西からの使者
スカイタワーで起きた大事件により、天風市にある大学を含めた学校は全て臨時休校になっていた。
一週間がすぎてもこれ以上の事件が起こらなかったため今日から再開することになり、蓮は修行の期間を合わせておよそ二週間ぶりの学校に行くことになった。
「久々の学校だぜ」
「アタシは憂鬱だぜ。友達出来るかなぁ」
エリスは蓮たちの通う学校に転入することになった。
これは風花が決めたことで、自分たちと同い年だし学校に一緒に行けばもしも何かあっても全員で対応できると主張して決まった。
エリスは幼い頃から欧州の魔法使いとして生きてきたので、学校に通うのは初めてだ。
初めての学校に怯えと期待が半々になっているエリスに澪が話しかける。
「そんなに緊張しなくても、わたくしや風花様も同じクラスだし、いつでもフォローするわ」
「俺もな、俺も同じクラスだしフォローするぜ」
「愚弟がなにか言っていますが無視でお願い。さあ行きましょうか」
澪とエリスが学校に向かい蓮もついていこうとするが新しい住人に話しかけられて止まる。
「ふふっ、相変わらず仲いいな。あーしも氷河くんと一緒に学校行きたい人生だった」
冗談か本気か分からず苦笑いを浮かべる蓮。そんな様子の蓮を微笑ましそうに見る夏燐。
「お前も相変わらず可愛いな。風花の護衛なんかじゃなかったらあーし直属の部下にしてたのに」
「なんかって。そっちも相変わらず風花のことが嫌いなんですね、同じ家に住んでるんだから仲良くしてもらったら助かるんですけど」
「難しいな、それは。あの子が次期当主である限りあーしのわだかまりは消えない。あーしは今でも春禍姉様の方が相応しいと思ってるからな」
「そうですか…わかりました。行ってきます」
「おう、いってらっさい」
夏燐に見送られ蓮は学校に向かった。
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久々の学校で蓮は質問責めにあったが、エリスの転入によりそれ以降クラスの話題はエリス一色だった。
昼休み蓮はシュウと一緒に昼食を食べていた。
「もう、全く連絡つかないからあの事件に巻き込まれたと思っただろ」
「悪かったよ、色々あって立て込んでたんだ」
「いーや、許さないね。お詫びとして今日の放課後は一緒にラーメン食いに行くこと。いい」
「はいはい、チャーシュー1枚でいいか?」
「2枚」
「仰せのままに」
蓮はシュウに立て込んでたと言ったが正確には寝込んでいた。
スカイタワーの一件でオーバードライブを使った蓮の体は内側からボロボロになっていて、ドロシーの影響で常人よりも体の回復も早くなっている蓮でも全快までに丸々一週間かかった。
シュウとの会話を楽しんでいる蓮に質問せめにあっているエリスの姿が見えた。
外国人の転入生なんて注目される要素が山盛りで、しかもエリスは今まで魔法使いとして生きてきたので、表の世界の人間と深く関わったことがないそのためかなり困っている様子だ。
エリスの困っている姿を見かねた蓮は助けに行こうと立ち上がるがそれより早く澪が動いていた。
「みんな、あまり彼女を困らさないであげて。彼女も日本にはまだ慣れてないだろうし、初日からそんなに質問せめしたら嫌われるわよ」
澪の言葉を聞いたクラスメイトたちは、エリスに謝ってから離れていった。
「相変わらずかっこいいね澪ちゃんは。そういえばこの前、蓮と澪ちゃんどっちが上か聞かれたんだけどまだ決まってないの」
エリスに助け舟を出した澪を見ながらシュウは蓮に今まで何回もした質問をする。
「そんなもの昔から何回も言ってるだろ、俺が「私が姉よ」」
蓮の言葉を遮って澪が言う。
「確かにわたくしが転校してきてからすぐに休校になっていたものね。じゃあみんなに教えてあげなきゃね、わたくしが姉です」
