スカイタワー決戦④
説明が多くて読みづらいと思いますが、読んでもらったら嬉しいです。
銀の獣と化したエリスがアッシュに襲いかかる。巨大な爪を無造作に振り抜く、それだけで人間など細切れになるだろうがアッシュは手に持った"銀の炎剣"でその一撃を受け止める。
地面に足がめり込むがアッシュは吹き飛ばされることなく獣の爪を受けきり、そのまま溶断する。銀の硬さと炎の性質を併せ持つ銀の炎剣だからこそできることだった。
獣の爪が切り離されるが、それは所詮魔法によって作られた仮初の肉体なのでエリスにはなんの痛痒もない。切り離された爪には目もくれず、新しい爪を作り上げてアッシュへの攻撃を再開する。
今のエリスの姿は刃物を纏った3メートルほどの人狼だ。二足歩行のその姿は、エリスが雫から学んだ技術を活かすためのものだが、それは等身大のエリスだからこそ活かせるものだ。怒りに任せて巨大になったエリスはその動きのそこかしこで隙が生まれる。
エリスの猛攻を容易くしのぎ続け、アッシュはエリスの隙をうかがう。
エリスがアッシュの防御に焦れて大振りな攻撃を仕掛ける。その大振りの隙を逃さず、アッシュはエリスの懐に入り2本の銀の炎剣で銀の獣の胴体を斜め十字に切り裂く。斬撃は獣の胴体を切り中にいたエリスまで届いた。赤い血が獣の胴体からしたたる。獣の傷がふさがる前に銀の炎剣による突きを放つアッシュだったが銀の獣は大きく後ろに飛び退き回避する。
「考え直してくれないかエリス、わたしに実の妹を殺させないでくれ」
エリスに対して手傷を負わせ優位にたったと思っているアッシュがエリスの説得を再開する。
「わたし達は被害者なんだよエリス。イルレイン家という殺し屋集団のな。ただ生きているだけの吸血鬼たちをわざわざ殺しに行き、その過程で多くの魔法使いの屍が出来上がる。欧州に残っている魔法使い一族は頭のネジが外れた狂人どもだ。あの"賢者"ども含めてもな。仮に吸血鬼を滅ぼしたからといって誰に褒められるわけではないというのに。そんな虚しい人生など捨て去ってしまえ。わたし達と永遠を生きようエリス」
アッシュはあくまでも兄として優しくエリスを説得する。その言葉は全て本心なのだろうとエリスも理解していた。理解した上でそれを拒否する。
「言いたいことはそれだけか兄さん。確かにアタシ達魔法使い一族は殺し屋集団だ。狂人の集まりだろう。命を投げ捨てる様に吸血鬼どもに挑み若くして死ぬ事もあるさ。誰に褒められることもない、だがなそれがどうした。誰かに褒められたくてアタシは魔法使いをやってるわけじゃねえんだ。アタシは何より表の世界が好きなんだよ。出来ることならアタシも表の世界で魔法使いの責務なんて投げ出して生きたいさ。でもアタシは彼岸を知っている、そこにいる絶滅指定種を知っている。アイツらが人間を滅ぼすために生きていることも、魔法使いとの絶滅戦争が終わってないのも知ってるんだ。なら見て見ぬふりは出来ない。アタシが戦うことをやめて、その結果人間が滅ぶことになったらアタシは後悔しながら死んでいくだろうさ。長生きしたいその思いをアタシは否定しないが、人間を滅ぼして尚生きようとするその醜さは許せない。アッシュ、アタシの説得なんて無駄の極みだ。アタシの愛する世界を踏み躙ったあんた達とともに生きるなんてありえない」
エリスはアッシュの目を見てそう返す。
アッシュはため息をはく。
「洗脳ここに極まれりだな。ならばもうお前を妹とは思わない。死ねエリス」
銀の炎がアッシュの周りに構築される。アッシュは銀の炎をその身にまといエリスに接近する。
エリスは斜め十字に切り裂かれた銀の獣の傷を閉じて獣の中に入る。接近してくるアッシュに腕を振り下ろす。その攻撃をひらりとかわし、振り下ろされた獣の腕をアッシュが溶断する。
溶断された腕を再生しようと魔法を発動させるエリスだったが、傷口にアッシュの銀の炎が張り付き再生を阻害される。
体にまとっていた銀の炎を右手に持っている銀の炎剣にまとわせ振り下ろす。
「"銀炎の斬撃"」
銀色の斬撃が銀の獣ごとエリスを切り裂く。銀の獣の中から血が吹き出すことはないがアッシュは確かな手応えを感じていた。
銀の獣の中から出てきたエリスには左手が無かった。致命傷を避けるために左腕を犠牲にしたためだ。致命傷は避けたとはいえ体を切り焼かれた激痛を味わった彼女は纏っていた銀の獣のコントロールを失ったようで、獣は銀の液体になって地面に広がる。
