スカイタワー決戦①
蓮とエリスが修行に行って5日がたった。その間、街では吸血鬼による被害者は1人も出ておらず天風市は穏やかな時間が流れていた。
その穏やかな時間に風花は不安がつのっていく。
(吸血鬼はまだこの街にいるのかしら?いるとしたらなぜこちらに攻撃を仕掛けないの。それとももう何かしらの攻撃をされているのかしら)
吸血鬼の動きがないこと自体は助かっている。ルカはまだ回復しきってないし、アッシュに至ってはまだ起きてすらなかったからだ。
こちらの戦力は正直言うと心許ない。蓮の代わりに澪がいると言っても、相手は最強の吸血鬼と熟練の魔法使いがいるので彼女の戦力が増えても互角とはいい難いからだ。
なによりいつも自分の側にいる蓮が居ない為、風花の心には不安が付き纏っている。
天風市に敵が現れている時に連れて行くのは正直やめて欲しかったが、雫には風花も頭が上がらないので文句を言うことはしなかった。
(雫さんも久しぶりに蓮に会えて舞い上がってたんだろうなぁ。あの人蓮のこと大好きだし。だけど、このタイミングはやめて欲しかったなぁ)
そうやって自室で憂鬱としたまま昼過ぎになって、お腹が空いてきた風花は台所に向かった。学校が休みの日は昼食は各自で食べるので食事当番がいない、なので風花は自分でご飯を作ることにした。
台所に行くと澪が食事を作っていた。
「風花様。いらっしゃったのですね、もうすぐ出来ますのでそちらでお待ちください」
風花は自分の料理の腕前に自信がなかったため、澪がご飯を作ってくれていたことに喜んだ。
「ありがとう澪」
澪にお礼を言って食卓につくとルカもいた。
「あ!風花様!そろそろ呼びに行こうと思ってたんでいいタイミングっすね!」
元気よく風花に話しかけてくるルカに風花は笑顔になった。風花には上の兄弟はいるが下はいない為、妹がいたらこんな感じかなと考える。
「ええ。ルカは今日は家にいたのね」
「そうっす!彼岸で特訓しようとしたら澪さんに止められて」
「今は彼岸に行くなと風花様は仰られていたから当然だ」
確かに澪が戻ってきた時に1人で彼岸に行くなと風花は言った。だがそれは街中に行くなということで、この家の敷地からでない範囲の彼岸なら別に行ってもよかったがそれを言って今からルカが彼岸に行っても困るので黙っておくことにした。彼女は元気とはいえまだ病み上がりだ、彼女にはもう少し静養してもらいたい。
「そうね。大体あなたはまだ怪我人なんだからもう少し大人しくしていなさい」
「うう。体が動かさないとストレスがたまるっすー」
少し不満そうなルカだが風花の命令は大人しく聞いてくれる。
「さあ、風花様出来ました。」
そういって澪が昼食を持ってきてくれた。今日の昼食はおしゃれなパスタで、自分の為に気合いを入れて作ってくれたのだろうと風花はその気持ちが嬉しかった。
「「「いただきます」」」
3人の少女の声が同時に家に響く。
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昼食を食べて各々の時間になり風花は広間から移動させたアッシュの様子を見に行くことにした。
アッシュの部屋に着くとまだ目を閉じているアッシュが布団の上にいた。
(まだ起きないか。もういつ起きてもおかしくないと思うのだけど。この人の健康な状態を私は見てないし魔法で治すこともできないわ)
まだ起きてこないアッシュを見て部屋を後にしようとする風花だった。
「あの…ここはどこで、あなたは誰ですか?」
アッシュから声をかけられてすぐさま風花は答える。
「ここは天風市にある私の家で私の名前は天風 風花よ」
聞かれたことを簡潔に答えるとアッシュから安堵の息がもれる。
「よかった。天風家には辿り着けたのですね。妹もこちらにいるのですか?」
