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理由の在処②

「俺?俺はあれだよ。親友が目の前でハグレモノに殺されたからさ。それの(かたき)討ち。」


「重い。残夏(ざんか)、驚いてるだろ。」


「だって本当のことだし。まあ、今は俺がいないとダメな相棒がいるから〜。」


「うざ。お前、超うざい。」


 遅い時間に帰って来た(あずさ)(けい)のやり取りに、残夏は目を白黒させた。

 聞くに辛い話だというのに、本人たちが楽しそうだからか、あまり気が重くならない。


「僕は……普通の人がやらなそうな仕事がしてみたかったから……。」


「あれだろ?特別な僕には、特別な役割が必要だ〜とか思ってたんだろ?」


「梓!!」


 梓の軽口に、圭が珍しく怒りを爆発させた。図星だったのか、顔が赤くなっている。


 残夏の視線に気づくと、圭はバツが悪そうに目を逸らし、小さく呟いた。


「……今は、バカが一人だと使えないから力を貸してるんだよ。」


「持ちつ持たれつだろ?」


「うるさいバカ!」


 ギャンギャンと言い合いを始めた二人に、残夏は苦笑を浮かべる。


 仲が良い二人だ。

 この二人はお互いのため、ということになるのだろうか。


「まさか。自分のためだぜ。圭といると強くなれるから。」


「こいつのためとか有り得ない。梓が僕に出来ないことが出来るからだよ。」


 顔を見合わせて口を揃える二人に、残夏は目を瞬かせた。


 ーーやっぱり自分のためなんだ。


 自分を向上させるために、お互いがお互いを支え合っているのだろうか。


 では次は、


「私は、東條(とうじょう)家の皆様をお支えする事に、自身の命を掛けておりますので。」


「それって、東條家のためですか?」


「いいえ。私の喜びのためですよ、残夏さん。……もちろん、隊長をお支えするのも。」


 柳瀬(やなせ)の穏やかな声に残夏はまた首を傾げる。


 皆んな自分のため。

 自分のために、誰かを助け、支える。


 どうしたら、そんな理由を見つけられるのだろう。


 残夏とは立場が違うことも分かっている。しかし、全員が自分の理由を持っているのだ。


 残夏は溜息を吐き出す。


 ーー自信がなくなってきた……。


 残夏は自分の理由を、見つけられるのだろうか。



◇◇◇


「そんな事してんのか……。」


 目の前で深々と溜息を吐き出す彰良(あきら)に、残夏は顔を(うつむ)けた。


 今日は色んな人に話を聞いて、沢山の理由を知って、それで逆に不安になってしまった。


 このまま理由が見つからなかったらどうしよう。

 ハグレモノと対峙(たいじ)して、動けなかったら。


 しかし考えれば考えるほど分からなくなる。

 残夏がここにいる理由。


 最初は成り行きで、それしか道がなくて。段々とここが好きになって。

 (れい)が残夏を守らなくても良くなればいい、と思って。


 だけど、それだけではハグレモノを殺せる理由にならない。

 誰かを殺してまで、戦う理由。その理由を残夏は持っていない。


 俯いたままの残夏に、彰良はもう一度溜息を吐き出すと、隣に座るように示した。


「戦う理由か……。」


「……このままだと、ハグレモノに出会っても何も出来ない気がするんです。」


「なるほどな。」


 彰良は考える素振りを見せると、ひとつ瞬きをする。

 そして、やばい話だ、と前置きをしてから静かに話し始めた。


「……昔、東條さんに言われた。『たった一人のために組織に入ろうとするなんて前代未聞(ぜんだいみもん)だ』ってな。」


「え?」


「理由だよ。俺が組織に入ろうとした理由。俺はあいつを追いかけてここに来たんだ。」


 あいつ、と言われ、一瞬誰のことかと首を傾げる。 しかし彰良の深い青色の瞳に、思い浮かぶのはただ一人。


「は、え……!?」


 残夏が玲に行き当たる様子を、彰良は面白そうに眺めていた。


 とはいえ、残夏にとっても、流石に予想外だ。

 

