第24話 王の決断
玉座の間は静寂に包まれていた。
魔導師ナナの正体を知る一握りの者達が集まり、超大型魔法箱型受像機のお披露目という名目で開かれた動画配信の上映会。
蓋を開けてみれば、あちこちから押し殺したような嗚咽が木霊のように響いていた。
「そんな゛……こんな゛結末……グスッ……あんまりですの゛!」
末姫プリンティーはボロボロと涙を流して、目を真っ赤に腫らしていた。
その傍らでプリンティーの涙をハンカチで拭っている専属侍女フビアンナも、お世話をしながらボロボロと涙を流していた。
「お父様、お母様……私も魔人の恐ろしさについて、しっかり勉強したので知っているつもりでしたの。あのゲスャロゥデンスなる者は、噂に違わずとっても悪い奴でしたの……」
プリンティーが鼻を啜りながら訴えかける。
「でも、アィシィテールは違いましたの! あの者はドゥティッシュの為に死ぬ覚悟までしていましたの! 種族が違うというだけで、幸せになってはいけないのですの!?」
「おやめなさい、プリンティー。そのように声を張り上げる事も、陛下に直訴する事も、私は許しておりません」
王妃殿下がプリンティーを窘める。
王族として。
国母として。
それ以上の狼藉を咎めずにはいられなかった。
たとえ、その目に涙が滲んでいたとしても。
「ですが、お母様……!」
「落ち着け、プリンティー」
国王シュクリームが、静かに声を上げる。
「我々人類は幾度となく魔人の脅威に脅かされてきた。争い、抗い、国が消え、民が消え……人類は負け続けてきた。そこで人類は学んだのだ。魔人と分かり合う事など決して出来ぬのだと」
王の言葉は、この星の歴史そのものだった。
それだけ、重みのある言葉だった。
「──だが」
シュクリームが超大型魔法箱型受像機に映る光景を、眩しそうに見つめる。
「彼らの間には絆があった。人間と魔人の……たしかな絆が。余はそれを尊いと思うし、繋ぎ止めたいとも思う」
「お父様!」
「ここで余が『彼らを助ける』と決めたとして、その決断が全ての民に受け入れられるわけではない。余が魔人に唆されていると、他国につけ入る口実にされるかもしれん。余はこの国の王として二度と失敗は赦されぬのだ」
プリンティーが悔しそうに唇を噛んで下を向く。
そこでハッとした表情で顔を上げると、特注の巨大クッションにだらしなく体を預けているナナシへと目を向けた。
「お兄さま! お願いしますなの……私に、あの2人に、ハッピーエンドを贈って欲しいの!」
玉座の間にいた者達全員が一斉にナナシを見る。
その目には。
多くの諦めと。
僅かな希望が宿っていた。
「うーん、どうしよっかな……」
「お兄さまははぴえんちゅーだと言っていましたの! 私はこんな結末、幸せだとは思えませんの! だからどうか、助けて欲しいの!!」
プリンティーの必死の説得に、困ったように頭を搔いたナナシは『よっこらせ』とクッションから体を起こすと、指を2本立ててみせた。
「皆に、2つ選択肢をあげる」
「選択肢、ですの?」
「そっ。この物語の結末を王様主導にするか、国民の主導にするか」
プリンティーが可愛らしく首を傾げる。
「まず、王様の独断と偏見であの2人を助けた場合。メリットは……あの冒険者が王様にめちゃくちゃ感謝して忠誠を誓ってくれる事と、慈悲深く懐の深い王様として国民の支持を集められるかもしれない事と、アィシィテールから魔人について色々情報が聞き出せるかもしれないって事だね」
矢継ぎ早に言葉を続ける。
「デメリットは……王様も言っていたように、魔人に唆されているんじゃないかって疑われる事と『魔人を引き入れてどうするつもりだー!』って他国から圧力がかかる事かな」
眉を顰めるナナシュタイザーを横目に。
「次に」と、言葉を重ねる。
「国民の主導にする場合は、国民全員にこの2人を生かすか殺すか委ねる事になるね。僕の魔法を介して多数決を取るよ」
ザワッと王座の間に動揺が走り。
プリンティーがムムムッと難しそうな顔をする。
「これのメリットは……多数決、つまり民意だから、何か起こった場合に不満が出にくくなる。生かすほうならドウティッシュは国民の為にシャカリキに働いてくれるだろうし、アィシィテールって魔人も国に受け入れられ易くなるし、色々情報提供もしてくれると思う」
ナナシは百面相をするプリンティーに苦笑しつつも話し続ける。
「逆にデメリットとしては……【国民に責任を丸投げした優柔不断な王様】ってレッテルが貼られる可能性がある事と、生かすか見殺しにするか、説得が出来ないから結果がどっちに転ぶかわからない事。最悪、国民全員に助けられる命を見殺しにしてしまったっていう罪悪感を植えつける事になるね」
そう言って、シュクリームへ視線を投げた。
「正直もっとメリット・デメリットがあるだろうし、好きに決めなよ」
ナナシの言葉に皆の視線もシュクリームへ向く。
この場で決定権を持っているのは王だけだ。
難しい決断に迫られて、天を一度仰ぎ見る。
瞼を閉じて、深く息を吐き出す。
「……ナナシ、国民に余の気持ちを伝えたい」
「仰せのままにー! 考える時間は必要?」
「いや、大丈夫だ。すぐに繋いでくれ」
シュクリームが意思のこもった声で伝える。
その顔には、政務者としての覚悟が宿っていた。




