スカイタワー決戦⑤
エリスとアッシュの決着がついてから少し時を遡る。
表の世界ではジュリアーノと雫が向かい合っていた。
「ふふふ、殺気だってるわね雫。先代ならこんな風に殺気を垂れ流すなんて無かったと思うけれど?」
ジュリアーノ(の体を操っている何者か)が雫を挑発する。雫は真っ直ぐジュリアーノを見据えたまま動き出す。
「"空投げ"」
雫が右手で虚空を掴み振り下ろす。空間が歪み5メートルほど離れた位置に立っていたジュリアーノの体を押し潰そうとする。
その攻撃を知っていたかのようにジュリアーノは自らの体を炎で加速させて雫の懐に入り込む。
「随分と余裕がなさそうね!こんな大技をいきなり使うなんて!"炎拳・焔撃ち"!」
右の拳に炎をまとわせて雫を殴り上げようとするジュリアーノ。しかし、攻撃の途中であることに気づく。
(左手を握っている!?)
慌てて攻撃をやめて身を捩るジュリアーノだったがその前に雫の左足が蹴り上げられる。
「"斬り脚"!」
音速を超える速度で蹴りを放った雫。その蹴りをまともに受けるも距離をとったジュリアーノ。2人の間には右上半身の大部分を失ったジュリアーノから吹き出した血の道が出来上がっていた。
「随分と余裕がなさそうね真祖。そんなに私と距離を取るなんて」
真祖と呼ばれたジュリアーノは無表情になり、傷を直す。瞬く間に右上半身が完治したジュリアーノ。しかし、氷河から受けた傷と違って傷を負った瞬間から再生を開始しまるで攻撃がすり抜けたように見せることはしなかった、いや出来なかった。
「本当に嫌になるわ、"雫"には。何百年も同じ魔法を受け継ぎ続けて、今や他者の魂まで影響を及ばせるなんて。たかが魔法使いが"魔術"の領域にまで首を突っ込むんじゃないわよ」
「そんなことを言ったら天風にいる"四季"はどうなのかしらね?あの子たちの魔法も大概反則だと思うけど?」
雫とエリーゼ(ジュリアーノの体)は言い争っているが、その会話の内容は側にいた氷河やルカには半分くらいしかわからない。唯一理解出来る風花は、まだ精神的なショックから立ち直れていない。
雫はエリーゼに向かって走り出す、エリーゼはそんな雫から逃げるように繁華街の方に走る。彼岸ではないので繁華街は人であふれている。そんなところにエリーゼを逃がすわけにはいかない雫は左手で虚空を掴み振り上げる。
「"空投げ"」
空間が歪みエリーゼの逃げる脚が遅れる。その間に雫はエリーゼに迫りその体を上に蹴り上げる。
エリーゼは一気にスカイタワーよりも高くに打ち上げられ、その身を太陽に晒す。
「あなた本体なら太陽の光もどこ吹く風だろうけど、今のあなたはジュリアーノの体を使っている。久々の日焼けの気分はどう?」
「雫ううう!」
全身を炎に包みこんだエリーゼは雫に向かって吠える。その姿は炎で出来たドラゴンになっていた。
「こうやって俺の体を炎で包み込んでしまえばあなたの"掌握魔法"は届かない!このまま焼死させてあげる!」
炎のドラゴンになったエリーゼを呆れた目で雫は見つめる。
「本当に先代の言っていた通りねエリーゼ。何百年も守られるだけのお姫様だったから、そんなに爪が甘いのよ。今日の朝もそんな感じの相手と戦ったわ。魔法を使わなかったから流石に苦戦したけれど、魔法を使ったらどうにでもなるのよ!」
雨守家の"雫"が代々受け継ぐ"掌握魔法"それは自分の手で掴んだ相手の力の流れを支配するというもので、5本の指で他者を握らない限り発動することが出来ない超接近戦用の魔法であった。しかし今代の雫はそのルールを変えた。彼女は力の流れを感じられない空間を掴み、幾たびの実戦経験により魂を知覚し他者の魂すら掴んでみせた。他者の魂を掴める彼女にとって相手の魔法や吸血鬼の血でできた炎など欠伸をしながら掴めるものだった。
「"散らし投げ"」
雫が炎のドラゴンの一部分を掴みその力の流れを支配し、全ての炎を霧散させる。
いきなり自分のまとっていた炎がなくなりエリーゼは何が起こったかわからずあっけにとられる。
そんな状態を雫が見逃すはずもなくエリーゼの首を掴む。
「がっ!」
エリーゼが小さく悲鳴を上げるがそんなことはお構いなしに雫はジュリアーノの体を操っているエリーゼの魂を掴む。
「何百年生きたところで一つの油断でこうなるのよ!あの世で反省しなさい!"天地反転 絶死"!」
雫がエリーゼの魂からエリーゼ本体のありとあらゆる力の流れを反転させる。血液の流れ、神経の伝達、そして吸血鬼の再生能力、その全てを反転させられたエリーゼの本体は急速に滅びに向かう。
「"呪血の災害"」
あと刹那ほどの時間があればエリーゼは滅んでいただろうタイミングでエリーゼの魂が雫の掌握魔法から逃れた。その理由はジュリアーノの魂がエリーゼの魂を押しのけ戻ってきたからだった。ジュリアーノの魂が戻ってきた体は、風花達の魔法によって破壊し尽くされた状態に戻りもう何をしても滅ぶ寸前だったがそうはならなかった。