 玲と彰良が特別仲が良いことは知っている。

 しかし、彰良が玲を追いかけてきたなんて知らなかった。


 それこそ、ずっと一緒にいたのかと思っていたのに。


「この前話したろ。あいつ、10歳の時に組織に引き取られたんだ。でも俺はそれを知らされてなくて五年探した。……やべえだろ。」


 彰良が悪戯(いたずら)っぽく笑う。

 絶句(ぜっく)する残夏から視線を逸らし、彰良は夕日に顔を向けた。


「皆んな、お前みたいな反応してたよ。俺も自分で頭おかしい自覚はあったしな。……でも諦めきれなかった。だから探して探して、やっと見つけて。でも俺のヘマでまた居なくなって。だからもう二度と失いたくないって乗り込んだんだ。」


 彰良は夕焼けの赤を眺めながら、眩しそうに目を細める。


「玲の(そば)にいる事。それが俺の理由だ。」


 彰良の横顔に残夏は息を呑んだ。


 彰良が玲を見つめる時の顔だ。素っ気ないふりをしながら誰よりも優しい目を向ける。

 きっと玲を思い浮かべているのだろう。


 彰良の理由は、きっと残夏には一生理解できない。これ程までに想う相手を残夏は持ち得ていないから。


 しかし、これは紛う事なき彰良の理由だ。


 だったら、あの人は。


 ーー隊長はどんな理由なんだろう……。



◇◇◇


「面白そうなことしてるんだって?」


 数日後。

 残夏が一番会いたかった人は、自分から残夏の所に来てくれた。


 最近は会議ばかりで(ほとん)ど執務室にいなかった玲だ。


 残夏が休憩室で宿題をしていると、玲も丁度休憩を取りに来たようで、向かい合いささやかなティータイムと相成った。


 今日は誰も居なかったので、玲と残夏だけである。


「それで?どんな理由があったの?」


「えっと……。」


 興味津々な様子の玲に、残夏は聞きまわった理由をひとつひとつ挙げていく。


 彰良の理由を伝えるのはどうかと思いつつも、話して聞かせれば、玲は爆笑していた。

 笑うところがあっただろうか。


「やっぱあいつが一番やばいよね。ふふ、面白いな。」


 ーー隊長も隊長な気がする……。


 あの執着を向けられて笑っていられるのだから。


 まあ、それは置いておいて。

 残夏は居住まいを正すと、玲に向き直った。


「隊長。」


「ん?」


「あの……隊長の理由も聞いて良いですか?」


「俺の理由ねぇ……。」


 くすりと玲が笑う。


 こういう時の玲の間の取り方は少し怖い。玲の悪戯好きな面が出てくるからだ。


 残夏が緊張しながら待っていれば、玲がティーカップを持ち上げた。

 今日のお茶はアッサムという茶葉のミルクティーらしい。甘い匂いがする。


「残夏、知ってる?東條さんの理想。」


「え?」


 急な玲の問いに、残夏の肩が跳ねる。

 どうしたというのだろう。今は、玲の話をしていたのに。


 残夏が視線を彷徨(さまよ)わせる様子を面白そうに眺めながら、玲はもうひと口、紅茶を飲み込んだ。


「あの人ね、『ハグレモノがいない世界』を創ろうとしてるんだよ。」


「ええ??」


 残夏は驚きに目を丸くする。


 ハグレモノが生まれるのは自然の摂理(せつり)ではないのだろうか。

 そんな世界、可能なのか。

 そもそも玲の話ではないのか。


 様々な疑問が、頭の中で駆け巡り、疑問符が浮いているような感覚になる。


 対して玲は、楽しそうに目を細めるばかりだ。


「バカみたいな理想だって思う?」


「え……いや……でも、出来るものなんですか?」


「さあ?でも出来ない理由もないしねぇ。」


 そうなのだろうか。

 出来ない理由を探せば、沢山出てくる気がするのだけど。


 バカとは思わないが、理想が高過ぎるとは少し思ってしまう。


 しかし玲はくすりと笑うと、(から)になっていた残夏のティーカップにポットから紅茶を注いでくれた。


「東條さん、理想が高くて、それに一所懸命でさ。誰も理解してくれないのに、へこたれないで頑張ってんの。そこが人間くさくて面白いんだけど。……それでも本気でハグレモノを無くして、もう二度と生まれないようにしたいって行動してる。だから俺は東條さんの理想が叶うように手伝ってる。それが俺の理由を叶えるのに丁度いいから。」


