イルレイン家②
ジュリアーノの猛攻をアッシュと蓮の2人は耐え続けていたが、ついにその均衡が崩れる。
アッシュの銀の盾が貫かれ右腕が燃やし尽くされる。
「がぁぁぁ!」
肉が焼ける音とアッシュの悲鳴が上がる。右腕を失ったアッシュに追撃をくわえようとするジュリアーノだったが、蓮が右手に収束された魔力を放ち防ぐ。
「鬱陶しい…お前はあとで相手してやるよ」
ジュリアーノは蓮の魔力砲をその場から一歩も動くことなく受け止める。そのままアッシュに向けて熱線を放とうとする。
「白氷穿通槍」
ジュリアーノが最初に"炎拳・焔撃ち"で開けたビル群の風穴から巨大な氷の槍が飛んでくる。超速で飛んできた氷の槍を炎を纏った手で受け止めようとするがその氷槍は溶けることなくジュリアーノを吹き飛ばした。
「今の魔法は氷河さんの。助かった」
その魔法に心当たりがあった蓮は、援軍がきてくれたことに歓喜して、右腕を燃やされた痛みで気を失っているアッシュの体を抱えて氷槍が飛んできた方向に向かって走り出す。
「蓮くん!無事だったか!何よりだ!」
「助かりました氷河さん。こっちにきたのは氷河さんだけですか?ルカの方もだいぶやばそうなんですけど」
ルカが"紫電破城砲"を打ってたのは戦っていた蓮からも見えていた。あの魔法は彼女の切り札なので打ってなお戦闘が継続していたらかなり不利な状況になっている。
蓮がルカ達の戦っていた方向を確認するとそこには自分がよく知る人物がいた。
「大丈夫だ!あちらにはボクよりも圧倒的に強い彼女が援護に行っているからな!」
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氷河が蓮達の援護に来た時ルカとエリスはアルテリアが生み出した銀の武器に周りを取り囲まれていた。
「じゃあね、エリスちゃん雷ちゃん」
アルテリアが腕を振り下ろしトドメをさそうとするが何者かに腕を掴まれた。
いきなり腕を掴まれたアルテリアは自分の腕を掴んでいる人物の方に振り向く、そこにはニコニコと笑顔の妙齢の女性がいた。
その女性の顔に見覚えがあったアルテリアは息を呑む。
「覚悟はいいかしら?」
女性が掴んでいる手に力を込めるとアルテリアの全身から力が抜ける。発動していた魔法も全て霧散してしまいアルテリアは困惑する。
「はい、掌握完了。あなたが何者で何が目的なのかはじっくり聞いてあげます」
自分の体に力が全く入らずアルテリアは歯噛みする。
(まさかこの方がこのタイミングで来るとは思いませんでした。人類最強の魔法使い雨守 雫。この国で2番目に会いたくなかった魔法使いですけれど今回は運がこちらに味方しましたね。)
自分の体にはいぜん力が入らないがアルテリアは自分の幸運に感謝する。
アルテリアを片腕で抑え込んでいる雫に熱線が複数襲いかかる。それを空いている方の手で受け止めようとするも熱線は複雑に曲がりそれはアルテリアをも 巻き込む軌道になり雫はアルテリアを振り回して回避させるが、振り回していたアルテリアをジュリアーノに取られてしまう。
「ずいぶん仲間思いになったのねジュリアーノ。その子あなたが大嫌いな魔法使いだけれど?」
「相変わらずムカつくやつだな今代の雫は。こいつは使い道があるからなまだ殺さないだけだ」
「そう、どうでもいいけれど。あなた達2人はここで捕らえさてもらうから」
「できると思うか?」
そう言うとジュリアーノは炎の玉を自分の手から作り上げる。
「"炎球・焔弾き」
炎の球が爆発する。
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「で、どうだったんだこの国の魔法使いは?」
爆発によって逃げることに成功したジュリアーノとアルテリアは表の世界にいた。
「強かったですね。わたしが戦っていた雷ちゃんもですがあなたが戦っていた彼もです。ていうか彼、一度も魔法を使いませんでしたが何か知ってます?」
