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炎③

 「ううう……怖かったよぅ……。」


「よしよし。落ち着いて、麻生(あそう)さん。」


「ひえ!!遠野(とおの)さん!!!わ、いい匂い!!!」


「麻生さん……。」


泣いているのに、あかりが近づくと飛び上がる麻生に苦笑しながら、残夏(ざんか)たちは円になって顔を見合わせる。

地面の割れのおかげで、ハグレモノは一時的に残夏たちを見失ったらしく、今は距離をとって雄星(ゆうせい)に結界を張ってもらっているのだ。


「さて、取り敢えずどうするか……だなぁ。」


白石(しらいし)のやつめ……冗談では済まされんぞ。」


雄星と(つかさ)が溜息を吐く。

もちろんあいつは許さないが、そんな事よりも残夏は先程の嬉しい出来事に、頬を(ゆる)ませていた。

それにいい加減気が付いたのだろう。雄星が眉を寄せる。


「その顔やめろ……。」


「だって……もう一回言ってよ。もっかい!」


「あー!うるさいうるさい!!いいだろぉ!なんかそっちのがしっくりくる気がするんだよ!!」


雄星が顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。

反対側では(なぎ)が司に(から)んで、同じように顔を(そむ)けられている。

そんな凪と顔を見合わせて、残夏は笑った。


「えへへ、嬉しいねぇ残夏くん!」


「うん、そうだね。凪。」


くすくすと笑い合っていれば、(わざ)とらしいコホンという咳の音が響いた。雄星だ。


「今はあいつをどうするかが先だろ。」


「確かに。」


「よし、じゃあまずは話を聞こう。……坂西(さかにし)、知ってることを話してくれるか?」


黙って端っこにいた坂西の肩がびくりと跳ねる。白石のチームなのに、置いていかれたのだろうか。

坂西は可哀想なくらい顔を青ざめさせると、震えながら口を開いた。


「わ、分からない……ごめんなさい、ごめんなさい……!」


「坂西……。」


「ごめんなさい……。」


ぐすぐすと坂西が泣き出す。

すっかりパニックになっているようだ。それがどうにも昔の残夏と重なって、残夏は坂西の肩にそっと手を置いた。

途端に身体が跳ねるが、落ち着かせるようにそっと声を出す。


「坂西くん、大丈夫だよ。白石が悪いって分かってる。だからそんなに(おび)えないで。一緒に帰ろう。」


「……小鳥遊(たかなし)くん……。」


坂西は少し落ち着いたようで息を吐き出すと、小さく呟いた。


「……本当に、よく分からないんだ。でも白石くんもあんなにハグレモノが大きくなって驚いてたみたい。慌てて結界を張って逃げてたから……僕は、遅れちゃって……。」


「私もです!!皆んな置いて行って薄情者(はくじょぅの)おおお!!」


「落ち着いて、麻生さん。」


連鎖(れんさ)的に泣き出した麻生を、あかりが(なだ)める。

その様子に坂西は驚いて、それから少しだけ笑った。


「……皆んなで無事に帰れるように、僕も手伝う。……何も、出来ないかもだけど……。」


「そんなことないよ!頑張ろうね、晃平(こうへい)くん!」


凪の明るい声に坂西が頷く。

それに笑って、残夏は雄星たちに顔を向けた。

ハグレモノは相変わらず残夏たちを探し回って、手当たり次第にぶつかっている。いずれここも見つかるはずだ。


