第20話 情報媒体
「どういう事だ?」
僕の自室に突然やってきた王様が、開口一番そう言った。
「どういう事……?」
甲斐甲斐しく爪のお手入れをしてくれていたモカさんが、頭を下げたまま下がっていく。
「とぼけるな! あの魔道具についてだ!」
僕はポンッと手を打つ。
あ、またこのパターンか、と。
「あの魔道具って、魔道具工房のシャーブに依頼した魔道具の事だよね? え、魔道具が欲しいって言ったとき王様は『工房には話を通しておく。要望は出しておけ』って言ってくれたよね?」
「限度があるだろう! なんだあの数は! 王都の人口の3割に近い数を発注しおって!」
王様が吠える。
こめかみに青筋がくっきり浮いているから、本当に怒なのかもしれない。
「あのヘンテコな箱の正体はなんだ! 売れる保証もないというのに商人ギルドまで巻き込んで、お前は王国全土で何をするつもりだ!」
ズンズンと大股でテーブルまで歩いて来た王様は、まるで詰問する審問官のようにテーブルを叩いた。
「いやだなぁ、王様。僕は悪い魔導師じゃないよ? 何も企んでいないし、全部ぜーんぶ国民の為を思っての行動なんだから!」
キスでもされちゃうんじゃないかと思うくらいの距離で睨みつけてくる王様に対し、僕は不敵に笑ってみせた。
「あれは空の代替品で、新しい情報媒体だよ」
「……代替品?」
「そ、配信魔法をもっと身近なものにする為のね」
王様が眉を顰める。
「あれは20世紀最大の娯楽の一つ。その名も」
そこで焦らすように一拍置いて──
「【魔法箱型受像機】だよ」
──ドヤ顔でそう宣った。
「……20世紀? なんだそれは?」
「あ、そこは気にしないで」
「…………それで、魔法箱型受像機とは一体なんなのだ?」
僕はなんでもない事のように言う。
「簡単に言うと、好きな時に、好きな場所で、好きな主人公の人生を見る事が出来る魔道具かな」
「……簡単に言うな、詳しく言え」
さすがにそれだけでは伝わらなかったらしい。
難しい顔をする王様に対し、僕は空を指差した。
「国民は空を介して配信を見ているでしょ? 魔法箱型受像機があれば、空を見上げなくても手元で配信を見る事が出来るんだよ」
「……便利だとは思う。ただ、それが無くとも空を見上げれば配信は見れるのだ。わざわざ購入する者などいないのではないか?」
王様の指摘はもっともだ。
だからこそ、僕は自信満々に答えてみせた。
「便利、それが大事なんだよ!」
「は?」
「だってさ、配信を見る為にはわざわざ空を見上げなくちゃいけないんだよ?」
「ああ」
「窓から見れなかったら外に出なきゃいけないんだよ?」
「……そうだな」
「雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も!」
「…………」
「何より、ゴロゴロしながら見れないんだよ?」
「そんな事を考えるのはお前だけだ」
「国民だってそう思ってるから、絶対!」
王様のツッコミを気にせずに、言葉を続けた。
「娯楽はね、面白いだけじゃダメなんだ」
「……」
「楽じゃないと」
王様が微妙そうな顔をする。
ただ、僕は知っていた。
人類は楽なほうへ流れる生き物だと。
これは世界が変わっても変わらない事実だと。
「たとえば同じ歌劇を王都とフィッシでやるなら、王様はどっちで見る?」
「それは当然、王都だろう」
「そういう事!」
正解! と、指をパチンと鳴らす。
「同じものなら、近くにあったほうがいい!」
王様が、呆れたような顔をする。
納得したような、してないような、そんな顔だ。
「人間って贅沢なんだよ、王様」
「ああ、特にお前はな」
「褒め言葉として受け取っておくね!」
僕はゆっくりと立ち上がり、空を見上げる。
「今の配信は無料の紙芝居みたいなものなんだ」
「無料の紙芝居?」
「そ。ランダムな演目が、決まった時間に始まって、決まった時間に終わる」
僕は王様に向き直る。
「つまり、配信が始まる時間になったら見たくても見たくなくても、皆同じ映像を見るしかない」
「……そうだな」
「でも、魔法箱型受像機は違う。魔法箱型受像機なら見たい配信も自分で選べる」
僕はニヤリと笑う。
「……選ぶ?」
「そう。『あの人ってその後どうなったんだ?』とか『もう1回同じ配信を見たい』とか『あの冒険者の活躍をもっと見たい』とか思うよね? 魔法箱型受像機があれば、過去の録画動画も見れるし、気になった人を【お気に入り登録】する事で、その人のその後まで追えちゃう!」
「過去を、何度も見れるだと……? それに、お気に入り登録……?」
「そうそう! だから僕の発注した魔道具は、ただの魔道具じゃないんだよ」
「……一体、何だと言うんだ?」
「娯楽の為の加速装置」
そう言って僕は胸を張る。
「余は、お前が王国の未来の為に革命を起こしているのかと思っていた」
「違うよ?」
「わかっている。わかっていたんだがな……」
王様はしばらく沈黙した後、疲れたように深い溜息を吐き出した。
「お前は本当に、ただ楽をしたいだけなんだな」
「その結果、皆も楽しくなるなら最高じゃない?」
僕の言葉に、王様はなんとも言えない顔で天井を見つめるのだった。
「さーて、王城に住み着く第1の計画は完了。魔法箱型受像機を普及させる第2の計画もほぼほぼ完了。これでようやく恩返しの為の第3話のとある計画に移れる。待っててね、Sr.ヒスリック」




