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魔女と俺の絶滅戦争  作者: あまあま
絶滅指定種『吸血鬼』
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13/28

天風 源一郎①

 スカイタワーで起こった事件から一週間がたったある日。風花とエリスと雫は東京にある天風家の本邸に来ていた。


「はあ…」


 風花は重いため息をはく。自分がこれから何を言われるかわかっているようだ。


「まあまあ、風花様。民間人の犠牲は出ちゃったけどこっちも相手の戦力を大分削いだんだから、怒られるだけではないと思うわよ」


 雫が風花のフォローをするが、風花の表情は暗いままだ。


「お父様から預かっている街と人をむざむざ壊された私に生きる価値はないわ」


 めんどくさい。雫はそう思う。雫だって民間人の犠牲者が出たことには心を痛めるが、そもそも彼岸に隠れた吸血鬼を探すには人海戦術をとるしかなく、魔法使いの人員が全く足りていなかった。そんな状態で相手に先手を許してしまうのはしょうがないことだと雫は考える。犠牲になった民間人には申し訳ないが必要な犠牲であった。

 そのことについて風花が後悔をしているなら慰めようがあったが、風花が暗い顔をしているのはそういうわけではない。彼女はただ父親のものを壊されてしまって、そのことを怒られることを恐れているだけなのだ。そんな子供じみた理由で憂鬱としているのである。


「アタシも憂鬱だ」


 エリスからそんなふうに言われて、雫は答える。


「エリスちゃん。もう何度も言ったようにアルテリアの情報について話してもらうためにもあなたに居てもらわないと困るのよ、主に私が。私この場で一番の年長者だからあなたが来てくれないと私が責任とらされるのよ」


「師匠は人類最強の魔法使いでしょ。責任なんて投げちまえばいいじゃないですか」


「私が人類最強だろうと立場があるのよ。雨守家は天風家の分家の一つだから逆らえないの。だから師匠を助けると思って色々話してくれると助かるわ」


「あーい」


 エリスが気の抜けた返事をしたすぐ後に3人があてがわれた部屋に迎えがやってくる。


「お三方、当主様の準備が整いました。どうぞわたしの後をついてきてください」


 迎えに来た老執事の後ろを3人はついていく。しばらくして目的の部屋に着いた。

 そこは重厚な扉のある当主の間だった。雰囲気的には地獄の門のような感じで3人は尻込む。しかしそんなことは知らんとばかりに、老執事が扉を開けて中に入るよう促してくる。

 意を決した3人は、当主の間に入る。当主の間には巨大な執務机とその両脇に小さな執務机があり。3つの机に囲まれるように3つの椅子があった。


「座っていいぞ」


 巨大な執務机に座っている男が声をかけ3人は用意された椅子に座る。

 横にいる2人は何も言葉を発さない。片方は男性で優しい顔をしている。もう片方は女性で優しそうな顔つきだが今は風花のことを睨んでいる、そんな彼女の顔には鎖模様のあざがある。


「さて、色々聞きたいことはあるが、わしと初めてあう奴もいるしな自己紹介をしてやろう。初めまして欧州の魔法使い、わしこそがこの国の魔法使いの長天風 源一郎だ、よろしく」


「あ、よろしくお願いします、源一郎様!アタシはエリス・イルレインといいます」


 見た目五十代くらいの筋骨隆々な男にすっかり気圧されたエリスは自己紹介の声が震えていた。

 エリスに自己紹介をしたこの男こそ、世界で最も進んだ魔法技術を持つ日本の魔法使い達の長であり風花の実の父親、天風 源一郎だ。

 千年以上続く魔法使いの名家である天風家の当主らしく自然に上から目線の話し方だがそれも仕方がない。今の当主である彼は、三十年前に北アメリカ大陸にあった彼岸をその主ごと消滅させている。