逃げることも隠れることも出来ないなら、戦うしかない。


「とはいえ、デカいんだよなぁ……核がどこかも分かんねーし。あ、『切り裂きくん』は?」


「演習の時は使えないようにしてるーって、(れい)ちゃん言ってた!」


「あー……まあ、そうだよなぁ。」


「核が分からないなら、致命傷を負わせるしかないだろう。ちなみに戦えるのは雄星、残夏、凪とーー、」


「私は無理よ。……動くのもちょっと辛いわ。」


「僕も、戦えるような力じゃないんだ……ごめん。」


あかりと坂西がしゅんと俯いた。

しかし責めるつもりはない。

あかりは十分にやってくれたし、坂西が守り主体であることは、8番隊の仮配属という事で予想はついていた。


ならば残る一人は。


「わ、わ、私ですか!!?えええと、私、土の霊力なんですけどお役に立てますか!?無理ですか!!?」


「落ち着いてね、麻生さん。」


わたわたと慌てる麻生を宥めすかしながら、よくよく聞けば地面の割れは麻生の力らしい。

地面、というよりも土を(あやつ)るのに特化しているのだとか。

世の中、多種多様な霊力が溢れている。


「すげーな!土でなんでも作れんの?ガーディアンとか?」


「が、ガーディアンみたいなのは作れないんです!!私の霊力が足りなくて……。」


「あ……や、俺も興奮してごめん。」


雄星が目を輝かせるが、そこまでは無理なようだ。雄星はどうも、視覚的にかっこいいものに憧れがあるらしい。

そんな中、司がふむ、とひとつ頷いた。


「麻生さん。土の霊力は、地面を割るだけじゃなくて隆起(りゅうき)は可能か?こう、足場(あしば)を高くするんだ。」


「ぜ、全体は無理ですが……一部なら出来ます!」


「素晴らしいな!よし、これで良い案が浮かんだ!」


「良い案?」


得意げな司に首を傾げれば、不敵な笑みが返ってくる。残夏はそれに少しだけ身を乗り出した。


「聞いて驚け!二重(にじゅう)(おとり)作戦だ!!」


意気揚々(いきようよう)と上がった声に、目を瞬かせ一拍(いっぱく)

そのネーミングセンスはなんともーー、


「名前ださくね?」


残夏が言葉を発するよりも前に、雄星のツッコミが響く。

司はその声に顔を赤くさせながらも、口を開いた。


「黙れ雄星!!……いいか、特別講習を思い出せ。あの時、亜月(あづき)隊長になぜか木の上に隠れていたのがバレただろう。」


確かにその通りだ。

あの時、雄星の結界が張られていたのに、玲は残夏たちに気が付いた。

でもそれは霊力探知(たんち)とか、そういう技術なのではないだろうか。

しかしその疑問に、司が首を横に振る。


「あの時、亜月隊長は『霊力は使わない』と(おっしゃ)っていた。だから探知もしていないだろう。それでもバレたのは、あの人が木の上にいるお前たちを目視で(とら)えたからだ。」


「どういうこと?」


「つまり、あの人が回避行動で一回宙返りをしただろう?北郷(ほんごう)さんの肩を使って。あの時、一瞬木の上が見えたんだと思う。」


司の考察に沈黙が落ちる。

いくらなんでもそれは、人間離れし過ぎていないだろうか。

いや、でも玲ならそれくらいは出来そうだ。


「……考えるに、ハグレモノはああいった世界なんだろう。我々の想像を超えた動きや、力を持っている未知の存在だ。作戦は間違っていなかった。しかし相手の力量を見誤った。だから、今度はあの時の作戦が上手くいくように囮を二つにするんだ。」