その様子を見たアッシュは好機と判断してエリスの懐まで迫る。両手に持つ銀の炎剣で首を切り落とそうとするが、痛みによってエリスが体のバランスを大きく崩しアッシュの胸に倒れ込んだ。そんなエリスを見たアッシュは追撃を躊躇する。
「エリス、お前の意思は関係ない。このまま連れて行く」
ボロボロな妹を殺す決断を出来ず、銀の炎剣を霧散させエリスを連れ去ろうとするアッシュだったが、一つの言葉が聞こえる。
「捕まえた」
その言葉を誰が発したか一瞬分からなかったアッシュだった。エリスの表情は彼女の頭が自分に当たっているため確認できない。そのかわりに確認出来たのはエリスの足下からのびている銀の水たまりだった。それは銀の獣の成れの果てのはずだが、魔力を供給されていない魔法ならすぐに霧散しているはずだった。ならばなぜこの銀の水たまりはなくなっていないのか。その答えをアッシュは悟る。
("銀炎の斬撃"を受けたあとに銀の獣の形が崩れたのがエリスの意思だとするなら、エリスの体がわたしに倒れ込んだのもエリスの意思だったなら、この状況こそエリスの望んだ状況だったのか?!)
アッシュがエリスに銀の炎剣を構築してトドメを刺そうとするが、アッシュの懐に潜り込んでいるエリスにとってその行動は遅すぎた。
エリスは足下の銀の水たまりを一気にその身にまとわせ姿を変える。その姿は今日の朝に雫に一撃を入れた姿だった。
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「エリスちゃん、あなたの銀の獣をまとって肉弾戦をするっていう案はすごいと思うし、実際私も何度かヒヤリとしたけどそれじゃああなたの持ち味の半分しか出ていないわ」
朝早くの修行で雫との組み手をしていたエリスだったが雫からここまでのベタ褒めをもらうのはこの5日間で初めてだった。
「ありがとうございます!でもアタシの持ち味の半分しか出ていないってどういうことですか?アタシ的には十分アタシらしさが出てたって思うんですけど」
「まあ、あなたらしさは出ていたわね。そうねいつもはここまでヒントは与えないんだけれど、あなたは今日あっちに帰るしね宿題ということにしてあげる。いいエリスちゃん。あなたは魔法のコントロールが抜群にうまいの、いえコントロールというよりも動かし方ね。あなたの一族が鍛え上げていた銀魔法の特徴は核となる銀の塊を自分の傍において、それに魔力を供給し続けることによって、半永続的に魔法を発動させ続けられるというもの。あなたはその銀の塊を獣の姿に変えて自分がその中に入ることで攻防一体の魔法にしたわけよね。あなたの持ち味はその銀の獣をまるで自分の体のように操れること」
「その通りです。アタシは自分の銀を昔から体にまとわせて戦ってたからそういうのが得意になった感じです。」
「うん。そうよね。さっきの組み手ではあなたの魔法に対する自信が感じられたわ。だけど自分の体以上にでかいものを動かしたことはなかったんじゃないの?あなたは今日まで自分の体一つで私と戦って、それに対する不意打ちの様な感じで獣の姿になったんだろうけれど、サイズが違いすぎて動きの繋ぎが甘かったわ。そのせいで私が対処出来る隙があったの。自分の等身大よりも大きな姿になるのはもう少し慣れてからにしなさい。今は自分の体のサイズから一回りくらい大きい姿にとどめておかないと実戦じゃ使えないわ。あ、だけど獣の姿で尻尾を使ってきた時は本当に危なかったわ、自分にない部位を自分の体のように扱えるのはあなたの長所の一つね。」
雫の言葉を聞きエリスに電流がはしる。自分の魔法の一つの完成を見つけた。
「あの、もう一戦だけお願いします師匠!アタシの魔法のかたちが掴めた気がするんです」
「あらあら、戻ってくるまでの宿題にするつもりだったのだけど。優秀な弟子を持って私も嬉しいわ」
その後の組み手でエリスは人類最強の魔法使いの背を地につけた。
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「"銀の百腕"」
エリスの足下にあった銀が背中に集まりそこから百本の腕が生える。その内の数本が、銀の炎剣を持つアッシュの両腕を押さえつける。残った腕は拳を握りアッシュを一気に殴りつける。
「おらぁぁぁ!」
エリスの連打がアッシュを打ちのめす。アッシュが銀の炎を構築して防ごうとするも、殴りつけていた数本の腕がそれを止めて連打が止まらない。
(この数の腕の一本一本を自分で動かしているのか!?)
