イルレイン家③
朝、昨日よりも1時間早く蓮は目を覚ました。まだ日も上っていないが雫が朝イチといっていたのでとりあえず早く起きた。
「眠すぎる。とりあえず腹になんか入れておくか。家に連れて行かれたら即修行だろうし」
台所に向かう蓮だったが廊下でエリスに出会う。
「えーと、エリスさんでしたっけ?こんな朝早くにどうしたんですか?寝付けなかったとか?」
「別に敬語は使わなくていい。見たところ同じくらいの歳だろうし。寝付けなかったわけじゃないんだがよ。アタシが昨日あのルカっていうやつの足手まといにしかなってなかったことがちょっとな」
「ああ、あいつ協調性とか全くないからな」
「それ以前の問題だったんだよ。昨日はあたしも疲れてたから詳しい話が出来なかったんだけどよ。アルテリアはアタシ達イルレイン家の魔法を奪うことができるんだよ。だから昨日の戦いでアタシは殴りかかるくらいしか出来なかったんだけどよ、殴りあいの技術なんかアタシは知らなくてな、ルカに邪魔だって言われたよ」
他人の魔法を奪い取れるというありえない事を聞いて蓮は驚くがエリスのフォローを優先することにした。
「いやいや、接近戦の技術を鍛えている魔法使いの方が頭おかしいんだよ」
「それは私のことを言っているのかしら蓮?」
後ろから聞きたくなかった声が聞こえる。そこには笑顔の雫がいた。
「し、雫母さん」
蓮は冷や汗を流しながら何か言い訳を出来ないか考えるが何も出てこない。
「何も言わないということはそう思っているということね蓮。ふふふ、今日からの修行の量はいつもの3倍でいいわね」
蓮が自分の修行の量が増えたことに項垂れているとエリスは雫に向かって信じられないことを言う。
「あの、アタシにも修行をつけてください!」
そういったエリスに蓮は必死で考え直すよう説得する。
「待て待てエリス。確かにこの人は殴り合いの技術は世界最高だが容赦のなさも世界最高なんだ。ほとんど接近戦の技術がないお前だったらワンチャン修行で死ぬぞ!」
「4倍ね」
さらっと自分の修行の量が増やされるが蓮はそんなことは構わずエリスの説得を続ける。
「接近戦の技術なら氷河さんも相当なもんだからそっちに頼もう。俺からもお願いするからあの人なら快く頷いてくれる。命は粗末にするもんじゃないぜ!」
そんな説得を続けるもエリスの瞳には覚悟の炎が宿っていた。
「そう、あなたは覚悟があるようね。愚息とは大違い。あなたに修行をつけるのはわたしとしては大歓迎よ。だけど今あなたは風花様の協力者だからあの子と相談しなさい。許可を得られたら来てもいいわ。 雨守家の場所は風花様が知っているから」
「はい!ありがとうございます!」
エリスは笑顔で答える。
雫は蓮を連れて帰っていった。
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暫くして風花が起きてきてエリスは雫の元に行くことの許可をもらい車も出してもらった。
屋敷から車で1時間ほど移動すると風花の屋敷よりも2倍ほど大きい西洋風の屋敷が見えてくる。
「到着しました」
運転手がそういって車を西洋風の屋敷の前につける。エリスは運転手にお礼を言って屋敷の扉の前にある呼び鈴を鳴らす。
呼び鈴を鳴らして1分ほどたったとき中から扉が開けられる。
「どうぞ」
扉を開けたのは、エリスよりも一回り小さい少女でかなりダウナーな感じだ。エリスは少女に自分がここにきた理由を話そうとするもそれより先に少女が口を開く。
「母様から話は聞いています。案内するのでついてきてください」
そういって少女は屋敷の奥の方に歩いて行く。エリスは少女のあとについていく。
案内をされている間少女は全く喋らないので気まずくなったエリスは話しかける
「えーと、アタシはエリスっていうんだけど。アンタは雫さんの娘さんなのか?」
「はい、雫母様の娘の澪です。愚弟が世話になりました」
「愚弟って蓮のことか?」
「はい。恥ずかしい限りです」
「いやいや。アタシも兄さんもあいつが居なかったら死んでいただろうし、むしろこっちが世話になった」
「そうですか。でもアレは敵を倒せなかったんでしょう?」
この少女はルカと似たような思考回路をしていると悟り日本の魔法使いはヤバいやつばかりかとエリスは戦慄した。
「つきました」