 そんな実績がある人間に対して上から目線はやめてくれと思えるほどエリスの肝は太くない。


「両脇にいるのはわしの子供たちで、夏燐(かりん)と秋雨という。今この国に残っている"四季"はこの2人だけでな、お前の情報を共有させたくてこの場に呼んだ」


 そこからエリスは自分の知っている情報や一週間前の彼岸で何があったかを話す。

 エリスが話し終えると源一郎は大きなため息をはく。


「まさか魔法使いを吸血鬼にするとはな。わしもまあまあ生きてきたが、そんなことは聞いたこともない。それに、貴族がこの国に侵入出来たとはな」


 源一郎が呻くと秋雨が弁明をする。


「父さん、一応言っておくけれど僕たち"四季"はちゃんと見張ってたよ。貴族なんて見逃すはずがない」


「わかっておるわ。問題はお前たちが張っている警戒網を掻い潜れる前例が出来たことだろう。ふむ、どうしたものかな。お前たちをこの国に常駐させたいが、欧州の彼岸の攻略には魔法使いがいくらおっても足らんしな」


 欧州の彼岸は広大で尚且つ、いたるところに吸血鬼がいて、貴族が砦を築き真祖の元に行かせないようにしている。

 欧州にも熟練の魔法使いが多くいるが、それでも全く手が足りていない。

 そんな状況だったから源一郎は"四季"の四人とその四人がそれぞれ指揮する天風家の魔法使い部隊の"天嵐隊"を派遣して、その結果この数百年で類を見ないほど彼岸の攻略は進んだ。

 今彼らを呼び戻すと彼岸の攻略に遅れが生じる。その遅れによって何人もの魔法使いの犠牲が生まれることになるので、"四季"を日本に常駐させるわけには行かない。


「父様…もうあーし行っていい?話は終わったみたいだし。さっさとあっちの攻略を再開したいし」


 今まで黙っていた夏燐がそう言って当主の間から出ていこうとする。


「待て、夏燐。まだ話は終わってない。風花。お前の話も聞こう。今回の事件のお前の対応を」


 源一郎が風花にそう促し、今回の事件における責任者である風花の話を聞きだす。

 風花はありのままを全て話した。貴族を追い詰めたことと、真祖が介入してから自分は何も出来なかったこと、そして戦闘の余波で多くの犠牲者を出したこと。

 風花が全てを話し終えて、源一郎や2人の兄弟の様子を伺うと三者三様の顔をしていた。

 源一郎は何か考えるように俯き、秋雨は風花に対して優しい目を向け、夏燐は責めるように風花を見る。

 最初に言葉を発したのは夏燐だった。


「父様から任せられた街の住民を殺されたんだ。なら頭を地面につけることからはじめるべきじゃないの?雫が来たから良かったものの、来るのが遅かったらもっと犠牲増えてたでしょ。ホント、なんであんたが次期当主なの。絶対、春禍(はるか)姉様の方が相応しいのに」


 夏燐は風花を嫌っている。風花が無様を晒すといつもつっかかってくる。

 魔法使いというのは実力主義で源一郎の子供の中で最も強いのは長女の春禍だ。それなのに源一郎は次期当主に風花を指名した。

 尊敬する父親に直接言うことはないが、春禍を選ばなかった事には思うところがあり、風花を責めて今からでも次期当主を変えてもらおうとしている。


「夏燐姉さん、今回のことはどうしようもなかったよ。仮に僕らが風花の立場でも犠牲は出ていたさ。それに僕は風花からの救援要請を受けていたし、責められるなら僕だよ」

 

 秋雨が夏燐から風花を庇う。救援要請を受けても何も出来なかった負い目があったため、いつもよりその言葉には熱がある。


「関係ないでしょ。あきくんやあーしたちは欧州の彼岸の攻略を父様から命じられて、こいつは天風市を任せられた。あきくんが救援に応じられなかったからなんて言い訳をするんだったら、その任を放棄したのと一緒でしょ。あと敵の親玉を前にして動けない魔法使いなんている意味がないのよ。おわかり?風花」


 夏燐に責められて風花は俯いている。

 雫は責めすぎだとは思ったが、これを機会に風花の精神的な甘えをどうにかしたかったので黙っている。

 夏燐がどうこういったところで風花の心には影響がないと分かっている。

 いま風花が俯いているわけは夏燐の言葉を聞いて源一郎が自分を見限るんじゃないかという怯えからだ。

 雫は一度見限られたほうがいいんじゃないかと思っている。風花の精神的な甘えを作ったのは源一郎だし、その当人から見限られれば少しは変わるだろうと考えているからだ。

 源一郎が顔を上げると風花に話しかける。


「風花」


 源一郎から声をかけられた風花は反射的に顔を上げる。父の顔に失望や怒りの表情があったらどうしようと思っていた風花だったが、こちらを見つめる父の顔はいつも風花に向けてくる優しい表情のままだった。