アッシュが何かしようとしてもその全てをエリスの腕が許さない。銀の百腕の状態はエリスにとっても諸刃の剣だ。自分が生み出した銀を全て腕の形にしている為、体には鎧も何もまとっていない。無防備な体を攻撃の合間に守らなければならないので、相手の一挙手一投足に集中しなければならない。そんな状態が長続きするはずもなく、万全な状態でも30秒、今の状態では10秒しか持たないが、あの雫でもこの猛攻は10秒防ぐのでやっとだったため、アッシュが耐えられるはずもなく10秒後には地面に仰向けに倒れていた。
「はあっはあっ」
全身から汗を流しているエリスと地面に倒れて動かないアッシュ、どちらが勝ったか一目瞭然であったがその勝敗はあと数分も経てば逆転する。
地面に倒れているアッシュの肉体は吸血鬼の再生能力による回復をしている。
アッシュが数分もしたら全回復することを理解しているエリスはトドメを刺すために最後の魔法を構築する。
エリスの無くなった左腕が銀によって構築される。
「終わりだ。兄さん。最後に言い残すことはあるか?」
そんなエリスの言葉を鼻で笑いアッシュは遺言を吐き捨てる。
「狂人が、先に地獄で待ってるぞ」
エリスはアッシュの最後の言葉を聞き届け左腕のかたちを変えて、アッシュの頭と心臓を貫いた。
彼岸で起こったイルレイン家の兄妹決戦はエリスのしょう勝利で幕を閉じた。
アッシュの使う銀炎はバグのようなものです。ジュリアーノの血を元に作った吸血鬼薬によって吸血鬼に変えられたため炎の性質が強く出ましたが、元々魔法使いだったアッシュの魂には銀魔法の影響が強く出ていてその影響で銀炎というありえない属性の吸血鬼になりました。
アッシュにとってエリスはアルテリアの次に大切でした。
アッシュが最初に長生きしようとした理由はエリスを戦わせないように自分が戦い続ける為です。2人の両親はエリスを産んでしばらくしてから吸血鬼に殺されて、アッシュはそんな両親を狂っていると思いました。娘が物心をつくまえに吸血鬼との戦いに赴いた2人を許せず、妹を守れるのは自分だけだと覚悟をしました。アルテリアの家に引き取られたアッシュは妹に穏やかな人生を過ごして欲しくて幼い頃から壮絶な修行をしていました。吸血鬼を滅ぼす為に修行をしていたアッシュでしたが、ある日吸血鬼じゃない絶滅指定種に出会います。その時点で魔法使いの勝ち目がないことを悟り、ならばエリスの人生を長く見守る為にと修行ではなく長生きのための研究を始めました。その当時から婚約者だったアルテリアもアッシュの意見に賛同して2人で研究を続けました。しかし、エリスがアルテリアの両親から魔法の修行を受けていると聞き彼は絶望します。自分が穏やかな人生を過ごさせたかった妹が自ら魔法使いの道を選び、今までの努力が全て無駄になったように感じました。
研究を止めようとしていたアッシュにアルテリアが2人で穏やかに生きようと言われ自分の人生の意味を見失っていたアッシュはこの時アルテリアのために生きると決めました。