「知らない。知らないが魂の質は極上でありながら魔力はほとんど無かった。体質か何かだろう。その代わりの"魔女の作品"で補っていたようだし」
「"魔女の作品"!やっぱり彼の右腕はそうでしたか。体に直接"魔女の作品"をくっつけるなんて彼の血液とか採取できれば研究が捗りそうですね」
「さっさと完成させろ。真祖様が期待しているのだからその期待を裏切るなよ」
「わかっていますよ。わたしの夢の為にも必ず完成させます」
「さっさとしろ。"魔法使いを吸血鬼化させる薬"があればようやく魔法使いどもを滅ぼせる」
それだけを言うと2人は夜の闇に消えていった。
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「逃しちゃったわね」
炎の爆心地にはすでにジュリアーノとアルテリアの姿はなかった。
「こっちも死人はゼロだし、痛み分けかしら」
ルカとエリスを抱えた雫は自分を納得させるようにいった。実際2人を庇わなければ少なくともアルテリアは確保できていただろうが雫が2人を見捨てないとふんでのあの爆発だった。
「氷河くんは先に帰還したみたいね。あの子は身内に厳しいけどそれ以外の人には甘いのがねぇ」
「あ、あのー。もうアタシは離してもらって大丈夫です」
抱えられているエリスが話しかけてくる。それを聞いて雫はエリスを地面に降ろす。
「ああ、ごめんなさい。あなたにも聞きたいことはあるんだけど、今はルカちゃんを医者に見せたいしついてきてもらっていいかしら?」
そうして2人は蓮たちの屋敷に向かう。
2人が屋敷に着くと既に雨守家専属の医者がアッシュの治療をしていた。
「傷口が燃やされているのは不幸中の幸いでした。出血はほとんどなく、痛みによる気絶なのでじき目を覚ますでしょう」
医者がそう言うのを聞いてエリスは安心したように息をつく。
「それはよかったわ。じゃあルカちゃんも見てくれる。止血はしたけどその前に血を流しすぎていたみたいなの」
「了解しました」
それだけ言って医者はルカを抱えて別の部屋にいった。
広間には氷河と蓮それに風花がいてアッシュは離れた位置に寝かされている。
「はじめまして、エリス・イルレイン様。今日何があったかはそこにいる雨守 蓮に聞いています。だからまだ私たちの知らないアルテリアと吸血鬼について知っていることを教えてもらえれば」
風花がそういってエリスに情報を求めてくる。
エリスはここにいる全員に自分の知っているアルテリアの情報を説明する。
そうして教えられた情報には信じられない様なものがあった。
「吸血鬼を進化させる手段を開発した?」
吸血鬼はどれだけ長生きしても貴族になることはない。それが今までの常識だったため、そんな常識を覆す手段が出来たことに一番の年長者である雫が呻いた。
吸血鬼という種において最も数がいるのが貴族ではない普通の吸血鬼なので、それが全て貴族と同じように血の属性が使えるようになるということは魔法使いにとっては歓迎できない情報だ。
「はい。それを具体的にどうやってするのかはアタシもわからないんですけど、吸血鬼は自分の親の貴族と同じ属性になるみたいなんす」
「なるほど。昨日の吸血鬼はそれで炎を使えたのか」
「その通りです。えーと昨日アンタ達が倒した吸血鬼が進化した吸血鬼でアタシ達は人造吸血鬼っていってます」
「昨日の戦いを見ていたのか?」
蓮は昨日の戦いでは視線を感じなかったため見られていた事実に驚く。
「はい、魔法で作ったカメラで見てて、兄さんがアンタの感覚は鋭敏で気を散らせるべきじゃないって言われたから」
「マジかよ…」
自分の感覚に自信があった蓮はそんな手段で自分は視線を感じなくなるのかと落胆した。
「あなたは正確には視線じゃなくて自分に向けられている意識を感じ取っているからねぇ。鍛え直したほうがいいかしら?」
雫は自分の息子の不甲斐なさに呆れて、蓮に対して棘のあることを言う。
「それはまた今度にとっておいてください雫さん。それでエリスさん、何故アルテリアがそんな手段を作ったかはわかりますか?」
