エリーゼ・イルレイン
本年の更新はこれで最後です。
遅くなって申し訳ない
約五百年前、エリーゼ・イルレインはヨーロッパにあった小国イルレイン王国の第一王女として生を受けた。
エリーゼは輝く様な銀髪を持ってこの世に生まれたが、イルレイン王の家系に銀髪の人物は存在せず6歳になるまで両親に疎まれ城の離れで過ごしていた。彼女が一つ下の弟の存在を知ったのも6歳になった時だった。
エリーゼが6歳になった時に彼女の人生に最初の転機が訪れる、銀魔法の発現だ。エリーゼはこの時代にはほとんど存在しない魔法使いであり、彼女の銀髪は上質な魂の影響によるものだったのだ。
エリーゼは城の離れから銀の球体によって中庭まで降りてきて城の者たちを騒がせた。その後彼女の父親であるイルレイン王によって銀魔法の価値を認められて城で家族と共に過ごす様になる。
そこからの数年間はエリーゼの人生にとって最も満ち足りたものであった。弟である第一王子や母親との交流、メイドや騎士とも仲良くなり彼女は初めて"楽しい"という感情を知った。この頃の彼女はお転婆という言葉がよく似合う活発な少女となっており、よく城下町に一人で行って城中の人間を騒然とさせていた。
エリーゼはその美貌と輝く様な銀髪で国民のハートをガッチリと掴んでいた。城下町に降りれば憧れの目線を向け彼女のために頑張るぞというやる気が湧いてくる。そう国民に思われるほどには慕われていた。
ある日エリーゼが一人で城下町に降りた際一組の兄弟に出会う。その兄弟はみすぼらしい格好でイルレイン王国では滅多にみない他国の戦災孤児だった。イルレイン王国は小国ではあるが大国がその後ろ盾になっており先代の王の時代から大規模な戦争は起こっていなかった。
エリーゼは初めて孤児を見てその有様に悲痛な思いを抱く。そうして彼女はその兄弟を城に連れて行き、エリーゼの脱走に慣れつつあった城の人たちを改めて騒然とさせた。
エリーゼが引き取った兄弟は兄がジュリアーノ、弟がカルヴァンという名前で彼女に引き取られた当初は栄養失調な状態でエリーゼより体格は小さかったがどちらも彼女よりも年上だった。
ジュリアーノとカルヴァンはエリーゼに引き取られた恩を返すためにイルレイン王国の騎士を目指し、数年後彼女の専属騎士となる。
そうして穏やかな日々を過ごしていたエリーゼに第二の転機が訪れる。
エリーゼが12になった頃に突如父王が周囲の国に侵略戦争を行ったのだ。
父王はエリーゼの魔法を見た時から軍事利用出来ないかを考え、その為に彼女に自由を与えて魔法をのびのびと使える環境を与えた。彼女は初めて魔法を使用した時から1日も欠かさず魔法の修行をしていた。もっとも修行といってもただ魔法を使って遊ぶだけだったので彼女にとっては楽しいものだったが。
そうしてエリーゼの魔法が熟練したのを機に父王はエリーゼに魔法で武器を作らせ侵略戦争を始めた。
エリーゼが作った銀の武器は凄まじい強さだった。時間経過で消えてしまうが、数千の武器と防具が一時間以上構築し続けられ、銀の武器は敵の防具を切り裂き、銀の防具は敵の攻撃を完全に防ぐ。魔力で構築されているため重量も軽くなっており全力疾走も出来る兵士達によってイルレイン王国は領土を増やしていった、一人の王女の笑顔と引き換えに。
エリーゼは民のためにと自分を言い聞かせ父王の言う通りに武器を作り、戦争中に兵士達が危地にいたら飛んでいって自らの魔法によって敵を殺し尽くした。
輝く様な銀髪を持って戦場をかけるエリーゼを見て周辺の国家は"イルレイン王国には銀の魔女がいる"といって、イルレイン王国と戦うこともせず領土をあけわたす事で戦争そのものを回避していた。
そうしてイルレイン王国は大国となり侵略戦争もほとんど無くなって平和が訪れたがエリーゼの顔に笑顔は戻らなかった。彼女は自らの魔法によって幾人もの兵士を殺しその感触を忘れられなかった。
ジュリアーノとカルヴァンは護衛騎士としてエリーゼが戦場に行こうとするのを止めていたが、彼女は味方の犠牲を抑えようと2人の制止を振り払い度々戦場に出ていた。
エリーゼが16になった頃に彼女の人生の最後の転機が訪れる。1人の旅人が彼女の笑顔を取り戻してくれたのだ。
その旅人の名前はゲン、東方からの旅人で"銀の魔女"の噂を聞きはるばるイルレイン王国に来た魔法使い、のちに天風 源一郎と名乗る魂の持ち主だった。
ゲンは魔法使いと自称しエリーゼとは違い様々な物質を無から生み出してみせた。城下町でそんな事をしていた彼を、たまたま町に降りてきていたエリーゼは見つけて初めて自身の同類に会えた事に涙を流した。