「怪我はないか?無事で何よりだ。犠牲者が出たことを気に病むな、仕方なかったんだ」


 優しく風花に語りかける源一郎に雫と夏燐は唖然としていた。


「ちょ、ちょっと待ってください父様。それだけですか?父様から任せられた天風市に犠牲が出たんですよ。それだけじゃあ死んだ者が浮かばれません」


 源一郎の対応に納得がいかなかった夏燐はつい源一郎に意見をする。

 そんな夏燐に源一郎は冷たい目を向ける。


「夏燐。死んだ者が浮かばれないと言うが、人間は死んだらそれまでだ。死者の思いを勝手に想像して生者が足を引っ張られるなどあってはならん。それにあの街は確かに大事だが風花の価値とは全くつり合わん。この話はこれまでだ」


 甘すぎる対応を見て雫が源一郎に言葉を投げようとするが、それは源一郎によって止められる。


「雫、お前とはあとで話す。今は黙っていろ。あと夏燐お前はしばらくこの国にいろ、お前の部隊は秋雨に指揮させる。」


「なっ!?ふざけないでください父様!今わたしが前線から長期離脱したら攻略が数ヶ月単位で遅れます。いくら父様の命令でもそんなの」


「黙れ、これは命令だ。この国にまだアルテリアがいる可能性がある以上、新たな人造吸血鬼が生まれる可能性もあるということだ。お前も風花に協力してアルテリアを始末しろ。アルテリアを始末したら前線に戻ることを許す」


 あまりの命令に口調が乱れた夏燐だったがそんなことお構いなしに源一郎の命令が下った。

 さっきと言っていることが反対な源一郎に雫はため息をつく。


「源一郎様、欧州の彼岸の攻略には魔法使いがいくらいても足りないということではなかったのですか?いま夏燐様が前線を離れたままにするのは得策とは言えません」


 雫がそういって命令を取り下げようとするが、源一郎は聞く耳を持たない。


「風花の命の方が大事だ」


 源一郎はそれだけ言って会話を拒否する。

 自分の命を大事にしていると言われた風花の表情は一気に明るくなった。


(相変わらずの親バカね。何故ここまで風花を重要視するかはわからないけど、こんなんだから精神的な甘えがまだ消えないのよ)


 内心で愚痴を言うが今の源一郎には何を言っても無駄だと判断して雫は何も言わない。


「あとは雫から話を聞くだけだが、色々と込み入った話をするからわしと雫、秋雨以外はこの部屋から出ていってもらう、夏燐は風花の屋敷を拠点とするように」


 まだ言いたいことがあった夏燐だったが大人しく部屋から出ていく。続いてエリスと風花も部屋から出る。

 3人だけになった当主の間で最初に口を開いたのは雫だった。


「源一郎。甘やかしすぎよ、あれじゃああの子のためにならないわ」


 敬語を使わず源一郎に意見した雫だったが、源一郎は気にした様子もなく反論する。


「あれでいいんだ。あの子には何よりも自分の命を大事にしてもらわんといけんからな」


「そんなんだから今回も真祖を前に何も出来なかったのよ!あの子のためを思うなら少しは子離れしなさい」


 ヒートアップしそうになった2人の会話はこの場に残った最後の1人に止められる。


「まあまあ、父さん。雫さんと話したいことはそんなことじゃないでしょう。雫さんもまずはあの日のことについて話しましょう」


 秋雨からそう言われて雫も矛をおろす。


「あの日のことって今更なにを?私は報告をしたしそれ以上の情報はないわよ」


 雫は何も話すことがないと言うが源一郎は一番聞かなければいけないことを聞く。


「お前、あの日有悟の力を借りたな?」


 雫はあちゃーという顔をする。


「なるほどね。そのことか」


「ああ、雨守家からスカイタワーまでお前が全力で走っても一時間はかかるはずだ、それなのにお前は戦闘開始から30分ほどで到着している。お前だけでなく蓮とエリスもな。こんなことができるのは有悟くらいだろう。いまあいつはこの国にいるんだな?どこにいる」


