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第4話 お休みの日にも、帰ってきます

 採用から一週間たった朝、フィオが私の靴を隠した。

 ミミは外套の上に座った。

 ノクスは、通路の前へ寝そべった。


 三頭とも、私の休みを知っていた。


「午後には戻ります。町へ、お買い物に行ってきます」


 今日はトビさんと、昼の補助係がいる。

 ノクスの散歩には、辺境伯も来る。

 誰がいるのか、昨日から伝えていた。


 それでも、行かないで、と言われることはある。


 前世でも、あった。

 そのたびに残っていたら、いつか私は、笑って迎えられなくなる。


「帰ってきたら、新しい本を読みます」


 私はノクスの前にしゃがんだ。

 数日前から、格子のない庭でも一緒に過ごしている。

 最初に安全を確かめたのは先生で、そばには必ず、魔法を使える人がいる。


「いや」


 ノクスが言った。

 大きな目から、涙が一つ落ちた。

 黒竜の涙は、普通の水だった。

 落ちる音だけが、ずいぶん大きい。


 私は、何も言わずに、少し待った。


「帰ってきます。ノクスは、ここで、トビさんと待っていてください」


 靴を返してもらい、外套も返してもらった。

 ノクスは自分で、通路を空けた。

 私は、行ってきますと言った。


 門の前には、辺境伯の馬車があった。


「送る」

「お仕事は?」

「町へ行く用事がある」


 少し迷って、私は馬車へ乗った。

 彼は窓から、庭を見ていた。


「泣かせたな」

「はい」

「平気なのか」

「平気ではないです」


 私の返事に、彼がこちらを見た。


「でも、泣いたから約束が全部変わると、ノクスは次も、もっと泣かなければと思うかもしれません」


 私は、膝の上で手を重ねた。


「戻ってくるところまで、約束です」


 辺境伯は、窓へ視線を戻した。


「……私も、昔は泣いた」


 声が低かった。


「父が出征するとき、行くなと言った。弟と二人で、外套を隠した」

「お父様は、どうされたんですか」

「別の外套を着て行った」


 私は、少し笑った。

 彼も、口の端を上げた。


「帰ってきた。傷は増えていたが」


 庭の門が見えなくなった。

 私は、帰ってこなかった両親を思い出した。

 叔父の家で過ごした夜。邪魔をしなければ置いてもらえると思っていた頃。


 全部、言うにはまだ遠い。

 でも、少しだけ伝えた。


「私は、ずっと待つ方でした。今は、戻る方です」


 彼は、何も急いで聞かなかった。

 町に着くと、先に降り、手を差し出した。


 *


 彼の用事は、薬の受け取りと、幼獣用の敷物の注文だった。

 私が本を選ぶ間、隣で、丈夫な紙の束を見ていた。


「ノクスの予定の絵を、描き直そうと思って」

「私の竜は、犬でしたから」


 辺境伯は首を振った。


「本人が気に入っている。もう少し、大きく描けばいい」


 帰りは、二人とも荷物が増えていた。

 門が開くと、ノクスが走ってきた。

 トビさんが、走らない、と呼びかける。

 竜は止まりきれず、足を踏ん張り、鼻先だけ私の前に出した。


「来た」

「ただいま」


 彼は私の荷物を嗅いだ。

 涙を流すことは、なかった。


 その夜、予定の紙が大きくなった。

 私の描いた竜の横に、辺境伯が描いた私がいた。

 丸い顔に、二つのお団子。


「こちら、何の魔獣ですか」


 尋ねると、彼はとても真剣に言った。


「君だ」

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