2分ほど歩いただろうか、屋敷の裏手にある道場に案内されたエリスは道場に入ろうとするが道場の中から蓮が吹き飛ばされてきた。それを澪が片手で受け止める。
「危ないところでしたねエリスさん。愚弟なにかいうことは?」
「それは理不尽だろ。俺は被害者だぞ愚妹」
澪に掴まれたまま普通に会話している蓮の顔には汗で髪が張り付いていて体の至る所にあざがある。まだ別れて3時間ほどしか立っていないのにボコボコにされている蓮を見てエリスは少し風花の屋敷に帰りたくなった。
そんなエリスの様子を見て可哀想なものを見る目を蓮が向けてくる。
「本当にきてしまったのか…きてしまったんなら俺から言えることは一つだ。死ぬなよ」
「私をなんだと思っているのかしら愚息。エリスちゃんよくきてくれたわね。ちょうど休憩にするところだったし道場の中であなたのする修行について話をしましょうか」
雫はそういって道場の中に入っていく。続いて蓮も澪も入っていったのでエリスも後についていく。
道場の中は風通しがよく涼しかったが壁には人のかたちの凹みがありエリスは唾を飲み込む。
「いやあ新しい弟子なんて久しぶりだからねえ。ちょっとテンションあがっちゃって組手が盛り上がっちゃったのよ」
エリスが壁の凹みを見ているのを感じて恥ずかしそうに雫は凹みができた原因をいう。
蓮の方から「クソババア」と言ったのが聞こえたがエリスは聞こえなかったことにする。
「さて、蓮は一週間の区切りを持ってここにいるけど、正直あなたをまともに接近戦で戦えるようにするには一ヶ月かかるわ。だから貴女にはここで一ヶ月分の修行を一週間でしてもらいます」
「え?!」
一ヶ月分を一週間に圧縮すると言われエリスは耳を疑った。助けを求めて思わず蓮の方を見るが蓮は首を横に振るだけだった。
「大丈夫。若いうちは大抵何をしても死なないから。この一週間を乗り切ればあなたもアルテリアを殴り飛ばせるくらいに強くなるわよ。じゃあ頑張りましょう」
そうして蓮とエリスの地獄の修行が始まることになった。
「母様。わたくしはもう風花様の元に行ってもよろしいですね?」
「構わないけれど、明日にしないの?今日はあなたにもこの2人の修行を手伝って欲しいんだけれど」
「お断りします。雨守家の次期当主選びも終わった今、うちは一刻も早く風花様に会いたいので」
「はいはい。じゃあ行ってらっしゃい澪」
雫の許可をもらい澪は驚くほどのスピードで道場から出て行った。
「雫母さん。次期当主って誰になったんだ?」
蓮は少しでも修行の時間を減らそうと質問をする。しかし、雫はその質問に答えずエリスに道着を渡す。
「今日の分の修行が終わったら教えてあげる。どうせ予想はついてるんでしょう蓮」
今度こそ2人の地獄の修行が始まった。
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放課後の学校で風花は屋上にいた。
「まさか、エリスさんが雫さんに修行をつけてもらいに行くとは」
エリスから聞ける情報は朝にあらかた聞いておいたから問題はない。しかし、この町の戦力をあまり減らしたくなかった風花はエリスの修行には否定的だった。
風花がエリスの修業を許可した理由は許可するまでエリスが引かないと悟ったからだ。
実際、戦力に関しては澪が来るので問題はない。澪は次期雨守家当主の筆頭候補であり風花もその強さをよく知っている。
風花は自分がエリスを行かせたくなかった理由をよく分かっている。
(私の見ていない蓮のそばに女の子がいる)
嫉妬だ。風花はよく知らない女子が蓮のそばにいるのが嫌でエリスの授業を許可したくなかった。
(はぁ。エリスさんは大変な思いをしてこの国にきたのに。そんな彼女に嫉妬だなんて)
自分の内心の醜さに自嘲してしまう風花。そろそろ家に帰ろうとすると、後ろから声をかけられる。
「風花様!」
驚いて振り向くと明日来るはずだった澪がいた。
「澪っ!?あなた明日来るはずだったんじゃ?!」
「はい!母様からも明日にしないかと言われてたのですが風花様の元に一刻も早く戻りたかったので今日戻ってきました。わたくしが戻ったからにはあの愚弟に負けない戦果を風花様に献上します!」
相変わらずすごい忠誠だなと若干引きながら澪の方を見る。
澪が今まで風花の屋敷に居なかった理由は雨守家の次期当社決めだったはずなので、ここにいるということはそれは終わったということなのだろうと風花は結論づけた。