澪の姉宣言に何故かクラスメイトは大盛り上がりだ。数人のクラスメイトは悔しがっている。
「やっぱり澪さんが姉だった!」
「わたしもそうじゃないかと思ってたのよ」
「じゃあ、賭ければよかったじゃん」
「くそー。逆張りしちまったー」
「はいはい、澪ちゃんに賭けてたやつは集まって取り分配るから」
どうやら蓮と澪のどっちが上かで賭けを行っていたらしい。しかも胴元は蓮の目の前にいるシュウだった。
「シュウお前なぁ。というか言っておくが俺が兄だからな、澪は妹だぞ」
蓮が自分こそが兄だと主張するが、クラスメイトは苦笑いだ。
「いやいや蓮、それは無理だって」
「うんうん。蓮くんは弟って感じだし」
「そうそう、澪さんは姉力が凄いしな」
クラスメイトの中ではどうやら最初から澪が姉派が大多数を占めていたようで、蓮の主張を誰も信じない。
「嘘だろ」
「しょうがないよ蓮。澪ちゃん、蓮が居なかった四日間でクラスのご意見番みたいな位置についちゃったし、みんなからも尊敬されてるし勝ち目はないよ」
「シュウ、どうせお前が最初にこの議論始めたんだろ?」
「うん、楽しかった。あ、僕の取り分で学食のパンなら奢ってもいいよ」
「結構だ!ばか!ていうかお前の取り分て、見た感じ勝ったやつが大多数だったし胴元のお前の取り分なんてないだろ」
「いやいや、それがこの食券の提供は風花ちゃんからなんだよ。彼女も楽しんでたよ」
「風花ぁ?!」
まさか自分の雇い主がこの賭けを取り仕切っていたとは思わず呻いてしまう蓮。
「あはは、みんな楽しそうだしいいじゃん」
そんなことを言うシュウの頭にチョップをして、蓮は昼食を再開する。
本日の授業が終わり、放課後約束通りにシュウとラーメンを食べに行った蓮は夕食前に屋敷に戻ってきた。
屋敷の広間に行くとエリスがぐだーっと寝転がっていた。
「どうしたんだエリスは?」
「疲れたみたいよ愚弟。今まで魔法使いとしかコミュニケーションしてなかったから、普通の女子高生のバイタリティを甘く見てたのね。放課後クラスの女子と繁華街の方に行って色々回ってきたらしいわ」
「なんだあいつら。なんであんなに甘いもんを食べれるんだよ。アタシはもう二軒目で胸焼けしそうだったんだが」
心底疲れた声がエリスから聞こえてきた。
「お前。左手は大丈夫だったのか?」
「それは見ての通りな」
そう言って左手を上げるエリス。
スカイタワーでの戦いでエリスは左手を失ったなのに今の彼女に左手がある理由は彼女の銀魔法によって作られているからだ。
本来なら風花の魔法によって欠損した部位を戻すことができるのだが、エリスは自分への戒めとして断った。
銀で作られた腕であるため学校では長袖に手袋をしている。魔法の維持を学校の間中するのは難しいのではと心配した蓮だったがその心配は杞憂だった。
エリスは魔法を使い続けたことより女子高生と遊んだことのほうが疲れたようだ
「エリスがこんな様子じゃあ、今日の夕食当番はどうするんだ?エリスの番だったろ?」
「台所見ればそのこたえがわかるわ」
澪にそう言われて台所の方を見ると夏燐がいた。ハートが所々にあしらわれているすごいキャピキャピしたエプロンをつけて。
「あ、蓮帰ってたの?一応あーしは居候みたいな感じだしな、お前らが学校の日ぐらい料理当番はしてやるよ」
「なるほど。本音はなんですか夏燐様?」
「氷河くんにあーしの料理を食べて欲しいからに決まってんだろ。お前らのはついでだよ。まぁ手は抜かねえから安心しろ」
思った通りの返答がきて逆に安心する蓮。
夏燐は氷河のことが大好きで氷河も夏燐のことが大好きなのだが、学校を卒業して魔法使いとして一人前になるまでは結婚は出来ないと氷河が言っているためまだ婚約段階なのだ。
「なあ蓮、あの人最初に会った時とキャラ違うんだけど」
