side3 ゲイル
俺はすこぶる機嫌が良かった。
小娘を追い出したら、アルテアとデネブも出て行った。
清々した。
なぜなら、三人の評判が高すぎて、俺が評価されなかったから。
ギルマスは俺なのに。
三人が何だと言うんだ?
ただの討伐者だろう?
目障りな奴らが居なくなって、これからは俺が正当に評価される。
この時の俺は、そう信じて疑わなかった。
***
…おかしい。
最近仕事が上手く回らない。
人手が全く足りず、依頼の書類は積み上がっていくばかり。
なぜだ?
俺の問に対する答えは、向こうからやって来た。
バンッ!
「ギルマス!なぜあの三人を辞めさせたんですか!?」
俺の執務室にサブマスが飛び込んで来た。
「は?」
「ヴィーガさんとアルテアさんとデネブさんですよ!」
「!?…っ、あの三人が何だと言うんだ!ただの討伐者だろう!?」
「何言ってるんですか!…普通の討伐者たちが、二人一組・三人一組で熟す依頼を、あの三人は一人で出来るんです!そんな優秀な彼らを簡単に手放すなんて…っ」
−貴方は現場を知らなすぎる−
サブマスは顔を歪ませながらそう呟くと
バンッ!
来た時と同じく、扉の音高く出て行った。
***
数日後
「ギルマス、人手が足りません。貴方も現場に出てください」
サブマスがそんな事を言い出した。
「何だと?」
「三人が居なくなって、依頼の達成ペースがガタ落ちです。一つの依頼に時間がかかるため、回転率が悪く、人手が確保出来ないままです」
「だからって、なんで俺が…」
「三人が辞めた原因は貴方でしょう?責任、取ってくださいね」
−しっかり現場を見てきてくださいよ−
そう言ってサブマスは俺を放り出した。
*
若手の討伐者と組んで、街から少し離れた森に向かう。
何でも、一角兎が大量発生しているらしい。
まぁ、一角兎相手なら、楽勝だろう。
「火礫弾!」
ヒュン
ひょいっ
俺が放った魔術は、あっさりと避けられた。
「何やってんすかぁ!あんな小さな火礫一個、簡単に避けられるに決まってんでしょうが!やるなら、弾幕ぐらい張ってくださいよ!」
若手が戦いながら俺に怒鳴る。
ドドドッ
火礫弾に刺激された、一角兎の集団が俺に押し寄せる。
「う、うわわわわっ!」
慌てて大剣で対応するも、至近距離まで迫られ、捌ききれない。
「そんな小回りの利かない剣なんて、一角兎との相性最悪だろうが!そんなもん振り回すなら、いっそ素手喧嘩でいけよ!」
若手は言いたい放題文句を言ってくる。
「う、うるせぇ!俺の方が、歴は上だっ!」
俺は一角兎に噛まれ、引っ掻かれながら言い返す。
「役に立たなきゃ、歴なんざ無意味だっ!この無能上司っ!」
「な…っ」
何だと!?と言い返したいが、俺は身を守るので精一杯。
…結局、殆どの一角兎を倒したのは、若手の方だった。
*
「サブマス!こんな使えない奴と組まされるのは、もう二度と御免ですよっ!!」
街に戻り、一角兎の討伐と素材回収の報告をした後、若手がサブマスに抗議する。
「貴方がたの姿を見れば、一目瞭然ですね…」
サブマスが呆れ顔で呟く。
若手はほぼ無傷。
俺は噛み跡と引っ掻き傷塗れ。
俺に反論の余地は無かった。
***
さらに数日後
「今日はゴブリンの巣の壊滅をお願いします」
サブマスが新たな討伐を持ってきた。
「また俺が組むんすかぁ!?」
先日の若手がサブマスに食ってかかる。
「すみませんね、この無能上司と組める人が他に居ないんですよ…」
「〜〜〜っ、だったらっ!せめてもう一人、仕える奴を付けてください!!」
ち、畜生!
言いたい放題言いやがって!
今日は俺が無能じゃない、と証明してやる!
俺たち二人に中堅の討伐者を加え、やって来た場所は街にほど近い岩山。
この中に巣が出来ているらしい。
山に足を踏み入れて暫く行くと、ゴブリンの姿が目立つようになってきた。
よし、今日こそは!
