冒険者
その日の夜。
いつものように帝国の酒場へ集まっていた。
王国の職人。
帝国の職人。
国境など関係なく、大きな卓を囲んで酒を酌み交わす。
「乾杯!」
木製のジョッキがぶつかり合い、豪快な笑い声が店中へ響いた。
酒も進み、話題があちこちへ飛び始めた頃。
帝国の鍛冶職人が、ふと思い出したようにヒロを見る。
「そういや、ヒロ!」
「お前、冒険者なんだってな!」
その一言で。
王国の職人たちが一斉に顔を上げた。
「……あ。」
「そうだ。」
「忘れてた。」
「ヒロ、冒険者だったな。」
誰かが頭を掻きながら苦笑する。
あまりにも毎日職人として働いているものだから、全員すっかり忘れていた。
ヒロは苦笑いを浮かべる。
「一応。」
「Fランクです。」
その言葉を聞いても、帝国の職人たちは首を傾げるばかりだった。
「……は?」
「何言ってんだ?」
「お前、職人だろ?」
「そうそう。」
「どっからどう見ても職人じゃねぇか。」
「冒険者って剣とか魔法とか使う奴らだろ?」
「お前、毎日工具箱しか持ってねぇじゃん。」
酒場に笑いが広がる。
ヒロは困ったように笑うしかない。
「いや、本当に冒険者なんです。」
「ギルドにも登録してますし。」
帝国の石工が豪快に笑った。
「だったら俺は宮廷魔術師だ!」
「ぶはははは!」
「違ぇねぇ!」
「ヒロが冒険者なら、俺たち全員冒険者だ!」
また大笑いが起こる。
王国の職人たちは顔を見合わせた。
そして。
「まあ……。」
「その反応になるよな。」
「俺たちも最初はそうだった。」
そう呟きながら、静かに酒を飲んだ。
「そういやヒロ。」
「式典まで帰れねぇんだろ?」
「はい。」
「だったら帝国のギルドに顔出してみろよ。」
ヒロは心の底から興味がなさそうな顔をした。
「ギルドですか。」
少し考える。
そして真顔で答えた。
「僕は、みんなとお酒を飲んでる方が勉強になると思うんですけど。」
酒場が一瞬静まり返る。
次の瞬間。
「ぶはははは!」
「やっぱり職人じゃねぇか!」
「ほら見ろ!」
「誰だよ冒険者なんて言ったの!」
帝国の職人たちは腹を抱えて笑った。
ヒロは首を傾げる。
「違いますか?」
「違わねぇ!」
笑いがなかなか収まらない。
ようやく落ち着いた頃、一人の職人がジョッキを置いた。
「まあ聞け。」
「今、帝国のギルドじゃ面白ぇ依頼が出てる。」
「辺境伯様んとこのご令嬢がな。」
「ドラゴン討伐の依頼を出してるんだ。」
ヒロは少しだけ期待したように顔を上げる。
「インフラ整備じゃないんですね。」
酒場が再び静まり返る。
帝国の職人たちは顔を見合わせた。
「……。」
「……だめだ、こりゃ。」
誰かがぽつりと呟く。
次の瞬間。
「ぶははははは!」
酒場中が大爆笑に包まれた。
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