「風花様?」
風花が何も喋らなくなって何か粗相をしてしまったのかと不安そうな顔で澪が風化を伺う。
「ああ、ごめんなさい澪。それにしてもあなた、もう次期当主決めは終わったということでいいのよね?今ここにいるし」
「それは今夜ですね。どうせわたくしになるのでそんな無駄な時間を過ごすくらいならとここにきました」
自分の一族の一大事だろうに軽い調子でサボってきたと言われて風花はめまいがした。
「ま、まああなたがいいならいいんでしょうね。これで私に雨守家から苦情とかこないわよね?」
「きてもわたくしが黙らせますので大丈夫です」
苦情が来る可能性はあるようだ。あれこれ戦力的にはいいけど制御不能な分エリスがここに居たほうがよかったのではと風花は思い始める。
およそ一ヶ月ぶりに戻ってきた澪は風花への忠誠心が暴走気味だ。
「風花様、母様から聞いております。今この都市には害獣が紛れ込んでいると。ならば、この雨守 澪が駆除してきます」
澪はそういって彼岸への扉を作り出す。
まさかこの子今から一人で彼岸に行くつもりなのかと風花は澪の考えのなさに軽い恐怖を覚えた。
「待って待って待ちなさい澪。雫さんから聞いたのならあなたも知ってるでしょう?今この都市にいるのは貴族とそれに匹敵する魔法使いなの。あなたがいくら強くても一人で彼岸に行かせられないわ」
風花にそう言われ澪はシュンとして彼岸への扉を消す。澪が自分の言うことを聞いてくれて安心する風花。
「今日はもう帰りましょう澪。久しぶりにあなたが戻ってきたしちょっとした歓迎会…はちょっと今から怪我人が多くてあれだから、外に食べに行きましょう」
「はい!是非!」
今日は外食してくると氷河に携帯でメッセージを送って2人は街の中心部に向かっていく。
風花からのメッセージを生徒会室で見ていた氷河は仕事を早めに切り上げて帰る準備をする。
「あれ?会長きょうもう帰るんですか?」
生徒会に所属している男子の一人が氷河が珍しく早めに帰ろうとしているのを見て質問してくる。
「うむ!今日やることは済んだのでな!少し早めに帰らねばならない理由が出来たので今日はもう失礼する」
そう言って氷河はさっさと帰った。
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氷河が家に着くと雨守家の専属医が帰ろうとしていた。
「ご苦労様です!今日はもう帰るのですか?」
「はい。アッシュ殿の意識はまだ戻りませんが容態は安定しているのでいきなり死ぬということはありえないはずです」
「ルカの意識はもどったのか!?」
「はい」
ルカの意識が戻ったと聞き氷河は内心で喜んだ。
「本当はもう少しいたかったのですが、雫様から呼び出されてしまい」
そのことを聞いて氷河は雨守家で修行している2人に何かあったのだろうと理解した。
「では何かあったらまたよろしく頼む!」
医者は車に乗って帰って行った。
氷河が家の中に入り自分の部屋に荷物を置いてルカの部屋に様子を見に行くとルカはすでにベットから上半身だけ起こしていた。
ぼーっと窓の外の景色を見ていたルカは氷河の顔を見て涙ぐむ。
「兄貴…自分負けてしまったっす。相手はただの魔法使いだったのに。雷家の名折れっす」
ルカは自分が魔法使いに負けたことに傷ついている。いつもなら氷河は負けたルカを叱りつけるが今のルカにそんなことをしたら自殺しかねないと思い、 優しくフォローする。
「次勝てばいい!確かにお前が魔法使いに負けたのは問題だが死んでいないのなら次勝てるチャンスがあるということだ!今回の戦闘の反省をして次はちゃんと相手をぶっ殺せるようにすればいい!」
氷河のなんとも言えないフォローだったがルカの心には響いたらしく、その目に力を宿らせる。
「そうっすよね!次勝てばいいだけっすよね!今回は邪魔がいたから攻めきれなかったっす。次は邪魔がいても構わず攻めるっす!」
「それはやめろ。ボク達は強いんだから他人を犠牲にするべきじゃない」
恐ろしい事をサラッと言ったルカを氷河はたしなめる。
「むう。わかったっす」
「よし!ならお前も起きたばっかりで腹が減っただろう。今ご飯を作ってくる!」
「やったー!」
氷河はルカと自分の分のご飯を作る為台所に行った。
