side2 アルテア
いつだったか、ふと聞いたことがある。
「ヴィーはなぜ、討伐者になったんだ?」
同じギルドに属する同僚で好敵手。
なぜ急にこんな事を聞いたのか、俺自身もわからなかった。
「ん?あたし?捨て子なの」
「…は?」
先代に拾われたんだよねー、と彼女はあっけらかんと笑う。
「すまん…辛いことを聞いた」
「気にしないで。あたしは今の生活を楽しんでるよ。それに、此処に居るから、アルとも会えたしね」
そう言って微笑う彼女の姿は眩しくて、その姿に俺は目が離せなかった。
*****
「…ヴィーが、ギルドを辞めて街を出ていった?」
「ああ。ギルマスが追い出したらしいぞ」
ギルドの同僚−デネブ−が俺に語る。
「ヴィーがなぜ此処に居たのか、ギルマスは知らないのか?」
「…だろうな。とにかく、ヴィーガが居ない今、此処も安全じゃなくなった。…それに所属員を不当に追い出す上司にはついて行けない。俺も此処を辞めて出ていく。…アルテア、お前はどうする?」
「ヴィーが居ないんじゃ、此処に居る理由はない。俺も辞めて…ヴィーを探しに行くよ」
「そうか。…達者でな」
「ああ。お互いに」
そうして俺はヴィーを探す旅に出ることにした。
*
「ヴィーが門を通らなかったか?」
街の出入り口。
俺は討伐で顔見知りの門兵に尋ねる。
「いや、見ていないが…乗り合い馬車にでも乗っていたら、俺たちもわからない場合があるぞ」
「そうか、ありがとう」
乗り合い馬車…
自宅は既に引き払われていた。
ヴィーが街を出たのは確かなのだろう。
乗り合い馬車乗り場に行ってみるか。
「十五〜六歳くらいの、青髪の女の子が此処に来なかったか?」
「…いや、俺は見てないなぁ」
「俺も」
乗り合い馬車の馭者たちに聞き込みを続けるが、中々情報を得られない。
そんな時
ガラガラ…
一台の馬車が街の外から戻って来た。
「お〜い、ジェフ!お前さん、十五〜六の青髪の女の子を見なかったか?」
俺が聞き込みをした馭者の一人が、その馬車の馭者に声をかけた。
「…薮から棒に何だ?」
「いや、この兄さんがその女の子を探してるんだってよ」
「…ん?アンタ、討伐者かい?それに、青髪の女の子って…もしかして、ヴィーガさんの知り合いか?」
「!!ヴィーを、ヴィーガを知っているのか!?」
「ああ。俺の馬車に客として乗っていたんだが、魔獣に襲われた時に助けてもらってな。彼女には、世話になった」
「それで、ヴィーは何処に…?」
「サンダウナーの村で降りて行ったよ」
「其処まで連れて行ってくれないか!?」
「…いや、俺は今戻ったばかりで、流石に無理だ。馬車を出すのは、他の奴に頼んでくれ。…すまねぇな」
「!此方こそ気が急いて…すまない。教えてくれてありがとう」
「おうよ」
その後俺はサンダウナーに向かう馬車を見つけ、乗り込んだ。
サンダウナーまでは距離があるため、途中の村で一泊するそうだ。
*
その日の夜
宿泊地の村で宿を取り、食事を済ませ休んでいた時だった。
ドォン!
