第14話 感想会
「どういう事だ?」
僕の自室に突然やってきた王様が、開口一番そう言った。
「どういう事……?」
甲斐甲斐しく朝食の給仕をしてくれていたモカさんが、頭を下げたまま下がっていく。
「とぼけるな! 昨日の【べゴムラーズ】というタイトルの配信についてだ!」
ポンッと手を打つ。
何が言いたいのかようやく理解出来た。
「王様も見てくれたんだ? 面白かったよねぇ、あれ。友情物語っていうの? 幼馴染で親友なのに、不器用な優しさでお互いを傷つけて、傷ついて、本音を知ってより強い絆で結ばれる。あれが人間ドラマだよねぇ……ウルっときちゃったもん」
「ああ、あれは良かった。王宮内でも涙した者は多いと聞く。余はこの国の王として対等な者などおらぬから、ああいったものには凄く憧れ──って、違う!!」
王様が吠える。
こめかみに青筋が浮いているから、感想会がしたかったわけではないらしい。
「あの魔法は一体なんだと聞きに来たのだ! お前は余に〖遠くの場所を見れたり、声を聞いたり、それを皆で共有して楽しめる魔法〗だと言ったはずだッ! 初配信の時には〖その時、その瞬間を、産地直送でお届けする魔法〗だとな!」
ズンズンと大股でテーブルまで歩いて来た王様は、まるで抗議でもするようにテーブルを叩いた。
「お前は過去の光景も蘇らせる事が出来ると言うのかッ!」
キスでもされちゃうんじゃないかと思うくらいの距離で睨みつけてくる王様に対し、僕は不敵に笑ってみせた。
「さすが王様、大せいかーい!!」
「……認めるというのか?」
「うん。蘇らせるはちょっと大袈裟だけどね。過去を保存していつでも見返せるようにする事を【録画】。その録画した記録を配信する事が【録画配信】。だから『あの魔法は一体なんだ』の答えは録画で、『昨日の配信はなんだ』の答えは録画配信になるよ!」
沈黙。
王様は僕の顔をまじまじと見つめながら、重々しく口を開いた。
「本当に、過去が見れるのか?」
「うん」
「そんな馬鹿な話があるのか?」
「昨日、録画配信を見たんでしょ?」
「………………」
王様が言葉に詰まる。
まぁたしかに、前世でもVHSが普及した時は凄かったって言われてたもんね。
僕もビデオテープが擦り切れるまで、録画した映画を見てたなぁ……。
「ねぇ、王様」
「……なんだ?」
「パンってさ、焼きたてが美味しいよね?」
「そう、だな?」
「でも、木箱に入れてたら翌日に食べても美味しいよね?」
「そう、なのか?」
「録画配信はそんな感じ!」
「全然わからん!!」
王様が叫ぶ。
それは僕のたとえ話の事?
それとも翌日のパンの味?
「じゃあ、お肉。お肉って干し肉になっても──」
「食べ物の話はもう良い!」
王様が朝食の途中で乱入してきたせいだよ?
「はぁ……つまりお前は配信魔法と録画魔法の2つを持っているというわけだな?」
王様が疲れたように言う。
「?」
「……違うのか?」
「違うよ。あくまで録画は配信魔法の仕様の一つってだけ」
王様が目を細める。
「……まだ余に、何か隠し事をしてはいまいな?」
「やだなぁ王様、隠し事なんて人聞きの悪い。僕は聞かれた事はちゃんと答えてますよー?」
「……まだ何かあるのか?」
「ふっふっふ……なんと配信魔法はまだ2回の変身を残しているのだッ!」
「またわけのわからん事を……」
王様が頭を抱える。
きっと、仕事のし過ぎで疲れが溜まっているんだと思う。
僕みたいにワークライフバランスはしっかり整えないと身体に悪いよ?
「──そんな事よりさ、王様」
「……なんだ? 気色悪い」
にっこりと笑って、手揉みする。
僕のおねだりのポーズに気づいたのか、王様から辛辣な言葉が返って来た。
12歳の子供に対して酷くない?
サンタクロースがいるって言ってもギリ許される年齢だよ?
「実は僕、欲しい物があってぇ……欲しい物っていうか、作って欲しい物っていうか、魔道具なんだけどぉ……」
「……………………工房には話を通しておく。要望は出しておけ」
「ありがとうパパ!」
「誰がパパだッ! プリンティーはやらんッ!!」
「落ち着いて、プリンちゃんまだ5歳だよ」
王様の親バカっぷりは異常だと思う。
「はぁ……」
王様が諦めたように溜息をつく。
ああ、幸せが逃げちゃう!
「それで? 次回の録画配信とやらはいつになるのだ?」
「……さぁ?」
「『さぁ?』だと? お前──っ!」
またお説教が始まりそうな予感がして、慌てて止める。
「今一生懸命主人公を探してるところだから! サボってるわけじゃないから!」
言い訳じみた言葉を並べて、どうにかこうにか王様を宥める。
「……本当だろうな?」
「ほんとほんと。べゴムラーズは友情がテーマだったでしょ? だから次は【家族愛】をテーマにしようかなーって」
「お前はどのようにしてその【主人公】とやらを選定しておるのだ? ……いや、なんでもない。自分で悩みの種を蒔きたくないのでな」
その言葉に僕は苦笑いを浮かべ、シュッとダーツを投げる真似をする。
「そうそう、全ては神のみぞ知るってね!」