司の声が滔々(とうとう)と響く。

未知の存在に対抗出来る手段は多くない。

だから、考えるしかないのだ。

出来るだけ多くの可能性を。自分たちの出来る範囲で。


司は一度皆んなを見回すと、強く頷いてみせた。


「まず、凪が囮になる。出来るだけあのハグレモノを引きつけて、見通しの良い場所まで連れてくるんだ。……お前はすばしっこいから大丈夫と思うが……どうだ、凪?」


「うん、大丈夫!いけるよ、司くん!」


「よし。そして、次に麻生さん。」


「は、はい!」


貴女(あなた)は凪が引き付けている間に、ハグレモノの背後に回った雄星の足下を隆起させてくれ。雄星。お前は跳んで頭上から攻撃だ。」


「おー、了解。がんばろーなぁ、麻生さん!」


「は、はい!!」


「うん。……それで最後に、残夏。お前はハグレモノを下から攻撃するんだ。出来るよな?」


司の視線が真っ直ぐに残夏を射抜く。

それに少しだけ恐怖を感じた。

あんな大きなハグレモノの下からなんて、(つぶ)されるかもしれない。

ヒミズの時のように、大怪我をするかもしれない。


だけど。


「うん、分かった。」


残夏の返事に、司がほっと息を吐き出した。

恐怖は皆んな同じだ。

でも残夏には皆んながいて、こういう時のために稽古(けいこ)をつけてくれた彰良(あきら)がいて、帰りを待ってくれている玲や14番隊の皆んながいる。

だから、大丈夫だ。


「……いいか、怪我をするなよ。僕は大怪我は治せない。応急処置しか出来ないからな。だから、皆んな無事で作戦を終えること。失敗したらまた逃げればいい。」


その言葉に全員が頷く。

全員が無事に帰る。それが今回の目標だ。


「では、作戦開始だ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「が、頑張る!頑張る!!」


麻生が震える身体を鼓舞(こぶ)するように、声をあげる。

隣であかりが、その背を撫でていた。


「深呼吸よ、麻生さん。集中して、でもリラックスして。」


「深呼吸!集中!リラックス……!?」


「肩の力を抜くの。」


「肩の……力……。」


ゆっくりと麻生が深呼吸を繰り返す。

ようやく身体の震えがおさまったのか、ほっと息を吐き出すと麻生はあかりを振り返った。


「あ、あああの!遠野さん!」


「なに?」


「が、頑張るから、その、か、かかか帰ったら、と、友達になってくれますか!?」


「え?」


「ず、ずっと憧れで!!こんな時だけど、こんな時にしか言えるチャンスなかったから!!帰ったらお友達になってください!!」


それを人はフラグというのだ。

一見微笑ましいような、それでいて盛大にアウトな事をしている麻生に残夏の顔が引き()る。

いや、いいのだけれど。

でもまるで戦場に向かう兵士みたいじゃないか。

アニメとかで、それを言った人が帰ってきたところを残夏は見たことがない。


そんな懸念(けねん)をよそに、あかりは少し驚いた顔の後、ふいとそっぽを向いた。

その様子に、麻生がショックを隠せていない顔をする。


「あ、そ、そそそうですよね!!嫌ですよね、こんな土まみれの私なんか……!!」


「……敬語。」


「え?と、遠野さん?」


「敬語と、呼び方。……普通に話して、あかりって呼んでくれたらいいわ。」


「ええ!?」


「……私も、桃子(ももこ)って呼ぶから。」


「ええー!!!いいです……じゃない、いいよ!!あかりちゃん!!!」


「ふふ、よろしくね。」


あかりが嬉しそうに笑う。

(はた)から見ていてとてもいいシーンだが、状況と場所は選んで欲しい。というかそもそも麻生って下の名前は桃子というのか。

それすらも知らない残夏は、もう少しクラスメイトに関心を持った方がいいのかもしれない。

そんな二人のやり取りに司が息を吐き出した。


「……そろそろいいか?」


「あ、は、はい!!」


「よし、じゃあ手筈(てはず)通りに。……健闘(けんとう)を祈る。」


その言葉が合図となる。

雄星が結界を解くと、凪はハグレモノの前に飛び出して行った。


「こっちだよー!」


声を掛けながら走る凪の姿に、ハグレモノの目が釘付けになる。

そのまま奇声をあげて、ずるずると凪に迫っていくのを見ながら、残夏たちは顔を合わせると頷き合った。


村の中央に、凪がハグレモノを誘導する。

その背後に雄星と麻生もとい桃子が。

そして残夏は雄星の結界の力を借りて隠れつつ、ハグレモノの下から。

何度も胸の中で反芻(はんすう)しながら残夏も駆ける。

稽古中、ずっと重たいと思っていた両刃剣は、なぜだか手にしっくりと馴染(なじ)んでいた。


 凪は順調に、そして危なげなくハグレモノを中央へと誘導してくれた。

それでも流石に少し息が乱れている。

駆け寄りたい衝動を抑えながら、残夏は次の動きを待った。


「よし!行くぞ、麻生さん!!」


「はい!!」


雄星の大声と共に、ハグレモノの背後の地面が隆起する。反動で雄星が高く跳び上がった。