「アタシもアイツと話したことはほとんど無くて、兄さんから聞いたことなんだけど、アイツは野望があってそれを叶える為には自分が人間のままじゃダメだっていつも言ってたらしいです。アイツの事はアタシより兄さんに聞いた方がいいです」
「情報ありがとうございます。最後にもう一つ聞きたいのですが、あなた方はどうしてこの国に来れたのですか?欧州の魔法使いとなると戦力を外に出すような真似はしないはずですが、例え裏切り者が現れても」
欧州は吸血鬼勢力が支配している為、それに対抗する魔法使いは貴重な戦力だ。それが外に出ていることは異常事態といって差し支えない。
風花は一応予想しているが真実を聞いておきたかった。
「はい、多分予想してあると思うけど、アタシ達一族はもうアタシと兄さんしかいません。アルテリアと吸血鬼に滅ぼされました」
予想通りの答えが返ってきて、風花は自分の予想が合ってたことにうんざりする。
「辛いことを聞いて申し訳ありません。わかりました。私、天風 風花はあなた達に協力を約束します。当面の宿はこの屋敷を使ってください。部屋はいくつもあまっていますので」
協力を約束されてエリスは涙ぐむ。
「ありがとうございます」
「さあ、今日は疲れたでしょうもう休んでください。空いている部屋に案内します」
風花とエリスが広間から出て行った。
「相変わらず自分の感覚に頼り切りなようね蓮」
雫から蓮へと小言攻撃が始まった。雫は蓮の師匠であり義理の母親でもある為中々蓮には厳しい。
「いつもいってたでしょう曖昧な感覚に頼りすぎるなって。あなたの視力なら自分を見ていたカメラくらい見つけられたでしょ。それに今日もジュリアーノを殴り合いで圧倒出来ないなんて」
「いやいや、カメラで見られてたのは戦闘中だったし無理だって。それにジュリアーノは一番古い吸血鬼って聞いたぞ。圧倒するのは無理だって」
「言い訳しない!カメラの件は百歩譲っていいとしてジュリアーノの事は許せません。雨守の名を持つのなら殴り合いぐらいどんな相手でも圧倒しなさい!」
なかなか理不尽な事を言われているが蓮は火に油を注がないように何も言わない。
『相変わらずどことなく脳筋な考え方ね、今代の雫ちゃんは。一応気にしなくてもいいと思うわよ蓮。アイツ要所要所で炎で自分を加速させてたからあなたと殴り合えてたんだし』
ドロシーにそうフォローされて、蓮はドロシーに言われたことをついそのまま雫に言ってしまう。これ以上の説教をされたくなかった為にしてしまった行為だが、結果的に火に油を注いだだけだった。
「そんなもの技でねじ伏せればいいでしょう!全くあなたはドロシーと肉体の性能に頼りすぎなのよ。もっと洞察力を身につけなさい!」
今日は朝まで説教になるかも知れないと蓮が戦慄していると今まで言葉を発していなかった氷河から助け舟がくる。
「いやいや!大したものですよ蓮は!貴族を相手にして目立った傷もないし、ボクが戦ってたら殺されてましたよ相性的に」
氷河のフォローが入り雫は説教を切り上げる。言いたいことはまだまだあるがなんとか飲み込んだようだ。
「はぁ…まあ氷河くんの言う通りでもあるか、よくやったわね蓮」
一つの褒めに対する説教が長すぎて蓮も素直に受け取れない。
蓮が若干こころに傷を負っているところにエリスに部屋を案内してきた風花が戻ってきた。
「ただいまです。うん?なんで蓮は若干へこんでいるんですか?」
それ以上の追求はせずに風花がこれからの話をする。
「さて、私たちはイルレインの2人に協力します異論はありませんね」
誰からも声が上がらない。
「よろしい」
「風花様、一つ質問があるのだけれど協力ってどこまでするの?あの2人がこの町から出ていた場合はそれも追いかけるの?」
「いえ、それはしません。あくまで敵がこの町にいる限りの協力です。私はこの町をお父様から任されていますのでこの町から離れることはしません」
「それを聞いて安心したわ。じゃあ敵がこの町を離れた場合は雨守家が追撃します」