「そうだなぁ。昨日は大分イライラしてただろうし、一応こっちが素だぜあの人は」
「そうさエリス。昨日はちょっと腹たったからな。ビビらせてすまん」
夏燐がエリスと話していると、玄関から音がする。
「あ、氷河くん帰ってきた!」
広間に来たのは氷河とルカ、風花だった。
風花は夏燐の顔を見て気まずそうにしている。
「風花。昨日あーしが言ったことは本心だったけど、あそこまで言うつもりはなかった。だから悪かった」
夏燐が風花に昨日のことを謝ると風花の表情はパァッと明るくなる。
「いえ、夏燐お姉様が言ったことはそのとおりです。私はお父様から任されたこの街を完璧に守らないといけませんでした」
「それがわかっているならあーしは何も言わねえよ。あとあーしはお前のことは嫌いだからな。そこは勘違いするなよ」
夏燐に嫌いと言われた風花は少しシュンとしたがもう気まずい空気はなくなったようだ。
「夏燐様!晩ご飯はもしやあなたが作ってくれたのですか!?」
氷河がエプロン姿の夏燐にそう聞くと彼女は華のような笑顔を見せる。
「そうなのよ氷河くん!あーしが腕によりをかけて作ったからいっぱい食べてくれたら嬉しいな」
「当たり前です!夏燐様が作られたご飯を食べられるなんて僕も嬉しいです!」
「ホント!そんなことを言ってくれるなんて嬉しい!」
氷河と夏燐は2人だけの世界を作り上げたので、みんなそれには触れないようにして、夏燐が作った料理を配膳する。
「夏燐お姉様、氷河さんせっかくのご飯が冷めてしまいますよ。惚気てないで食べましょう」
氷河は恥ずかしそうに夏燐は名残惜しそうに食卓についた。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
夏燐の料理は美味しかった。
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エリスが転入してきて二週間がたっていた。
流石にそれだけの時間がたつともうエリスに質問をしに行く人は居なくなっていた。しかし、エリスが美女であることは変わらないため言い寄る人は一日に三回のペースでいた。
告白されるのは人生初めてのことだったエリスは最初こそ「漫画みたいだ」と喜んでいたが、二桁回数告白されると死んだ目になっていた。
そんな感じでモテモテなエリスだったが、男子だけじゃなくて女子からもモテていた。
エリスが学校で一人でいることをほとんど見ていない蓮は大変そうだなと哀れみの目を向けている。
「そんな目をするのはやめろ」
珍しく一人になったエリスが蓮に話しかけてきた。
「中々楽しい学校生活を送ってるなエリス。羨ましい限りだよ」
「お前ぶっ殺すぞ。漫画じゃあこんなに告白されるのは男子の役目だろ」
「お前少女漫画も読んでたのか。どうりで修行中に雫母さんと話が合うわけだ」
雫とエリスはよく修行終わりに色々話していたが、まさか漫画の事だったとは蓮も思ってなかった。
「漫画は日本が誇るカルチャーだろ。なんで日本人が読んでねーんだよ」
「一応読んでるけど、雫母さんほどはなぁ。あの人いろんなジャンル読んでるし」
「師匠はホントすごいな」
こんなことで尊敬し直すなと蓮は思ったが何も言わない。ただ、わざわざエリスが蓮の所にきた理由が気になったためその事を聞く。
「つうか何で俺のとこ来たんだ?なんか話したいことあるのか?」
「いや用はないけど、お前のところにいたら誰も話しかけてこねえからな。なにお前嫌われてんの?」
「そんなわけないだろ。ないはずだ、多分…」
蓮は自分の人望がないわけではないと反論するが尻すぼみに自信がなくなっていた。
「まあ、どうでもいいか。今日放課後付き合えよ、久々にアタシもお前とやりたいし」