「!!」
突然の音に跳ね起きる。
直ぐ様窓の外を確認すると、炎で赤く染まる視界。
俺は剣を引っ掴み、飛び出した。
『ヒャッハー!!』
外では陳腐な雄叫びを上げる盗賊たちが暴れ回っている。
「!?……!………!!…」
村人たちが悲鳴を上げ逃げ惑う。
確認出来る盗賊は、約十人。
俺は逃げる村人たちの流れを逆流し、盗賊に肉薄した。
ザンッ、ザシュッ
「ぎゃぁぁっ!」
盗賊の手を、足を斬りつけ、動きを止めていく。
命までは奪っていない。
…三、…四、
…六、…七、
ザッ、ズバッ
「うぎゃぁぁっ!…痛ぇ!」
「ぎゃぁっ!…お、お頭ぁ…」
十人程斬りつけた頃、盗賊が一人の男に助けを求めた。
頭と呼ばれた男は、斧を手に、悠然と立っている。
「…お前で最後か?」
「お前は…討伐者か?中々やるな。…どうだ?俺についてくる気はないか?」
「馬鹿を言え」
チャキッ
頭の勧誘を突っぱね、剣を構える。
「…フン、残念だ」
頭が斧を振り上げる。
ガキッ、ギィィン
…二合、…三合、
打ち合う。
…五合、…六合、
…ズガッ
俺は頭の斧をかち上げ
ズバッ
頭の胴を袈裟斬りに薙いだ。
「…っ、ぐうっ…」
…どすっ
斧が鈍い音を立てて地面に落ちる。
「これで終わりだ。…雷縛」
頭を雷の魔術で拘束する。
こうして、突然の盗賊の襲撃は鎮圧された。
盗賊は全部で十二人(全員に雷縛をかけてある)。
しかし、盗賊の引き渡しのために、もう一日、村に留まることになった。
早くヴィーを探しに行きたいのに…
そんなもどかしい思いを抱えていると
「討伐者殿」
不意に呼ばれ、そちらへ振り向く。
其処に居たのは、数人の村人たち。
その最前列に居る老人が話しかけてくる。
「私はこの村の村長です。此の度は助けていただき、ありがとうございました。…これは御礼です。命の代金には少ないですが…お受け取りください」
そう言って差し出されたのは、大金貨十枚(十万ゴールド)。
俺とて命を金に換算する訳ではないが、ギルドを辞め飛び出して来たために、路銀は少々心許ない。
ここは有り難く貰っておこう。
「じゃあ、遠慮なく」
「貴方が居てくださったことに感謝を」
その言葉を残し、村人たちは去って行った。
***
翌日の昼過ぎになって、引き取りの兵士たちが到着した。
これで漸く出発出来る。
盗賊たちを無事に引き渡し、馬車はサンダウナーへ向けて再び走り出した。
*
サンダウナーへ着いたのは、夜も更けた頃だった。
少し遅くなったが、夕食と今夜の寝床の確保に、村に一軒しかないという食堂兼宿屋へと向かう。
ギィ…
少し軋む木戸を押し開け、中へ入ると、酒を煽るマッチョな男が居た。
「何だ、兄ちゃん?見ない顔だな。旅人か?」
「ああ。…此処に青髪の討伐者の女の子が居ると聞いて来た」
「…あ〜ん?…兄ちゃん、何者だ?」
男がスウッと目を座らせる。
「彼女の同僚だ。俺は彼女を探している」
「…何だ、兄ちゃん。好きな子を追っかけて来たのか〜。青春だねぇ」
途端に男はフレンドリーになり、ニッと破顔した。
「俺は嬢ちゃんに助けてもらったのよ。あの時は…」
俺は酔っ払いに数時間絡まれ続けた。
「ふぅ…」
ドサッ
やっと酔っ払いから解放されて、宿の一室に収まった頃はとうに深夜。
旅の…というより、酔っ払いの相手に疲れ果てた俺はベッドに倒れ込む。
酔っ払いの話は留まることを知らず、肝心のヴィーが今、何処に居るかを聞くことが出来なかった。
「仕方ない…明日、また…」
そして俺はそのまま眠りに落ちた。
***
翌朝
少し遅めに起きた俺が、一階の食堂へ降りると、マッチョが黒髪の女性に叱られていた。