そうしてエリーゼはゲンを城に招き色々な話をした。彼は東方の島国から来た事や自分達が使っている技術は魔法であり、自分達は魔法使いであり魔女とは違うという事。
そしてエリーゼは自らが人殺しだということも打ち明けた。その事を聞いたゲンは魔法によって人を殺すと自らの魂に相手の魂の残滓が触れてしまい精神を病んでしまう、それでも貴女は国民の為にと自らを奮い立たせて平和を勝ち取ったそれはとても尊い行為だと言ってくれた。
そうして自らの同類であり理解者を得たエリーゼは笑顔を徐々に取り戻していった。
ゲンはしばらくイルレイン王国にいる事になって城で暮らす事になり、よくエリーゼと共に過ごしていた。
エリーゼとゲンは互いに惹かれあい彼女が18になった時に2人の子供が産まれた。産まれた赤子はエリーゼと同じ銀髪を持っていてゲンの特徴を全く持っていなかった。そんな赤子を見てゲンは小声で「違う」とだけ言ったがエリーゼにはその言葉が聞こえなかった。
赤子が産まれてしばらくしてからゲンの姿が城から消えてしまい、エリーゼは出産の疲労とのダブルパンチにより体調を崩してしまいベッドで寝たきりになってしまった。
ゲンが姿を消したのと同時期にイルレイン王国やその周辺諸国で魔女狩りの風潮が突如強まった。
その魔女狩りの目標となったのが"銀の魔女"であるエリーゼだった。寝たきりになっていた彼女は訳もわからず父王によって魔女として吊し上げられ、国民からも石を投げられ公衆の面前で裸にさせられてありとあらゆる恥辱を受けさせられた。
エリーゼを守ろうとした2人の護衛騎士も拷問を受けてエリーゼと共に城下町の広場に吊るされて火炙りにされるのを待つだけとなっていた。
そうしてエリーゼは自らの国民と父王ひいては人間に絶望した。そんな彼女に1人の女性の声が届く。
「あらら、"魔女狩り"なんていうからわたしが狙われてると思ったら、ただの魔法使いじゃない」
目をくり抜かれたエリーゼにその女性の姿はわからないが声を聞くだけでその女性の得体の知れなさだけは理解出来た。
「貴女明日火炙りにされるみたいだけど助けてあげよっか?」
気楽な調子で聞いてくる女性にエリーゼは自分よりもジュリアーノとカルヴァンを助けて欲しいと言った。
「うーん、それは無理かな。その2人もう虫の息だし魔法使いでもないしね。だけど貴女がわたしの助けを求めてくれたなら貴女がその2人を助ける事は出来るわ」
そう言われてエリーゼはその女性の助けを受ける事を即決した。
「ただしその代わりに貴女は人類の天敵になってもらうわ。それにわたしがいま作っている世界の楔として使わせてももらう、つまるところ人柱みたいなものね。それでもいい?」
人類に絶望したエリーゼには願ってもいない事だった。彼女は人類からもこの世界からも逃げたかった。
「ありがと!じゃあ貴女を助けてあげる!ほんと助かったわもう、これでやっと始められるわ」
彼女の言っていることの意味はエリーゼにはわからなかったがまもなくエリーゼの瞳が再生され光が戻ってくる。
今は夜であり月がなく星の明かりのみが世界を照らしていた。エリーゼ達のいる広場にはひとっこひとりいなかった。ただ夜であるのに以前の自分の瞳より遠くを鮮明に見通せる自らの状態に困惑する。
「貴女は今この瞬間をもって"絶滅指定種 真祖"になったわ。どうか人類を滅ぼす為に頑張ってちょうだいね」
笑顔でそう言う女の姿を見ると今まで見たことのない服装をしており頭に被っているとんがり帽子だけが彼女が魔女であることを主張しているようだ。
エリーゼはジュリアーノとカルヴァンをどうやって助ければいいかを聞いた。
「血を吸えばいいのよ。貴女は"真祖"なんだから、血を吸った人間は吸血鬼になってある程度頑丈になるわよ」
言われてすぐにそれぞれの首筋に牙を突き立て血を吸うとしばらくして2人の傷が治っていき目を覚ます。目を覚ました2人の目は赤くなっており2人に聞くと自分もそうなっているとエリーゼは言われた。
「うんうん。じゃあこれでわたしはお役ごめんね。ほんと貴女がいてくれてよかったわエリーゼちゃん。これでやっとあの老害を縛り付けられるし」
去っていこうとする女性の背中に感謝を伝えて、最後に名前を聞いていなかった事を思い出し、エリーゼは魔女の名前を聞く。
「そういえば言ってなかったっけ?わたしはドロテア一部からは"原初の魔女"なんて呼ばれてる妹思いのただのお姉さんよ」
ドロテアと名乗る魔女はそこまで言うと去っていき、それからしばらくしてエリーゼ達の周辺の空間は歪む。しかし周辺の景色はほとんど変わらなかった、夜空の中心に輝く満月以外は。
