side4 コルテガ
「おじいちゃーん!」
ギルマスを引退し、辺境の果てで暮らす儂の元に、義孫と弟子が突然やって来た。
「お前ら、急に何じゃ?討伐はどうした?」
驚き問いかける儂に、ヴィーは
「ギルドを解雇になったから、今は旅をしながら討伐してるよー」
と、何ともまぁ、軽い調子で答える。
は?解雇?
「ゲイルはヴィーが何を担っていたのか、知らんのか?」
思わず発した言葉に答えたのはアルだった。
「たぶん、知らないと思う。…デネブも愛想を尽かして、辞めて行ったよ」
「何じゃと!?」
あのギルドは、ヴィー、アル、デネブの三人に支えられていたというのに。
「…少し、調べてみるかの」
儂はポツリと独り言ちた。
***
ヴィーとアルがやって来て半月。
二人は伸び伸びと過ごしている。
二人、(とデネブ)が優秀な討伐者であるが故に、儂らもちと頼りすぎていたのかもしれん。
状況としては手放しに喜べないが、彼らには必要な休息なのだ。
ましてやヴィーには、街の行く末まで背負わせてしまっていた。
年若い少女が、街の運命まで背負っていたのだ。
並大抵の事ではなかっただろう。
寧ろ、ここまで良く支えていてくれた。
*
「おじいちゃーん!今日は魔豚が獲れたよー!!」
その日の夕刻
ヴィーとアルが、大量の肉と素材と共に戻って来た。
「アルが居るから、解体もスムーズだよね!」
「お前…いい加減、解体上手くなれよ」
「ゔっ…拳なら、得意なんだけどなー…」
そんな事を言い合いながら。
…ふむ。ヴィーにはもう少し厳しく解体を仕込むべきだったかの?
まぁ、アルが側に付いているのなら、大丈夫か。
「魔鶏ちゃんの卵もあるし、今日はオークカツにしようか」
そう言ってヴィーはガーデンキッチンで手早く夕食の準備をする。
…解体は下手なのに、料理は上手いんじゃ。この子は。
「じゃあ、俺は野菜を採ってくる」
アルが畑へ向かう。
それでサラダを作ろう、と言いながら。
*
「「「いただきます」」」
前庭に設置したダイニングテーブルで夕食を摂る。
今夜のメニューは
オークカツ
オニオンスープ
キャベツとニンジンのサラダ
そして儂が今朝焼いたパン
食卓で二人は、これまでの旅の様子や、その日の狩りの成果などを話してくれる。
全く、賑やかな食事にも、すっかり慣れてしまったわい。
*
「師匠」
夜
リビングで一人、晩酌をしていると、アルがやって来た。
「一人か?ヴィーは?」
「たぶんもう寝てる」
「…飲むか?」
「じゃあ、ちょっとだけ」
儂が果実酒を勧めると、アルはキッチンからグラスを持ってきて手酌で注ぐ。
「「………」」
暫し、静寂の時が流れる。
「…師匠、街の様子、調べてるんでしょ?」
やがてアルがポツリと口を開いた。
「…ああ」
「街は今、どうなってる?」
「既に、一角兎とゴブリンの大量発生が確認されたそうじゃ。…このままでは、大氾濫も時間の問題じゃな」
「…ヴィーは、きっと街に戻るよね」
「ああ。あの子は優しい子だからな。街の人を放っては置けまいて」
「分かった。…教えてくれてありがとう、師匠」
コトン
空になったグラスを置いて、アルは部屋へ戻って行った。
***
更に半月ほど経った頃
「コルテガさん!!」
デネブが血相を変えて飛び込んできた。
「はへ?へねふ?」
食事中だったヴィーが、サンドイッチを頬張りながら反応する。
「ヴィー…食べ物を口に入れたまま喋るのは止めなさい」
「ヴィーガ?アルテア?お前たちも此処に居たのか?」
ヴィーとアルの姿を見たデネブが驚きを見せるが
「デネブ、何があった?」
アルが差し出した水を一気に飲むと
「大氾濫の予兆が激しくなってる!たぶんもう、一月も、保たない…」
「「「!!」」」
何と、事態はもう、そこまで逼迫しているのか…
「おじいちゃん、あたし、行ってくるよ!」
食事を終えたヴィーがバタバタと準備をする。
「ヴィー!乗れ!」
アルが自身の馬を連れ出してきた。
「破っ!」
ダカッダカッダカッ
二人はあっという間に飛び出して行く。
「ま、待て!俺も行く!」
デネブが慌てて二人を追いかける。
「…さて、儂も向かわねばな」
手早く家の中を片付けると、儂も旅路についた。
***
儂が街に着いた頃には、既に戦闘が始まっていた。
青い炎、白い炎、雷、様々な魔術が炸裂している。
「…ん?あれはゲイルか?」
焼けた地の側で、呆然と成り行きを眺めている、元部下をみつけた。