「エリスさんは今は雨守家で修行をしています。なんでそうなったかは今は説明しませんが彼女も無事であることは確かですよ」
「感謝します。天風様。エリスからは我々の事を聞いたのですか?」
「はい、あなた方の家のことも吸血鬼についても聞きました。そして、私たちはあなた方に協力を約束しました」
風花はアッシュがまた眠りにつきそうだったので伝えたいことを伝えてせめて安心させることにした。
「!感謝を。申し訳ないのですがまた眠くなってしまい詳しい話は起きたあとでよろしいですか?」
「はい。今はおやすみください」
風花からそう言われるとすぐにアッシュは眠りについた。
風花はアッシュが起きたことを家にいる人に伝えて、エリスをこっちに帰してもらうついでに蓮にも帰ってきてもらおうと思い雨守家にも伝えた。
アッシュが再び起きたのはもう深夜と言っていい時間だった。この時間には流石に氷河も家に帰ってきて、今この家にいる人は全員揃っていた。
アッシュは皆にお礼をいいそれぞれの自己紹介の時間が終わるとエリスの知らないアルテリアの情報を話してくれた。
「アルテリアは元々わたしの婚約者だった。そしてわたし達は同じ夢に向かって進んでいたんだ、だけど彼女はある時から不死身になろうとして吸血鬼の研究を始めた。敵の研究をすること自体は珍しくなかったから一族のものは何も思わなかったが、彼女は吸血鬼の滅ぼし方ではなく奴らの再生能力の研究を主にしていた」
「まあ、それ自体は珍しくないんじゃないの。敵の能力を知るのは大事だし」
澪がアルテリアがしていた研究自体は取り立てることではないと主張する。
「その通りだ。ただアルテリアの研究の仕方が問題だったんだ。彼女は普通の吸血鬼を捕らえてそいつに一般人の血を吸わせて吸血鬼を増やして、その2つの吸血鬼の再生能力の違いなどを研究していたんだ」
「一般人を利用していたの!?」
魔法使いは自分たちが世界を守るという使命を持っており、ほとんどの魔法使いはそれを誇りに思っている。なので、自ら世界を歪めるようなことをしたアルテリアの事が風花は信じられなかった。
「そうだ、その事実に気づいた時点で一族は彼女の処刑を決めたんだが、すでに彼女は吸血鬼と手を組んでいて複数の貴族が一族の本家と分家を襲撃してイルレイン家は滅ぼされた」
「なるほど、あんた達の身の上話はわかったけれど、もう少し有益な情報はないの?戦う上で有利になる情報がわたくし達は欲しいのだけど」
澪がそういってアッシュに使える情報を要求する。
アッシュは苦笑しながら話を続ける。
「ああ、すまないね。一族が滅ぼされてから他の魔法使いに会うことはなかったから聞いてほしくてね。確か妹から人造吸血鬼に聞いていたんだね。なら、彼女の目的を話そう。彼女は自らの力で新しい真祖になろうとしている」
それを聞いた瞬間、風花がありえないという表情を作る。
「それ、なんの冗談です。真祖になるって新しい"絶滅指定種"になるってことですよね。人間がそんなものを作れるとは思えません」
「わたしも彼女の目的を聞いた時にそう思いました。しかし、彼女はその目的に向かって研究を重ねていた。そうして、彼女は副産物としての人造吸血鬼を生み出した。貴族のように血に属性を付与された吸血鬼をね」
彼女の研究の目的を聞いた風花たちは黙ってしまった。そんな馬鹿なことをと思ったが事実、人造吸血鬼とは蓮が戦っているため笑い飛ばせない。
「それと彼女は自ら真祖になろうとしています。つまり魔法使いを吸血鬼にするつもりです。もしかしたらその為の薬も完成しているかもしれないので、彼女と相対する時はそのことも頭の中に置いといてください」
「わかりました。私たちはアルテリアを"絶滅指定種"として対応します」
風花はそう宣言して澪たちにもその認識を共有させる。