世界に初めて彼岸とその主が産まれた瞬間だった。
エリーゼが消えたイルレイン王国は周辺諸国によってすぐに滅ぼされた。その理由は単純に恨みを買いすぎていたことと、武具をエリーゼの魔法に頼りきりで、大国であったにも関わらず武具を作る職人が不足していたことだった。
イルレイン王国が滅んだという知らせを彼岸の外に出ることが出来るジュリアーノとカルヴァンから聞いたエリーゼは何の感慨もわかなかったが、その後に彼らから弟と娘は死体を確認できていないと言われ、何かを考える様なそぶりを見せるもすぐに黙って2人を下がらせた。
そこからエリーゼは表の世界のイルレイン王国の城があった場所に城を作りその城を魔城と呼んだ。時々彼岸に迷い込んでくる人間の血を吸って吸血鬼(貴族)にしたり、逆に血を与えたらどうなるかなどの実験をしたりして吸血鬼の勢力がどんどん増えていった。
そうして百年の時が過ぎたある日、1人の貴族が滅ぼされた。人間に滅ぼされた吸血鬼は今まで1人もいなかった為その知らせは驚愕のものであった。
吸血鬼を滅ぼす人間は複数いてそれが徒党を組んで魔城に攻め込んできた。彼らは人間であった時のエリーゼと同じ魔法使いで確かに吸血鬼を滅ぼす力があった。ただその中の1人の魔法は異様に吸血鬼の体に効果的だった。その魔法は人間であった時のエリーゼと同じ銀魔法であった。
銀魔法を扱っていた魔法使いだけを生かして他はジュリアーノが全て消し炭にした。
エリーゼは魔法使いに名前を聞くとイルレインの名前と自らの娘の子孫だという事を明かされる。"真祖"という人類の天敵を生み出してしまった自らの血筋の汚名を払うためエリーゼを滅ぼしにきたとも告げられる。
自らの子孫が自分を滅ぼしに来たという事実によろめくエリーゼだったが、動揺している彼女を見て魔法使いは魔法を構築してその首筋を狙うが、彼女の隣にいたカルヴァンによって逆に首を切られてしまう。
カルヴァンはエリーゼの目の前で彼女の子孫を殺してしまった事を悔いて自害しようとするが、それは彼女に止められる。自分の子孫であろうとも人間であるならそれは滅ぼさなければいけないと言って覚悟を決めた。この時に吸血鬼勢力は魔法使いとの全面戦争を始める。
それからは怒涛の日々だった。
欧州の魔法使い勢力との戦争や、極東の島国の魔法使いの脅威的な力によって貴族の半分以上が滅ぼされたり、かつての自分の夫だった者との再会、他の彼岸の主との邂逅。彼岸から動けない身ながら忙しい日々が続いた。
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「夢か…」
現代の魔城にあるエリーゼの玉座で彼女は目を覚ます。
「真祖になってから睡眠なんて無縁だったのに私も気が緩んだのかしら」
彼女にとって今回の"絶滅戦争"は五百年待った最初で最後のチャンスなのだった。人類を滅ぼす事は確かに"絶滅指定種"ならば可能なのだが、手ずから滅ぼすとなると大変な大事業になってしまう。それを手助けするのが魔術儀式"絶滅戦争"だ。魔女ドロテアが"絶滅指定種"と定めた存在達に託した大魔術でありその効果は宣言した日からひと月の期間だけ人間の代表者(魔法使いで最も魂の価値が高い者)を設定されてその代表者を殺す事で同じ種族も道連れに出来るというものだった。
これまではエリーゼ自身が日本の彼岸に向かうことは出来なかったが、アルテリアが擬似真祖になったことで魔城と魔都が繋がり足がかりができた。彼女にとってこれは千載一遇だった。
現在"絶滅戦争"の宣言は魔女アンビーの特権により保留となっており、アンビーが魔城と魔都に張った"霧"がおさまった時点で"絶滅戦争"が始まる。
「あと二月でやっと終わる。ゲン、貴方に恨みはないけれどわたしも自分の子孫と戦争をするのは疲れたわ、だからもう終わりにしましょう。貴方を殺したらわたしもすぐに死んであげるから」
エリーゼの独白は誰にも聞かれる事は無かった。
世界で初めての"絶滅戦争"まであと2ヶ月。
イルレイン家の銀魔法
真祖となったエリーゼと似た魂を持っているイルレイン家の銀魔法は彼女や彼女の眷属の血(魂が混ざった)を吸収してその再生を阻害する。
ただし銀魔法で吸血鬼の血を吸収しすぎると吸血鬼に変成するがそこまでいったものはイルレイン家の歴史上でも1人もいない。
吸血鬼
真祖を含めた吸血鬼は人間の頃にあった魂が血液と混ざって、血がある限り滅びることはない。
血流の核である心臓と思考をする脳を潰されると不死性ががくんと落ちるがまだ滅んではいない。その後に魔法によって血液を破壊されることで滅びる。




