第28話 それを悲劇と呼ぶのなら
「あ」
「……これはこれは」
王城の回廊で。
僕は紙の束を小脇に抱えたナナシュタイザーと、ばったり遭遇した。
「真昼間から彷徨いているのは珍しいですね、魔導師ナナ」
「『あいつは一体何者なんだ!?』のリアクションを見る為に、定期的に散歩はしているよ?」
周りに人気がないのをいい事に、僕は砕けた口調で話す。
「そんな事より、ナナシュタイザーさんは今日も忙しそうだね。眉間の皺がこーんな事になってるよ?」
指でグググッと眉を寄せて、ナナシュタイザーの表情の厳しさを教えてあげる。
「……休みたくても休めないのですよ。国を担うというのは、それだけ大変な事ですので」
「失礼」、と。
目礼をして足早に去ってしまったナナシュタイザーの背中を視線で追いながら、僕はぽそりと呟いた。
「『忙しくしていたい』の間違いでしょ?」
「うん? おお、魔導師ナナ! こんなところに来るとはずいぶんと珍しいな!」
第一訓練所に入ってすぐ。
ノゥキンナノディスが僕に気づいて声を上げた。
「訓練所には中々こないからね、僕」
真剣な顔で鍛錬している兵士達を見つめながら、ノゥキンナノディスの横に並んで小声で話す。
「何か俺に用でもあったのか? 陛下が呼んでいたとか?」
「ううん、違うよ。ちょっとノゥキンナノディスさんの顔を見に来ただけ」
ノゥキンナノディスが不思議そうに首を傾げる。
この人はいつでも平和そうだ。
いや、あえて平和そうに見せてるのかな。
「そうだ、ノゥキンナノディスさん。兵士達が『総隊長は奥様に頭が上がらない』って噂話してるのを聞いちゃったんだけど、本当?」
「お前らァ! 誰だそんな事を言ってた奴はッ!」
ノゥキンナノディスが鍛錬中の兵士達の元へ肩を揺らしながら怒鳴り込んでいく。
あの様子だと間違いなくその通りなんだろう。
知ってたけどね!
兵士達が悲鳴を上げる中、僕は静かに訓練所を後にした。
「ねぇ、王様」
政務室。
僕は忙しそうに書類仕事をしている王様へ声をかけた。
「なんだ?」
先日の緊張感が嘘だったかのように、王様がなんとはなしに答える。
「今日なんだけど、緊急生放送をする予定なんだよね」
「は? 緊急生放送……?」
「そっ。ちょっと皆に見て欲しいコンテンツが見つかってね。前置きを入れておきたいんだ」
王様が訝しげな表情を浮かべる。
「……何をするつもりだ? 何か企んでるのか?」
「ふふふっ、内緒!」
そう言って、笑って誤魔化す。
「……ならば余も配信に立ち会おう」
「あ、今日の配信部屋は立ち入り禁止だよ?」
「…………余、国王ぞ?」
王様のツッコミに「知ってる!」とおどけてみせる。
「………………変な気は起こすなよ」
それだけ言って、王様はまた書類へ目を向けた。
……今日眠れない夜になりそうだね、王様!
「よし、これで準備は万端」
配信部屋。
定期配信の直前。
僕は一人、静かに呟いた。
「特大のコンテンツを皆にご馳走してあげるね」
魔法画面へ手を伸ばす。
「国民達よ、悲劇の目撃者となれーっ!」
そう宣うと、躊躇する事なく生放送を開始した。
「──デザートアマインで暮らす、親愛なる国民の皆々様、ごきげんよう。魔導師ナナでございます」
いつも通りの前口上。
出来るだけ威厳が出るように意識する。
「今日は急遽予定を変更しまして、一つの物語をご覧いただきたいと思っております」
そう前置きをした上で、僕は国民に問いかけた。
「まず、皆様は【アクジョレーテ】という名前をご存知でしょうか?」
少しだけ間を置いて、言葉を続ける。
「約16年前、この国の全てを手に入れようとした大悪女の名前です……と言っても、その事件は表沙汰にはなっておりません」
語り手のような口調で、暴露する。
「この国の未来の為、密かに闇へと葬られました。それ以降、この国ではアクジョレーテと名付ける事も、口に出す事も禁じられました」
結構厳しく取り締まられているので、理由までは知らなくても、その名前を使ってはいけないという事実だけは多くの国民が知っているはずだ。
「アクジョレーテは何をしたのか。何故この事件が闇に葬られなければいけなかったのか。それは皆様の目でお確かめ下さい──」
──16年前の、真実を。