「隊長の理由……。」


「そう。俺はね、残夏。俺の大切だって思う人が、なるべく楽しく生きてほしいんだ。それが俺の理由。」


 玲が笑う。

 楽しげに。それにも増して鮮やかに。


 玲の理由は残夏が思っていたよりも漠然としていた。


 楽しく生きてほしい、なんて、他人のための理由だ。


「違うよ。俺のため。」


「どうしてですか?」


「えー?だって嬉しいから。大切な人が楽しそうなのって嬉しいでしょ?」


 それはそうではあるのだけど。

 しかし自分が嬉しい、と他人のために戦う、とでは何が違うのだろう。


「全然違うよ。……昔さ、俺は他人に理由を任せてたんだ。」


「他人に理由を任せる?」


「そう。自分はどうでも良くて、他人の命令を聞いて楽してた。何も考えないのって楽だもんね。」


 玲の言葉に残夏は目を瞬かせた。


 ーー楽、なのかな……。


 自分の気持ちを無視し、他人の命令を聞くのは辛いことではないのだろうか。


「辛くないよ。ただ何も感じなくなるだけ。……そっちの方が楽だったなぁ。だけどそれやめたの。自分のために生きようって思って。その時、俺も残夏みたいに理由が欲しくてね。自分が一番嬉しいことを考えたんだ。」


「大切な人が楽しそうなことですか?」


「そうだよ。俺は楽しそうな皆んなを見ると嬉しいし、悲しそうにしてたらどうして良いか分かんなくて困っちゃう。だから楽しんで生きてほしい。自分の感情を我慢しないでほしい。心穏やかであってくれたら俺も幸せだって思ったんだ。」


 玲が笑う。

 なにかを懐かしむように。


「だから、俺のため。」


 玲の話は、残夏には少し難しかった。


 結局のところ当人がどう思うか、という事のような気がする。

 見方を変えれば、玲も(なぎ)も他人のためのような気が。


 しかし、もしかしたらそれが大事なのかもしれない。


 自分の生き方に後悔しないこと。

 後悔したとしても誰も恨まなくて済むように。


 だから、自分が嬉しいと感じることを大事にする。


「残夏は何が嬉しい?ゆっくり考えな。」


 玲は飲み終わったカップを手に取ると、流しで洗い、休憩室を出て行った。


 残された残夏は考える。

 残夏が嬉しいこと。


 戦ってでも、大事にしたいものを。



◇◇◇


「残夏。ちょっといいか。」


 寮に帰った残夏を待っていたのは(つかさ)だった。


 ここ数日、何かを言いたそうに残夏を見たいので気にはしていた。

 しかし。わざわざ帰るのを待ってくれていたとは。


 残夏は司を部屋に招き入れる。

 司は少し、緊張した面持(おもも)ちをしていた。


「どうしたの?」


「……。……お前、この間、聞いてきただろう。理由を。」


「?理由?」


「隊員になろうと思った理由だ。」


「え?」


 残夏は首を傾げる。

 司の理由は聞いた。司らしい理由だったはずだ。

 もう一度言いたいのだろうか。


 残夏が不思議に思っていると、司はコホンと咳をこぼした。


「……実は、ちゃんとした理由がある。」


「?どういうこと?」


「だから、あの理由は嘘だ。」


「ええ?」


 一体、どうしたというのだろう。

 とても司らしい理由だったというのに。


 司は何度か息を吸い込むと、慎重に話し始めた。


「……雄星(ゆうせい)。」


「え?」


「雄星は、すごいだろう?」


 残夏は司の突拍子もない言葉に驚く。


 雄星は確かにすごいやつだ。しかし司がそんな事を言うなんて思ってもみなかった。


 残夏が戸惑っていることに、司はバツが悪そうに眉を寄せながら、それでも話を続ける。


「あいつは自己評価が低いが、身体能力も高いし人格もある。あいつの父親にそっくりだ。……なのに、術式が苦手というだけで南宮(なんぐう)家はあいつを落ちこぼれだなんてレッテルを貼った。僕はそれが許せないんだ。……本当の落ちこぼれは僕だ。折角授かった治癒能力も上手く使えない。それなのにあいつは『すごい』と褒めてくれた。こんな僕とずっと一緒にいてくれた。」


