第6話 返品を、申し込まれました
叔父が来たのは、翌週だった。
荷馬車を二台、連れてきた。
私は本館の窓から、紋章を見た。
胸の奥が、冷たくなる。
「リゼ。君の客だ」
辺境伯が、扉の外から呼んだ。
「会いたくなければ、私が応対する」
私は少し考え、外套を取った。
叔父が何をしに来たか、知りたかった。
「同席を、お願いできますか」
「もちろん」
玄関へ出ると、叔父は笑った。
「こんなところで役に立っているとは。魔力がなくても、使い道はあるものだな」
私は頭を下げず、挨拶だけした。
叔父は少し、眉を動かした。
「伯爵様。今日は取引のご相談に」
彼が差し出したのは、黒竜の売買証書だった。
日付は、ノクスがここへ来るより前。
「私の購入した個体を、こちらが保護していると聞きましてね。騒ぎを起こした業者とは縁を切りましたが、財産は返していただきたい」
私は紙を見た。
そこには、ノクスの名前がなかった。
黒竜、幼体、一頭。
「ノクスは、話します」
辺境伯が言った。
「知性を持つ魔獣の売買は、この領地では認めない。王都との協定もある」
「教え込めば、鳥も話しますよ。伯爵様が、そういう芸をお好みとは」
叔父は、私を見た。
「リゼ。お前にも、いい話だ。竜が懐いているそうだな。連れて戻れば、屋敷に置いてやる」
帰る、と叔父は言わなかった。
置いてやる、と言った。
私は、今朝のノクスの声を思い出した。
リゼ、きた。
私を見ると、いつも言う。
「戻りません」
声は震えなかった。
「仕事があります。ここに、部屋もあります」
「仕事を選べる立場か? 魔力もない娘が」
辺境伯が、私と叔父の間へ立った。
「私が雇っている者を、侮辱しないでもらいたい」
叔父は口を閉じた。
少し間を置いて、証書を机へ置く。
「では、王都の監察官に判断してもらいましょう。話すというなら、第三者の前で示せるはずだ」
辺境伯は、その提案を受けた。
正式な保護対象として認められれば、同じ証書を持って来られることもなくなる。
ただし、診察を兼ね、幼獣を追い詰める試験にはしないと条件をつけた。音の出る道具の持ち込みも禁じ、叔父を含む立会人全員へ書面で通知することになった。
叔父は、私を見て、笑った。
「上手に仕込んでおきなさい」
その言葉が、ノクスの部屋まで届かなかったことを、私は願った。
*
叔父が帰ったあと、私は庭へ行った。
ノクスは、寝そべっていた。
私を見ると、起き上がる。
「いる?」
「います」
私は隣に座った。
明日、誰が来るのか。何をするのか。
決まったら、教える。
言えることだけ、言った。
ノクスは、首の下を掻いた。
拘束具の跡。
「くび、つけない?」
私は、すぐには答えられなかった。
その質問をするまで、この子が覚えていたことを思った。
「ここでは、つけません」
辺境伯が、後ろから答えた。
彼も隣に座る。
「私が約束する」
ノクスは二人を見て、少しだけ、顎を私の膝へ乗せた。
重かった。
その重さを、渡したくなかった。