「確かに有悟の力を借りたけど私だってあいつの場所を知っているわけじゃないわ。今回は昔あいつに作った貸しを帳消しにする代わりに力を借りたし。直接話したわけじゃないわ。あいつの魔法を介して話しただけ」


 それだけ言って帰ろうとする雫だったが秋雨に止められる。


「待ってください雫さん。あなたが有悟さんと裏で通じてるかもと今"賢者(ワイズマン)"達が疑ってるんです」


「疑ってるって、あんた達が言ったからでしょ!大体あいつらが束になっても私には敵わないし、もう失礼するわ」


 苛立った雫はそのまま部屋を出て行った。


「父さん、彼女を怒らせたままでよかったんですか?これから彼女の協力を得られなくなるかもしれませんよ」


「ありえないさ。あいつはわしより子煩悩だからな。風花の護衛があの2人である限りあいつはこちらに協力する」


「それにしても『賢者が束になっても敵わない』ですか。流石に言い過ぎでは」


「そんなことはないさ。あいつは大概の存在なら掴んだだけで勝利が確定するからな。"十一人(ワイズマン)の賢者達(・イレブン)が全員で向かっても返り討ちだろう」


 "十一人の賢者達"、世界中の魔法使いのなかで特に優れた十一人のことで雫もその中の一人である。天風家からは源一郎と春禍、秋雨がその座についている。


「そういえば何故夏燐を日本に常駐させるのですか?正直僕もあいつが前線から離れるのは痛いんですが」


「さっき言った以上の理由はない。風花の命より大事なものはこの世にないからな」


 当主の間での会話はそれっきり終わった。


――――――――――――――――――――――


 風花の屋敷についた夏燐はまだ苛立っているが、少しだけ機嫌が回復していた。その理由はここには彼女の婚約者がいるからだ。

 屋敷の広間についた夏燐は会いたかった人物の姿を見つける。


「氷河くん!」


「え!夏燐様!今は欧州ではなかったんですか!」


「色々あってしばらくこの家にお世話になるからよろしく。あーしの部屋は氷河くんの部屋ってことで」


「い、いやそれは。まだ結婚もしてない男女が同じ部屋で過ごすなんて。まだ部屋は余ってるので今から綺麗にしてきます!」


 素早い動きで広間から出て行った氷河に心に残っていた苛立ちがなくなる。


(風花のフォローなんて嫌だし前線の様子も気になるけど、久々に氷河くんと一緒に過ごせるんなら役得ね。父様もあーしの心のケアのためにこの命令をしたのかも)


 氷河と会ったことでかなりポジティブになった夏燐だった。


――――――――――――――――――――――


 京都にある彼岸の片隅に一人の魔法使いがいた。


「ここならまた実験を再開できるわ。アッシュあなたからもらったこの薬をもっと完璧にしてみせる。わたしはあなたの分まで生き続ける」


 アルテリアはそういって京都の彼岸の中心部に向かっていく、"永遠に生きる"その夢を実現するために。

天風家の話はこの話で中断です。

恋愛描写とか全くわからないんでなんか変な感じになると思いますが、夏燐ちゃんのことはあたたかく見守ってください。

久々の人物解説です。

天風 源一郎  (あまかぜ げんいちろう)

190cmの筋肉ムキムキなおじさん

髪型はオールバックで黒髪に若干白髪が混ざり始めている。

実を言うとまだ四十代、人より老けるのが早い。

天風 秋雨  (あまかせ あきさめ)

175cmのいつもニコニコしている好青年

黒髪にちらほら金髪が混じっている。

26歳

天風 夏燐  (あまかぜ かりん)

165cmの割と優しい顔をした美女

脚が長く胸もまあまあでかい

茶髪のツインテール

体には幼い頃に自分の魔法が暴走した跡があり自分の魔法が嫌いだった。そんな自分の体を哀れみもせず自然体で話しかけてくれた氷河にベタ惚れ




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