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深夜、天風市の繁華街で2人の人影が闊歩している。
「さてジュリアーノいい魂の子はいるかしら?」
アルテリアが歌うように同行者である吸血鬼の貴族ジュリアーノに話しかける。
「そこにいる女だ。魂の質は魔法使いに負けず劣らずといったところだな」
「あらあら。流石は天風家が何百年にも渡って支配してきた都市ね。今まで立ち寄った他の都市とは魂の質が違うわね」
アルテリアはジュリアーノが指差した女を彼岸に連れ去る。
「な、なに?!ここどこ」
さっきまで人の騒がしさがあった繁華街がいきなり月明かりしかない静謐な繁華街になったことに女は動揺する。
「ジュリアーノ」
そんな女の様子はどうでもいいアルテリアはジュリアーノの名前を呼ぶ、するとジュリアーノはその女の首筋に噛みつき少量の血を吸う。
血を吸われた女にアルテリアは注射を刺して薬を注入する。
薬を注入されたのを見てジュリアーノは女の首から口を離す。女はそのまま地面に倒れ込み痙攣する。
「うーん。成功して欲しいなぁ」
その様子を楽しそうに眺めながらアルテリアは自分の実験の結果をまつ。
そうして数分が経過したら痙攣した女は死んだように動かなくなった。
「またダメだった…うーんやっぱり魂の質が魔法使いに近づくと無意識の防衛本能があるのかなぁ。残念」
実験の結果が失敗で終わったと悟って、さっきまであった花が咲く様な笑顔がアルテリアからは消えていた。
そんなアルテリアの様子をつまらなそうに見ていたジュリアーノだったが、倒れている女がゆっくり起き上がっているのを視界の端におさめて女の方を見る。
「どうやら成功したみたいだぞ」
もう次の実験のために表の世界に帰る扉を作ったアルテリアが勢いよく振り返る。
「うそ!もう死んだと思っていたのに!よかったぁ!これでまた一歩完成に近づいたわ」
そうやって喜んでいるアルテリアを、目を覚ました女が混乱しながら見つめている。
「ごめんなさい。あなたのこと忘れてたわ。別にあなたに何かして欲しい訳じゃないのだけれど、まあ今度魔法使いと戦う時に呼ぶから今は帰っていいわよ」
状況を何もつかめていない女はますます混乱している。そんな彼女のこころを支配する声が聞こえる。
「とりあえず、お前はもう俺の眷属だから。死ぬまで俺に尽くせ」
なぜか女はその男の声に逆らえずその男の言う通りにしようと思った。
吸血鬼は基本的に上位者に逆らえない。ジュリアーノのてによって吸血鬼にされた彼女はジュリアーノの命令には絶対服従となる。
「どうやら今回の薬はしっかりしているようだな」
「まだ言うの。確かに前の薬は吸血鬼の階級による支配を無効化してたけど、あれはあれでいいと思うけど。階級を無視したからの成長する吸血鬼だったわけだし」
「ふん、雑魚が俺に逆らうなぞ虫唾がはしる。成長などさせずに、最初から使える程度の強さを持たせればいいだけだろ」
「その薬を作るのが大変だったんだけれど。この薬で作れる人造吸血鬼はどうしても元の魂の質がある程度高くないと血に属性つかないし」
自分が作った薬に難癖を言われて思わずアルテリアは愚痴る。
「ふん、それで次はいよいよ魔法使いに試すのか?この都市にある魔法使いは粒揃いだったぞ」
「あなたが魔法使いをそこまで評価するなんてね。 まあまだ成功した数が少ないからもう少し数を増やしましょう。最低でもあと三体は作りたいわ。どさくさに紛れてしか薬を打たないだろうし」
「なら三体揃い次第魔法使いを攻めるぞ。俺はさっさとこんな国から出たいからな」
「はいはい。正直京都にも行きたかったけどそれは諦めます。早くて三日、遅くて六日ぐらいね」
アルテリアとジュリアーノが今後の方針を決め、吸血鬼の女は彼岸に残して表の世界に帰って行った。
雨守 澪
16歳 肩にかかるくらいの長さの黒髪
身長は小さい
母親である雫のことは魔法使いとしては尊敬しているが母親としてはあまり好ましく思っていない
雨守 雫
38歳 黒髪をポニーテールにしている
THE大和撫子な美人
性格はなかなかなS、母親の時も魔法使いの時も何も対応が変わらない為子供たちには複雑な感情を向けられている。
当代の雫で雨守家は雫という名前を当主になった時に襲名する