「…ゲイル」
「ヴィーガ…アルテア…デネブ…俺のために、戻って来てくれたのか?」
安堵混じりに呟くゲイルにイラッとする。
「馬鹿を言うな。あやつらが今戦っているのは、お前のためではない。街の人々のためじゃ!」
「…俺のためじゃ、ない?」
「当たり前じゃ。なぜ自分を追い出した者のために戦わなければならんのじゃ?」
「それは、俺が…ギルマスだから…」
「ギルマスだから何じゃ!ヴィーが何を担っていたかも知らずに、不当に追い出しておきながら!この事態を招いたのはお前じゃ!」
「…っ、あんな小娘が瘴気を散らせるなんて、誰も思わないだろう!?サブマスも知っていたのなら、もっと早く教えてくれたら良かったのに!!」
「…儂は引き継ぎの時に、お前に伝えた筈じゃがな」
「えっ?」
「アルやデネブも炎属性の適正が高いが、ヴィーはその更に上を行く。あやつらの炎の色で分かるじゃろう?…ヴィーはその高火力をもって、瘴気を散らし続けてくれていたんじゃ」
…ヴィーが瘴気を散らせるのは、火力だけではなく、もしかしたら、生まれにも関係があるかも知れんがの。
だが、ヴィーを拾った時、身元が判るような物は何も無かった。
最早、生まれも親も、探す術は無い。
「そんな…」
「所属員たちの能力も把握出来ず、状況判断能力も低い。ましてや、このような大氾濫を引き起こしたお前に、ギルマスたる資格は無い。事態が済んだら、お前に処分を下す。覚えておけ」
それだけ言い残すと、儂は街へ向けて馬を駆った。
*
「コルテガさん!」
街へ入ると、儂の姿をみつけたサブマスが駆け寄って来た。
「外にはヴィーたちが居る!儂らは街に入り込んだ敵を片付けるぞ!」
「はいっ!」
*
全ての戦闘が終わったのは、夜も更けた頃だった。
サブマスがいち早く住民の避難誘導をしていたおかげで、怪我人はいるが、幸い死者はいない。
「おじいちゃん」
「おお、ヴィー、アル、デネブ。御苦労じゃった」
「ごめんね、数が多すぎて、素材を残す余裕が無かったよ…」
ヴィーのしょんぼりとした言葉に
「「そこかよ」」
アルとデネブが突っ込む。
ハハハッ、と周囲から笑いが起きる。
「いや、お前たちが無事で何よりじゃ。…街を守ってくれて、ありがとう」
「「「どういたしまして」」」
三人の笑顔は、達成感に満ちていた。
***
あれから三日
街は復興に向けて動き出している。
そんな中、半壊した討伐者ギルド内にて。
「ゲイル、此度のお前の責任は重い。よって、ギルマスを解任し、平の討伐者として、一からやり直せ!」
「ま、待ってくれ!俺はこの中でも歴のある討伐者で…」
「役に立たなければ、歴なんぞ無意味じゃ、馬鹿者!」
「そ、そんな…」
「これからはこいつをビシバシ扱いてやれ。そして、次のギルマスじゃが…」
そう言って、儂がサブマスを指名しようとした時
「コルテガさん、ギルマスとして戻って来てください」
サブマスがとんでもない事を言い出した。
「何じゃと!?」
「今、この街は復興の只中です。今こそ、長年ギルドを支えてきた貴方の力が、必要です」
「むぅ…」
…どうしたもんかの…
***
結局、儂はギルマスを引き受けた。
長年住んでいた街だ。
愛着もある。
何より、あの無能を見抜けなかった儂にも、責任の一端はあるだろう。
***
ヴィーとアルは旅立ち、デネブはギルドに戻って来た。
皮肉なことに、あの大氾濫で瘴気を使い果たしたのか、瘴気は綺麗さっぱり無くなった。
これでもう、ヴィーがこの街に縛られる必要は無い。
ゲイルはデネブを始めとした若手に扱かれながら、ヒラ討伐者としてやり直しの最中。
…プライドの高いあやつが何時までもつかは、分からんが。
街の復興が少し落ち着き始めた頃、サブマスが言った。
「ヴィーガさんたちに続く後進を、育ててみませんか?」
儂はゆるりと首を振り
「…ギルドの運営も、後進の育成も、今の主軸はお前たちじゃ。儂は補佐に徹するのみ」
「…わかりました。今の我々には、貴方が此処に居てくださるだけでも心強いことですので」
パタン
サブマスは一礼して部屋を出て行った。
街の復興、ギルドの立て直し…やる事は山積み。
「…儂のスローライフ再開は、いつになるかの…」
今も何処かの空の下を旅しているであろう、義孫たちを思いながら、儂はポツリと呟いた。
fin.
ここまで読んでいただきありがとうございました。