 司は考えながら、ゆっくりと言葉を続けていく。


「僕は本当に凄いやつになりたい。あいつは間違ってないんだって周りを見返してやりたい。……それが僕の理由だ。」


 誠実な理由だった。司らしい、と思えた。


 それ以上に、司がずっと隠してきた理由を残夏に教えてくれた。

 残夏にとって、どれほど掛け替えのない事であるだろうか。


「……教えてくれてありがとう、司。」


「うん。……内緒だぞ。」


「うん。」


 残夏が笑うと、司もほっとしたように笑ってくれた。


 しかし、ふと首を傾げる。


「そういえばお前は見つかったのか?理由。」


「……ううん。まだ……。」


 残夏は司に、今まで聞いた理由をひとつずつ話していった。

 司は真剣に話を聞きながら、たまに感想を述べる。彰良の理由には渋い顔をしていた。


 そうして全て話終わった残夏に、少しだけ逡巡(しゅんじゅん)すると視線を向けてきた。


「お前、難しく考えてないか?」


「難しく?」


「ああ。色んな人の理由を聞いて、ごちゃごちゃになっているだろう。」


「それは……。」


 司の言う通りだ。

 話を聞けば聞くほど、どうしたら良いのか分からなくなってきている。


 人を殺すのだ。簡単な理由では納得できない。


 しかし司は、残夏の考えに難しい顔をした。


「……まず前提が間違っている。」


「え?どこが?」


「『人間を殺す』というところだ。あいつらは『ハグレモノ』。確かに元人間だが、負の感情に(とら)われた異形の存在だ。」


「でも……。」


「ハグレモノを倒さねば、人間が死ぬんだ。」


 司の言葉に、残夏は息を呑む。 


 確かにそうだ。そうなんだけど。

 分かっていても、理解する事を拒んでしまう。


 残夏が俯くのに、司は溜息を吐き出す。


「まあ、分かっていても気になるよな……。じゃあこう考えられないか?ハグレモノを倒すのはハグレモノになった人間を解放してやる行為だと。」


「解放?……なんで?」


「ハグレモノはな、負の感情に飲み込まれている。人間だった時にどれ程徳を積んでいても、ハグレモノになってしまえば怨嗟(えんさ)だらけだ。愛情も夢も希望もない。憎しみに苦しみ続けるだけ。それを解放してやるんだ。」


「でもそれは……。」


「ああ。都合が良過ぎる。……だけどな。人間、皆んな都合よく生きているんだよ。誰もが全ては手に入れられない。葛藤(かっとう)や矛盾がある。それを飲み込んで自分を正当化するんだ。何かに謝り続けるだけでは、自分のためにならないと僕は思う。」


 司の言葉は真っ直ぐだった。

 凪や玲のどこか利他的な理由ではなく、利己的でだからこそしっくりくる気がする。


 それでいいのだと、言ってもらえるような。


「残夏。どんな理由でもこじ付けて、自分を正当化しろ。……僕はお前が生きていてくれると嬉しい。」


「司……。」


「さて、もう遅いから帰るぞ。……おやすみ。」


「うん。おやすみ、司。」


 ひらりと手を振って出て行った友人の背に、残夏はそのまま床に寝転がった。

 