ザザッ
俺はゴブリンたちの前に飛び出し
「火礫弾!」
ヒュヒュヒュン
先日の経験を活かして、弾幕を張る。
しかし
「阿呆かぁ!そんなショボい弾幕が効くかぁ!こういう時は、一気に燃やすんだよっ!!」
「「火炎球!」」
ゴゥンッ
『………ギ…ッ!?』
若手の怒鳴り声と共に、若手と中堅が放った魔術が、ゴブリンを十体ほど巻き込み燃え上がる。
『…ギィ!?ギギギギギッ!!』
異常を察したゴブリンたちが巣から雪崩出て来る。
ガキッ
ゴブリンの攻撃を長剣−小回りが利く様、装備を変えた−で受け止める。
ゴブリンの攻めを凌ぎ
ズバッ
隙を付いて斬りつけるが…浅い。
「馬鹿野郎!こういう時こそ、大剣で薙ぎ払うべきだろうがっ!!」
また若手に叱られた。
もしかして俺は…戦闘が、下手なのか…?
…結局今日もほぼ全てのゴブリンを討伐したのは、若手と中堅だった。
*****
ヴィーガたちが去って、二月ほど経った頃だろうか?
街周辺の異常が大きくなってきた。
−こっちの街道で魔獣に襲われた−
−そっちの森に魔物が巣食っている−
−あっちの岩場には盗賊の隠れ家がある−
何処に行っても、そんな噂で溢れかえっている。
これも、三人が居ない影響だというのだろうか…?
「明らかに魔獣や魔物が増えている…やはり、ヴィーガさんが居ない弊害が…このままでは…」
「?」
サブマスの呟きが気になり、俺は問いかけた。
「ヴィーガが何の関係が…?」
「貴方、知らないんですか?この辺り一帯の瘴気を散らしてくれていたのは、ヴィーガさんなんですよ?だからこそ、魔獣や魔物の発生を抑えられていたというのに…」
−貴方、ギルマスでしょう?−
サブマスの冷えた目が、有り有りとそう語っている。
「こ、このままだと、どうなるんだ…?」
嫌な予感に、俺は冷や汗を流しながら問いかける。
「…濃くなった瘴気が魔獣や魔物を生み続け、大氾濫が、起きます…」
「!?な…っ」
何だと!?
「おっ、おい!何とかしろ!」
「五月蝿い!大体、この事態を招いたのは貴方でしょうがっ!何でもかんでも私に丸投げしないでくださいっ!!………もう予兆はとっくに出ている。一刻も早く住民の避難を…」
サブマスは慌ただしく部屋を出て行った。
…真逆、あの一角兎やゴブリンが、その”予兆“だったというのか…?
「お、俺は、どうすれば…」
このままでは、俺のギルマスとしての立場が…
「…ヴィーガ、戻って来い。今すぐ戻って、俺を助けろ…」
俺は届かぬ願望を呟き続けた。
*****
…とうとう恐れていた事態が起きた。
街の周囲、彼方此方で発生した魔獣・魔物が大挙して押し寄せて来る。
寸分違わす街へ向かって来るのは、人間の生命力に惹かれてのことだろうか?
「ギルマス!外門へ!街を守りますよ!」
サブマスはそう叫ぶと、あっという間に飛び出して行く。
えっ?あいつ、あんなに速かったのか…?
俺の驚きを置き去りに、他の所属員たちも次々と飛び出して行った。
*
外門に辿り着くと、既に戦闘は始まっていた。
「火炎球!」
「爆裂陣!」
ドゴンっ
ズドムっ
魔術が飛び交い、討伐者たちが敵と切り結ぶ。
「俺は、どうしたら…」
狼狽える俺の脳裏に
−貴方は現場を知らなすぎる−
いつかのサブマスの言葉が蘇る。
「ク、クソぉっ!」
俺は大剣を構え、戦いに身を投じた。
ハァ…ハァ…
息が上がる。
数多の敵を薙ぎ払った大剣は血に塗れ、斬れ味を鈍らせていく。
「火矢弾!」
バシュシュッ
魔術を織り交ぜ攻撃を仕掛けるが、俺の魔術は威力が弱く、少しの足止めにしかならない。
「………あっ!!」
とうとう抜かれてしまった。
俺の隙を付いた敵が、街へと雪崩込んでいく。
このままでは、街が…!
心が絶望に支配されそうになった、その時
「青炎球!」
ズドングっ
青い炎が炸裂した。
何十という敵が、一瞬で焼き払われていく。
…トッ
そして焼けた地に降り立ったのは…ヴィーガ。
「お前…なぜ此処に…?」
驚く俺には一切見向きもせず、ヴィーガは戦場の只中へ飛び込んで行った。