その言葉を聞いてクラス中が騒然とする。蓮は頭を抱えるが当の本人は理解しておらず、言うだけいって自分の席に戻っていった。
残った休み時間は全てクラスメイトから蓮への尋問になった。
勉強の疲れより尋問による疲れが残っている蓮は肩を落としながらエリスの待っている校門についた。
「お前、今日大変そうだったなぁ。どした?」
原因はエリスにあるのだが本人は理解してないため、詳しい説明は帰ってからすればいいかと思い蓮はなんでもないとだけ言った。
「そういや、今日は誰一人としてアタシに告白に来なかったな」
蓮はその理由がエリスと自分が付き合っているという噂が出回っているからだと理解しているが、それも帰ってから説明することにした。
「なんでもいいから帰ろうぜ。久々に接近戦の修行がしたいんだろ?」
「そうそう、わかってるな蓮。だけど別に帰る必要もないだろ。裏路地から彼岸に行こうぜ」
エリスと蓮は学校の近くの裏路地から彼岸に入った。
魔法使いとしての修行は毎日しているが、接近戦オンリーの修行はほとんど出来ていなかったエリスは蓮と早く修行がしたかった。
しかし彼岸に入って適当な広場を探しているエリスに蓮から声がかかる。
「エリス。視線を感じる」
小さな声でそう言う蓮。
「どこから?」
エリスがそう聞くと蓮は後方を指さす。
「殺意は向けてないから穏便に済ませたい」
「当たり前だろ。アタシまだルカのあれ許してねえからな」
似たような状況になっていたエリス達の初対面の時は、ルカが魔法をうってエリスは割と死ぬ思いをしていた。
「じゃあ行くぞ」
そこからはあっという間だった。視線の主は戦闘慣れしていなかったらしく、即座に確保出来た。
視線の主の正体を見たエリスと蓮は目を疑った。
小さい男の子の姿をしているが人間の耳では無く狸のような耳が頭から生えていたからだ。
「こ、殺さないで」
怯えている狸耳の少年だが、蓮は殺す気はないと弁明して、その言葉を聞いた彼はほっと息を吐く。
「えーと、君は何者なんだ?俺も今までいろんな人に会ってきたが、君のような狸耳の人にあったのは初めてなんだ」
「あ、そうですよね。東には人間しかいないですものね」
まるで自分は人間じゃないと言っているような少年の口ぶりに蓮は訝しんだが少年の言葉はまだ続いていた。
「ぼくは西にある"魔都 京都"から来たポコ太と言います。魔法使いであるあなた方に助けて欲しくてここに来ました!」
「助けって君をかい?」
「そうでありそうでないです。助けて欲しいのは今の魔都の主人である黄金様です。今、魔都は吸血鬼に襲われて姫である黄金様を殺そうとしているんです!姫様が死ぬとぼくたちも消えてしまいます!どうか魔法使い様に姫様を助けてもらいたいんです!」
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日本の彼岸には表の世界では京都がある座標に全く違う都がある。
日本の彼岸は基本的に表の世界と寸分かわらぬ風景が広がっているがこの京都だけは違う。
日本の彼岸の主である"神狐御前"は自分が住んでいる京都だけは彼岸の主としての特権を十二分に使い文字通り魔改造した。
そうやって出来上がったのが"魔都 京都"である。
しかし今魔都は存亡の危機にあっていた。
アルテリアが作った人造吸血鬼に攻められ神狐御前の後継者である黄金姫が追い詰められているからだ。
黄金姫は現在側近たちに守られ奥の院と呼ばれる場所に匿われていた。
「ポン太ぁ、助けを連れて早く帰ってきてくれぇ。妾このままじゃ死んじゃうよぉ」
泣きながら助けを待つ黄金姫。
彼女が待ち望んでいる助けは近いうちに来ることになる。その時彼女が生きているかは定かではないが。
次から京都編です。
色々と書きたいので長くなるかもしれません。
楽しんでくれたら嬉しいです。