 窓の外はすっかり日が落ち、星が夜空に散っていた。



◇◇◇


 残夏が嬉しいこと。


 例えば、凪が朝楽しそうに笑っていること。

 教室で司や雄星が声を掛けてくれること。


 昼休みのみんなで囲むお弁当。

 14番隊の執務室。


 清治(きよはる)が淹れてくれる甘いミルクティー。

 彰良が褒めてくれること。


 そして、玲が。


 ーー隊長が名前を呼んでくれること。


 大切な宝物のように残夏を呼んでくれる。

 自分も愛されているんだと思える。ここに居ていいんだって。


 いつの間にか残夏の大切なものは、この組織の中で構成されてしまった。


 だから残夏の嬉しい事は、組織の皆んなに紐づいている。


 残夏はここで生きていきたい。


 ーーそもそもハグレモノ倒さないと、処分されちゃうし……。


 自分が生きたい、などという理由はダメだと思っていた。


 もっと崇高(すうこう)で、強い信念がないとダメだと。

 しかし結局これに行き着くのだ。


 あかりが言っていた『自分の居場所を守る』も、凪の『人の役に立てたら嬉しい』も残夏にとっては生きていくことだと思う。


 この組織で生きていく。

 大事な人たちが戦う中で自分も力になりたい。


 そして何より、坂西(さかにし)が助けてくれた残夏の命を残夏は大事にしたかった。


 ーー生きたい。


 人間として。

 玲が許してくれた生き方をここでしたい。


 だから残夏は自分のために、ハグレモノを倒す。


 後悔がないくらい生きていくために。



◇◇◇


「残夏!そっち行ったぞ!!」


 雄星の声に残夏は両刃剣を抜く。


 今回の外部演習で出会ったハグレモノは、フェルトで出来たぬいぐるみのような外見だった。


 以前の鳥の雛とは違い、敵意を剥き出しにちょこまかと動き回る。


 あかりが見つけ、凪が扇動し、桃子が逃げ道を塞いでいく。

 司は指示を出し、雄星と残夏がとどめを刺す役だ。


 残夏は自身の剣に炎を(まと)わせると、ハグレモノを横に断絶した。

 燃え上がる寸前、ハグレモノのボタンの目と、残夏の目が合う。


 ーーごめんね。


 残夏はそっと胸の内で呟く。


 それでも戦うと決めた。

 身勝手な理由でも、生きていたいから。


 だから。


 ハグレモノが燃え上がり、灰となって、空中で(ちり)に還り消えていく。

 

 ぼんやりと見送っていれば、作戦成功に雄星たちがわっと駆け寄ってきた。ぐしゃぐしゃに掻き混ぜられる髪に残夏は笑った。


 だから、忘れない。


 残夏はこの先ずっと覚えておこう。

 自分が倒したハグレモノを。この胸が重くなる感情を。

 それでも残夏は生きていく。


 この世界で、生きていく。



◇◇◇


「……(あおい)様。こちらを。」


「ああ。」


 東條は司令室で、柳瀬の持ってきた書類に目を通していた。


 高専襲撃事件より、ずっと探してきた男。

 (さかき)の情報だ。


 彼の人は、玲から焼かれた腕の再生に時間を費やしている。


 場所は街外れの朽ちた礼拝堂。

 誰も祈りに来ることがない神の元に、堕ちた人間が潜伏しているとは随分と滑稽だ。


 ーーようやく見つけた。


 玲を関わらせないよう、慎重に進めたためか、予定よりも随分と遅れたが十分だ。


 これで始末をつけられる。


「……2番隊、9番隊の隊長を呼んできてくれ。」


 東條の言葉に、柳瀬は恭しく頭を下げると、司令室を後にした。


 北郷(ほんごう)喜一郎(きいちろう)松陰(まつかげ)の二人は組織の古株。


 彼らならば榊のことをよく知っている。

 この組織で、最強と謳われたあの人を。


「……詰みですよ、師匠。」


 クイーンを温存し、どこまで戦えるだろうか。

 東條は息を吐き出すと、ドアをノックする音に姿勢を正した。


 窓の外では雨が降り出す前の、曇天が広がっていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

エピソード17完了です。


皆んなの戦う理由はいかがでしたか?

残夏なりの理由を楽しんでいただけると嬉しいです。


そして次回からは榊との最終決戦編になります。


次回更新は6/20土曜日です。

(19:30目安ですが、前後する時はXでお知らせします)


よろしければ感想や評価、リアクションなど頂けると励みになります。

よろしくお願いします。

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