「ただ、部屋に案内する時にエリスさんが言っていたんですけれど、その2人がこの町から離れる可能性は低いみたいです」
「なぜ?」
「理由は聞けませんでした。彼女もかなり疲労していて部屋につくなり気を失ったように眠ってしまいましたし」
敵がこの町から離れない理由は雫にはわからないが、他の町ないって吸血鬼を増やされても困るのでこちら側には好都合だった。
「じゃあ、敵がこの町から離れないことを前提にしてあなた達はどうするの?」
「ルカちゃんとアッシュさんが回復するまではなるべく彼岸に行かないことにします」
「それはいいと判断だわ。私も自分が管理している町に行かないといけないし、戦力が整わないうちに戦っても返り討ちにあうだけだもの。それでルカちゃん達の回復まで暫くかかるだろうし、今から一週間ほどそこの愚息を貸してもらっていいかしら?」
「えっ!?」
唐突に自分の身柄を要求されて蓮は断れと風花に念を送る。
「なぜですか?正直にいいますと蓮がここから離れるのは戦力的に厳しいんですが?」
「ちょっと鈍っていたようだから鍛え直したくてね。あと蓮が抜ける分の戦力に関しては問題ないわ。雨守家の用事が明日には終わるから明後日には澪をこっちに寄越すので」
「澪がですか!ならどうぞ」
自分が鍛え直されるのは確定して蓮は項垂れる。
「じゃあ、今日はここまででわたしは帰ります。蓮 行くわよ」
蓮の襟首を掴んで雫はそのまま帰ろうとするも風花が止める。
「どうぞといっておいてなんなんですが。蓮を連れていくのは明日の朝にしてもらってよろしいですか?話しておきたいことがあるので」
確かに蓮は今日の戦闘で疲れていた。このまま雨守の家に連れてってもまともな修行は出来ないため雫はその提案を受け入れる。
「わかったわ。じゃあ明日の朝イチで迎えに来るからちゃんと起きてなさいよ蓮」
そういって雫は帰っていった。
今日中に帰らずにすんでホッとしている蓮だったが話したいことがあるといっていた風花になんのことかを聞くが、風花から夜ご飯の後に部屋で話すと言われてその場は解散となった。
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そうして夜ご飯が終わってみんながそれぞれの部屋に戻っていく。蓮は風花に言われた通り彼女の部屋の前に来ていた。
「風花いるかー?話を聞きにきたぞ」
間も無く風花から入っていいと部屋の中から言われ蓮は部屋の中に入る。
そこには涙の跡がある風花がいた。
「なっ!?どうしたんだ風花」
慌てて風花に駆け寄る蓮。
「ごめんなさい蓮。私も一緒に行っていたらあなた達があんなに傷つくことはなかったのに」
風花は自分の指示で蓮が傷つきルカが意識不明の重傷を負ったことに涙していたようだ。
「そんなこと気にするな。ルカは楽しそうに戦ってたし俺だってお前の護衛なんだからいちいち気にしてたらお前がもたないぞ」
「それでもやっぱり私も一緒に行けばよかった。あなた達だけを傷つけるなんて」
「いやいやお前に傷がついたら俺たちの存在意義がなくなっちまうだろ。ホント気にすんなって」
風花は天風の最高傑作であり蓮たちとはその身の価値が違う。その事は十分風花はわかっているのだが、友人が自分のせいで傷つくのは割り切れない。
「誰も死ななかったんだしいいんだよ風花」
「うん、ごめんなさい蓮。ありがとう」
風花は落ち着いたようで蓮は安心する。彼女の想定外なことが起こると動揺するというのは戦闘以外の時もなので今回もルカがあんな状態になったために心が弱っていたんだろう。
「よし、それで話ってのはこれだけか?俺も明日早いらしいから寝て起きたいんだが」
「そうね。本当にありがとう蓮。ごめんねこんな弱いご主人様で。おやすみなさい」
「お前は弱くなんかねえよ。おやすみ」
そういって蓮は自分の部屋に戻って明日に備えることにした。
風花は蓮のことが好きだけど蓮はそのことに気づいていません。
蓮にとっての風花は自分の半身のような存在なので恋愛感情はありませんが深い愛情を持っています。




