第27話 僕はそう呼んでるよ
「良かったね、王様!」
「……なんの事だ?」
王様の私室へ侵入した僕は、開口一番そう言った。
「またまたー、この前の【A級冒険者ドウティッシュ】での決意表明の件で、国民から凄い支持が高まったって聞いたよ!」
「……ああ」
葉巻を燻らしながら虚空を見つめている王様に、矢継ぎ早に言葉を投げる。
「ドウティッシュもアィシィテールも無事意識を取り戻したみたいだし、王様はみんなの人気者になったし、僕は面白い人生を見れたし、まさにウィン・ウィン・ウィンだね!」
「……そうだな」
気のない返事を繰り返す王様。
僕は思わず首を傾げる。
「あれ、王様元気ないね? プリンちゃんは『お父様大好きですの!』って言ってたし、王子様達もより一層尊敬してる感じだったのに。まだ会った事ないけどね!」
「…………」
神妙な顔で沈黙を貫く王様に対し、僕はつまらなそうに溜息をついた。
「あちゃー……今日の王様は反応が薄過ぎるよ」
葉巻の紫煙がふわりと揺れる。
「王様も一人になりたいみたいだし、部屋に帰ってみんなの〖リアクション動画〗でも見よーっと」
「ナナシ」
「うん?」
手を頭の後ろに組んで踵を返した瞬間、王様に呼びかけられる。
「──あれは、なんだ?」
振り返ってみると、何かを見定めるような目で僕を見ている王様がいた。
「あれ?」
「現地に人を転移させた魔法の事だ」
「ああ!」
ポンッと手を打つ。
今気づいたというように。
「配信魔法とは〖遠くの場所を見れたり、声を聞いたり、それを皆で共有して楽しめる魔法〗だと言った。次に〖過去を保存していつでも見返せるようにする魔法〗だと言った」
王様が一つずつ確認するように羅列していく。
「配信魔法の本質は【時間軸の切り取り】であったはずだ! 物体を飛ばす事まで出来るのは、どう考えてもおかしい!」
ドンッと、王様がテーブルを叩く。
「まるで詰問する審問官みたいだね!」なんて言ったら、僕が叩かれちゃうのかな?
「王様、覚えてないの? 僕は『配信魔法はまだ2回の変身を残している』って、ちゃんと言ったよ?」
「……戯言では、なかったのか?」
「僕は嘘をつかないからね!」
見つめ合って、沈黙。
先に口を開いたのは王様だった。
「…………一つ、聞きたい」
「なーに?」
「お前の魔法は──本当に【配信魔法】なのか?」
僕は間髪入れず、ニカッと笑った。
「僕はそう呼んでるよ!」
僕の曇りのない眼に毒気を抜かれたのか、王様は深く息を吐き出すと、退室を促すように手を振った。
「王様。仕事のし過ぎで疲れてるみたいだから、お酒と葉巻ばっかり嗜んでないで、ちゃんと身体を労るんだよ? んじゃ、そゆことで!」
言うだけ言って、僕は逃げるように部屋を後にした。
「創作物と違って、本物の王様はそこまで馬鹿じゃないんだなぁ」
自室に帰ってすぐ。
【A級冒険者ドウティッシュ】のリアクション動画を見ながら、僕はぽそりと呟いた。
「追い出されていないんだから、まだ危険人物扱いはされていないって事でいいのかな?」
ちょっとだけ思考を働かせて、溜息をついた。
「何も深く考えなくてもいいのに。僕はただ、楽して楽しく過ごしたいだけなんだから。こうして娯楽でも見ながらね!」
手元の魔法画面に視線を向ける。
「今回の録画動画も面白かったし、視聴者にも大好評だったし、新機能のお披露目も出来たし、種も蒔けた!」
そこで身体を解すように、グッと伸びをする。
「あとはもう、第3のとある作戦を決行するだけ」
王様の真似をして、葡萄ジュースを一口呷る。
「二度と失敗は赦されぬのだ。特大のコンテンツを抱えているんだから、皆にも教えてあげないとね」
僕は星の瞬く夜空を見上げる。
「シュクリーム、ノゥキンナノディス、ナナシュタイザー、そして── Sr.ヒスリックの悲劇を」