「そういえば、一つ聞きたいのですがあなたとアルテリアが共有していた夢とはなんなのですか?」
アルテリアは夢を求めて歪んだがその夢がなんなのか風花は知りたかった。
「はい。彼女とわたしが持っていた夢はありきたりなものでした。ただ、長く生きたい。それだけでした。」
長く生きたい、この国にいる人にとってそれをあえて夢にする者はあまり居ないだろうが、彼らの生まれた欧州は吸血鬼勢力が支配しており、魔法使いは戦って死ぬためだけに生きているのでその夢は異端であり尊いものだった。
「長く生きたい、ね。確かにそれはありきたりな夢だけれど笑い飛ばせることは出来ませんね」
風花は彼らの夢を聞いてそれ以上の言葉が出てこなかった。
「アルテリアは既にその夢を歪めています。長く生きる為なら人であることすらやめようとしている。改めて言います、彼女を止めることに協力してください。彼女の命を奪ってでも」
「わかりました。私も改めて言いましょう。天風 風花の名においてあなた達に協力します」
アッシュは風花の答えを聞いて涙を浮かべお礼を言ってくる。
風花はアッシュからのお礼を受け取って広間から出て行った。
広間から出た風花は天風家の本邸に電話をかけていた。
「はい、お父様。この街にいる吸血鬼には今の戦力では足りません。今この国にいるのは秋雨兄様ですよね?秋雨兄様と兄様の部隊をこの街に寄越してもらってよろしいでしょうか?はい、はい。なるべく早くお願いします。感謝しますお父様」
電話をかけ終わった風花の近くには澪がいた。
「風花様、増援の要請ですか?わたくしでは頼りないですか?」
「そうじゃないわ澪。あなたのことは頼りにしているわ。ただ今回はアルテリアとジュリアーノを確実に滅ぼしておきたいから兄様に協力を求めただけよ」
澪はそれを聞き上機嫌になる。
「そうですよね。風花様はわたくしを一番頼りにしてくれてますよね。疑って申し訳ありませんでした」
「いいのよ」
澪の重い思いを受け止めていつものことだが風花は若干引いていた。
アッシュの話を聞いていたらもう夜も遅くなったのでその日は自然にみな解散した。
翌日天風市のランドマークである電波塔が火に包まれた。
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天風市のランドマークである電波塔(通称スカイタワー)が燃える直前2人の男女がスカイタワーの中にいた。
「もう始めていいのか?いい加減日の光がうざったいんだが」
「そうねぇ、もう十分楽しんだし燃やしちゃいましょうか」
休日の昼前のスカイタワーの中にはかなりの人がいるが、その2人にとっては至極どうでもいいことだった。そしてスカイタワーは内部から燃やされた。
スカイタワーが燃やされたのを風花たちは家のテレビで見ていた。流石にこの状況を静観することを出来ない風花はすぐにスカイタワーに向かうことにした。
「一刻も早く奴らを滅ぼします」
それだけを言ってアッシュも含めた全員でスカイタワーに向かうとそこにはジュリアーノとアルテリアが待っていた。
「あなた達何をしたかわかっているのですよね?私がお父様に任されたこの街でここまでの狼藉をするなんて必ず滅ぼしてあげます」
風花は自分が任された街の人間を大量虐殺されて怒りが収まらない。怒りのままに体から魔力が発散されている。
「なるほど、あの子が噂の天風の最高傑作ね。確かに発散されてる魔力の量が異常だわ」
能天気なアルテリアの声が風花の怒りを加速させる。風花から漏れ出る魔力は既に辺り一体を覆っておりどこからでも魔法を発動できる状態だ。
「なるほど確かにこれは最高傑作と言っていいな。持っている魔力の量が多すぎて俺の目でも魂を確認できん。どんな魔法を使うかはわからんな」
ジュリアーノは風花の魂が確認できず、この魔力からどんな魔法を構築されるのかわからなかった。