槍を(たずさ)え、ハグレモノの頭に一直線に狙いをつける。しかしその瞬間、凪を見ていたハグレモノの目玉とは別に、頭の上にもうひとつ目が現れた。

しっかりと雄星を捉え、空中で身動きの取れない雄星を殺そうと羽のない翼を持ち上げる。


その翼が雄星に襲いかかる瞬間。


「今だ!!残夏!!」


司の叫び声に残夏は足を踏み出した。

ハグレモノの右横。死角から入り込み、腹の下へと滑り込む。

そして力の限り、両刃剣をハグレモノに振り上げた。


「うおおおおおお!!!」


嫌な感触が腕に伝わる。

肉を引きずるような重たさと、骨が砕ける音。

それを気合いの大声だけで振り払って、残夏はひたすらハグレモノの身体の中で剣を押し進めた。

最早(もはや)切るというよりは、叩き潰すという方が合っていたのかもしれない。

ただ、真っ二つにする事だけを考えていた。


剣が動かなくなった一瞬後、辺りを静寂が(おお)う。

そして次の瞬間には、ハグレモノの大絶叫が耳を(つんざ)いた。

ゆっくりと、残夏の見上げる先でハグレモノが身体を倒す。

残夏の剣は、ハグレモノの腹から背までを切り裂いて、血を降らせた。赤い血だった。

それもすぐに(ちり)()す。

残夏は肩で息をしながら、ぽつりと呟いた。


「終わった……?」


「そうだ!!勝ったんだ!!すげー!!勝ったんだぞ、残夏!!!」


残夏の呟きに呼応するように、わっと声が上がる。

いつの間に着地したのか、雄星が残夏の方に駆けてきた。

司や凪や、他の皆んなも集まってくる。


「お前たち、怪我はないな!?」


「残夏くん、カッコよかったよー!」


「おおお終わりですか!?」


「ええ。無事で良かったわ、桃子。」


「よ、良かった……。」


終わった。

終わったのだ。

あのハグレモノを倒した。

皆んなで。


残夏は震える手を見つめた。

あのハグレモノを残夏たちが倒したのだ。

ようやく実感が湧き上がってくる。

残夏が顔を上げて、この喜びを言葉にしようとした。その時、


「危ない!!」


坂西の声が響いた。

そして、残夏たちの真上には、先程倒したはずの翼を振り下ろすハグレモノと、何重(なんじゅう)にも(かさ)なった、見えない壁がそれを拒んでいた。

しかし、その壁も次々と壊されて残夏たちに少しずつ迫ってくる。


ーーハグレモノが、再生したんだ……。


残夏の頭は、どこか冷静にこの状況を分析していた。

ハグレモノの再生能力。少ない経験の中でも何度も見てきた力だ。

忘れていたなんて。


ーー逃げなきゃ……でも、坂西くんが……。


残夏たちは逃げられる。

しかし、壁を作っている坂西は最後まで逃げられない。きっと潰されてしまう。

そんな事になったら、人が、死んでしまう。


考えろ、考えろ、考えろ!!

何か、手はーー、



『この大鎌、切るんじゃなくて対象物を焼き溶かすんだ。だからその傷口は再生しない。』



咄嗟(とっさ)に思い出した声に、残夏はハッと息を呑んだ。


そうだ。

カマキリのハグレモノと相対(あいたい)した時、玲が言っていた。

焼くのだと。それで再生出来なくなる。


そして残夏の霊力は、正しく炎だ。


ーーオレの、炎……。


胸の奥にある、暖かい光。

残夏の中の闇を寄せ付けないように、守ってくれている炎。


残夏は目を閉じる。

目を閉じれば、炎は更に近くに感じられた。

それを少しだけ分けてもらう。

自分の内側から外側へ。手を伝って、両刃剣へ。


次に目を開けた瞬間、残夏の剣は炎に包まれていた。


「残夏くん!それ……!」


凪の声が聞こえる。

だけど今は返事をする(ひま)がない。

残夏は坂西の壁から飛び出すと、ハグレモノに切り掛かった。

坂西に集中していたハグレモノには、不意打ちの攻撃。


それは、治りかけていた傷口を(えぐ)って、内側からハグレモノを燃やしていく。

ハグレモノは絶叫をあげながら倒れ伏した。

燃えた所から塵になっていくも関わらず、ずるずると身体を動かす。

そうして最初の潰れた家屋(かおく)の上で、完全に消えてしまった。


溶けていく塵の下に残ったのは、古びた布切れだけだった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

エピソード3は次回で終わりになります。


書いていて楽しいエピソードでした!

高専生組は、皆んな一生懸命で可愛いなって思いながら書いています。

全員の力を使って、脅威に立ち向かった経験が残夏たちの今後にどう影響していくのか。

楽しみにしていただからと嬉しいです!


次回更新は4/25土曜日です!(19:30目安ですが、前後する時はXでお知らせします)


水曜日は短編を投稿予定です!


よろしければ感想や評価、リアクションなど頂けると励みになります。

よろしくお願いします!


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