体を取り戻したジュリアーノは自らに流れる吸血鬼の血を暴走させる。目は赤く染まり、牙が伸び、背中から翼が生える。まるで漫画でよく目にする悪魔のようだと雫は思った。
悪魔に変貌したジュリアーノは死にかけの体を完全に回復させていた。
空中からビルの上に着地した雫はジュリアーノから一瞬たりとも目を離さなかった、それなのにジュリアーノはいつの間にか雫の目の前に接近してその爪を雫の体に刺そうとする。
「っ!"空投げ"!」
ジュリアーノの爪が当たる寸前で雫が左手で虚空をつかみ空間を歪ませその攻撃をそらす。
なんとかしてジュリアーノの攻撃を凌いだ雫だったが息つく暇は与えられなかった。
ジュリアーノの背中の翼が、鋭く伸びた牙と爪が雫に向かって襲いかかる。その動きには理性がなく、ジュリアーノが長年培ってきた戦闘の経験は何も反映されていない。だが圧倒的な肉体性能と絶滅指定種である吸血鬼の本能が、雫の体を傷つける。
雫は空投げを連発して致命傷を避け続けるがジュリアーノの攻撃は雫の体に多くの傷をつける。血を流すのも久しぶりだった雫には死の危険が濃厚に感じられた。しかし雫の表情は変わらない。
「なるほど、獣の動きね。"呪血の災害"、雨守家にもその力は伝わっているわ。長く生きて血に溜まった呪いを解放した姿。真祖の庇護を否定する、吸血鬼の奥の手。最も古い吸血鬼がその手段をとるほどに追い詰められるとはね」
冷静に相手を観察しながら雫は淡々と話し続ける。その間もジュリアーノの攻撃は続き、雫の体のいたるところに生傷がつき続ける。流した血の量は既に失血による意識の低下を招くほどだが雫の表情は変わらない。しかし、雫の意志とは裏腹に彼女の体は失血によってふらつく。
雫の体がふらついた隙を吸血鬼の本能は逃がさない。魔法使いを滅ぼすためだけの存在となったジュリアーノは雫に向かってトドメをさそうとする。その隙が雫がわざと生み出した隙とは考えずに。
「本来のあなたならこんな隙につられなかったでしょうね」
トドメをさすために大振りになったジュリアーノの攻撃を紙一重でかわし、雫は両手でジュリアーノの体を掴む。
「片手なら数秒かかったでしょうけれど、両手なら一瞬よ」
ジュリアーノは雫のその両手を振り払い改めてトドメをさそうとするが、振り払うために体を動かす時間さえ与えられなかった。
「"天地反転 絶滅"」
両手での天地反転の同時発動。それはジュリアーノのありとあらゆる力の流れを何度も何度も反転させ最後にはその身を消滅させた。
「はぁー…一日に三度も天地反転を打つなんて初めてだわ。つっかれたぁ」
ジュリアーノを消滅させた雫はビルの屋上で仰向けに倒れる。
「今回は真祖が出てきたから私が対処したけど、風花様のあの脆さはいい加減なんとかしないといけないわね。あの方の魔法だったら再生の隙を与えずに滅ぼすことは出来ただろうし」
そうやって一人で話しているとスカイタワー前広場が騒がしくなって雫は覗き込む。そこには彼岸から帰ってきていたエリスと澪と蓮がいた。3人はそれぞれボロボロで彼岸の中の戦いも激しかったことを容易に読み取れた。しかし、雫には関係ない。
「はぁ…私を含めてみんな修行し直しね」
それだけ言って雫は疲れから目を閉じる。
5月某日に天風市のスカイタワー前広場で起きた、吸血鬼による一般人の大虐殺事件は結果的に見れば一般人に多くの犠牲者を出してしまった魔法使い側の敗北だった。しかし、最も古い貴族と裏切り者の魔法使いを滅ぼすことに成功して実質は痛み分けだった。
スカイタワー決戦終わりました。
なんだかんだジュリアーノが死んでしまいちょっと悲しいです。あいつは真祖と同じくらい古い吸血鬼なのにこんな早くに死ぬとは。
雫が血の炎を掴んだり空間をつかんでましたが、今までの"雫"であれが出来た人はいません。あれは受け継いできた掌握魔法と今代の雫の戦闘センスや膨大な戦闘経験によってできることです。なのでエリーゼちゃんは空間を掴んでみせた雫をみてそれを大技と決めつけちゃいました。あれは雫にとってはただの牽制なので勘違いをしちゃったエリーゼちゃんは無事わからせられました。
あと雫が左手を握っている描写がありましたがあれは自分の魂を掌握している状態です。バトル描写が好きなんですが頭が悪いせいで上手く表現出来ず申し訳ありません。
次回からは数話ほど箸休め的な話になると思います。結局日常描写も苦手なので見苦しい文章になると思いますが見ていただけたら幸いです。
追伸
最近のジャンプアニメマジでクオリティ良すぎて最高です。ブリーチに至っては漫画は全部読んでるのに知らないところばっかりで見逃せませんね。