ジュリアーノが風花の魔法を警戒している隙をついて澪が動く、目標はアルテリアだった。
「え!?速っ!?」
隙だらけだったアルテリアの懐に容易に近づき彼岸への扉を作り自分ごとアルテリアを彼岸に押し込む澪。ジュリアーノは反応出来ずそのまま2人は彼岸に入って行った。
残ったルカと氷河は風花とともにジュリアーノを表の世界で対処し、アッシュは彼岸に行き澪の援護をする。ここに来るまでに決めていた作戦通りのかたちになった。
「たかが、3人程度の魔法使いで俺を滅ぼせると思っているのか。随分と調子に乗っているみたいだなガキども」
ジュリアーノが全身から炎を巻き上げる。その熱量は人間を自然発火させるには十分なものだが氷河が魔法による冷気を生み出して相殺させる。
「いくっすよー!」
ルカが雷による攻撃を仕掛けるがジュリアーノは炎を推進力にして回避しようとするが風花の魔法がそれを許さなかった。
ジュリアーノの周囲に氷の壁が生み出される。
(こいつも氷の魔法が得意なのか?天風の最高傑作がそんな単純な再現魔法を使うとはな)
風花の作り上げた氷によってルカの雷を回避することが出来なかったがジュリアーノには大したダメージはない。
(この程度の魔法ならいくら当たっても再生が追いつく彼岸ならな)
吸血鬼は日光を浴びると焼かれるがジュリアーノは再生能力によってそのダメージを無視できている。しかし、魔法を喰らった場合は再生能力を全開にしてやっと回復するので、今の状況ではどんな魔法であれ喰らうわけにはいかなかった。
(めんどくさいことになったな、彼岸への扉を開けたいがその隙を与えてはくれないだろうな)
気がつけば風花の魔力がまた辺りを充満していて彼岸に行くことも容易ではなかった。
「どんどんいくっすよー!」
ルカの雷がまた襲いかかり逃げ道を風花の魔法によって塞がれたが、ジュリアーノは今度は回避しようとすらしなかった。
「"炎拳・焔撃ち"」
ルカの雷に合わせるようにジュリアーノの炎を纏った拳が放たれる。
「ルカちゃん!」
風花が魔法で突風を作りルカを吹き飛ばすことによってジュリアーノの拳を回避させる。空を切ったジュリアーノの拳が熱線となって市街地の方に向かっていくが氷河が作り出した氷壁によって止められる。
「なるほど。さすがに多少は作戦を練ってきたようだな。だが俺の対処の為に戦力の半分をつぎ込んだのは失敗じゃないか?俺ほどじゃなくてもアイツは相応の実力者だ、何より俺を相手にたかだか半分の戦力なのが何よりの失敗だな。俺をナメすぎだ!」
ジュリアーノから発される炎が蒼みがかって熱量がぐんぐん上がっていく。その蒼い炎を四肢に纏って3人に攻撃を仕掛けようとするが
「長々と講釈ありがとうございます。あなたが失敗したと思っている作戦の結果を特と味わってください」
風花が魔法の構築を完了させる。ジュリアーノの直上100メートル付近に最新式のミサイルが作られた。
「は?」
ジュリアーノは目を疑った。
確かに魔法というのは自分の想像を現実に再現するものだが、科学によって作られたものを再現するには使われている理論の全てを理解していないと威力が激減するからだ。
そんな理論を勉強するくらいなら自分の魂に合った魔法を極める方がだんぜん効率がいい。
フリーズしているジュリアーノに向かってミサイルが飛んでくる。
1秒もかからずミサイルは地面に着弾し、スカイタワー前広場に破壊の嵐が巻き起こった。
風花がしていた魔力を周囲に発散させるのは普通の人ば出来ません。まず魔力を自分の周囲50センチ以上の距離にはなさことすら普通は出来ません。魔力は魂から生まれるものなので魂から離れることが出来ないからです。
風花が魔力を離すことができるのは一言でいえば天風の最高傑作だからです。