「あれほど飲み過ぎには気を付けてください、と言ったでしょう?」
「うう…すまねぇ…昨夜は酒が進んで、つい…」
「つい、ではありません!」
「………」
華奢な女性がマッチョを叱っている図、に圧倒された俺はぽかん、とただ成り行きを眺める。
「!あら、おはようございます」
俺に気付いた女性が挨拶をする。
「…ああ」
「私はハンナと申します。昼間は食堂で働いています」
「ハンナさん、この兄ちゃんだよ。嬢ちゃんを探しに来たっていうのは」
「まぁ!ヴィーガさんのお知り合いですか?私もヴィーガさんには助けていただいて…」
「そのヴィーガなんだが、今何処に居るか教えてくれないか?」
「兄ちゃん、必死だねぇ。…好きな子には早く会いたいわな」
マッチョがニヤニヤと口を挟んでくる。
「あら?あらあら、まぁまぁ!!」
途端にハンナさんが嬉しそうに微笑んだ。
「………っ」
勝手に気持ちを見抜かれ、勝手にバラされた俺は二の句が告げず、顔を赤くして言葉に詰まる。
「でも…ヴィーガさんは、商人さんの依頼を受けて、二日前に村を発たれましたよ」
だが続いたハンナさんの言葉に俺の頭は一瞬で冷めた。
「!?どっ、何処に…?」
「確か、辺境都市へ向かうと…馬車で向かわれたので、村からだと五日程かと」
五日…
もう二日遅れている。
ここで追い付けなければ、またすれ違ってしまう。
後三日で追いつくには…
「う、馬!馬を売っているところは無いか!?」
「売っているところは知りませんけど、村長さんなら馬をお持ちかと…」
「案内してくれ!」
「は、はいっ!」
俺の勢いに押されながらも、ハンナさんは村長の元へ案内してくれた。
*
じゃらっ
「突然で申し訳ないが、これで馬を譲ってほしい」
先日の金貨(十万ゴールド)をそのまま出し、村長に話を切り出す。
「…何やらお急ぎのご様子。ですが、こんなには頂けません…」
村長が俺の勢いに少々気圧されながら答える。
「えっ?」
「三万ゴールドでお譲りしますよ」
「!感謝する!!」
村長に馬を譲ってもらった俺は、そのままサンダウナーを後にする。
慌ただしくも見送りに来てくれたハンナさんとマッチョに別れを告げ
「破っ!」
馬を駆る。
マッチョの
「嬢ちゃんに会えたら、二人でまた来いよ〜!」
なんて言葉を背にしながら。
*
ダカッダカッ
「間に合え…っ」
頭の中を占めるのは、ヴィーに追いつくことのみ。
俺は夢中で馬を駆った。
「……!………!…」
ピリッ
何かの気配に、馬と俺が同時に反応する。
「……バウッ!…………ギャウッ!!…」
接敵したのは、魔犬の群れ。
…こんな時に…っ
戦う時間すら惜しい。
「白炎…球!」
グオンッ
『………!?』
俺の放った魔術は魔犬に断末魔を上げる暇も与えず焼き尽くし
ダンッ
そのまま白炎の壁を馬で飛び越え、あっという間にその場を後にした。
***
三日後
辺境都市に到着した俺は、手近な宿を取り馬を預けた。
「ハンナさんの言葉通りなら、ヴィーとの時間差はもう、ほぼ無い筈…」
とりあえず、大通りに出てみる。
ヴィー、何処だ?何処に居る?
忙しなく見渡しながら歩き回る。
そんな風に暫く歩いて、見つけた青髪の後ろ姿。
居た!!
「ヴィー!!」
なぜ此処に?と問うヴィーに、俺は追いかけて来た、と素直に返す。
「俺たちは“好敵手“だからな」
ヴィーへ向けた”好敵手“という言葉の中に、俺は恋心を隠す。
「………じ、じゃあ、これからは一緒に、旅、する?」
「当然だ」
…今はまだ、このままでいい。
でも俺は、いつか君の夫になれる日を待っている。
fin.




