
私はこの幸せを静かに噛み締めていた。
「申し訳ありません」
デート前日。
ナナシュタイザー様が私に頭を下げた。
「え……?」
嫌な予感がした。
「アクジョレーテに、みんなで町へ行こうと誘われてしまって」
言葉を失う。
「もちろん埋め合わせは、必ず」
「い、いえ……」
私は慌てて首を横に振った。
「アクジョレーテさんも、悪気があって誘っているわけではないので」
そう。
仕方がない。
彼女は平民だ。
頼れる人も少ない。
だからお友達として。
私達が彼女を支えてあげないと。
「そうですか……ありがとうございます」
ナナシュタイザー様が安心したように笑った。
何故だろう。
胸の奥に、小さな棘が刺さったような気がした。
「また断られましたの?」
休日。
本当はナナシュタイザー様とデートをしているはずの日に、私はお茶会に参加していた。
お相手はシュクリーム殿下の婚約者エリザベス様と、ノゥキンナノディス様の婚約者アントンコリン様だ。
「え?」
少しぼーっとしていた私に、エリザベス様が再度言う。
「また断られましたの、って言いましたの」
「そう、ですね」
「シュクリーム殿下も、最近ずーっとアクジョレーテさんのお相手ばかりしていますわ」
エリザベス様が溜息混じりに愚痴をこぼす。
「ノゥキンナノディス様もです」
アントンコリン様も肩を落とした。
「そうだったのですか……」
私だけではなかった。
みんな、同じ境遇を味わっていた。
「でも、アクジョレーテさんを責められませんわ」
エリザベス様が言う。
「ええ。最終的に行くと決めたのは彼らですもの」
アントンコリン様が頷いた。
彼女は悪くない。
悪くないはずなのだ。
「ナナシュタイザー様!」
校庭。
ナナシュタイザー様と散歩をしているところに、アクジョレーテが手を振りながら駆け寄ってきた。
「どうしました、アクジョレーテ」
ナナシュタイザー様が足を止める。
「えへへ、姿が見えたから──」
楽しそうに話をする2人。
まるでそこに、私がいないように。
歩き出した2人の後ろをついていく。
笑顔で、黙ってついていく。
……何故だろう。
最近、彼が少し遠く感じる。
これはただの嫉妬だったのか。
それとも未来への警鐘だったのか。
当時の私には、まだわからなかった。




