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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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和平

その頃。


帝国軍本陣。


夜も更け、軍議が終わろうとしていた。


その時だった。


軍幕が静かに開く。


二つの人影。


深くローブを被り、ゆっくりと中へ入ってくる。


「誰だ!」


帝国兵が一斉に剣を抜く。


張り詰めた空気が軍幕を包んだ。


二人は立ち止まる。


皇帝は静かにその姿を見つめる。


わずかに眉をひそめた。


「……。」


二人は無言のまま。


ゆっくりとフードへ手を掛ける。


同時に脱いだ。


現れた顔を見た瞬間。


軍幕中が息を呑む。


「……国王。」


「アルバス。」


そして、その隣。


細身の老紳士。


レイピアを腰へ提げた男。


「剣聖……。」


「セバスチャン・グランドール。」


帝国兵たちの剣先が、わずかに揺れる。


皇帝は静かに立ち上がった。


敵国の王。


その王が。


たった二人で。


帝国軍本陣へ現れたのだった。


皇帝は二人を静かに見つめる。


やがて、小さく笑った。


「座れ。」


国王アルバスとセバスは黙って席へ着く。


帝国の将軍たちは誰も口を挟めない。


敵国の王を。


皇帝自ら席へ招くなど、前代未聞だった。


皇帝は酒を一口飲む。


そして。


セバスを見て、豪快に笑った。


「セバス!」


「まったく!」


「力任せに突っ込んできおって!」


「おかげで前線は壊滅じゃ!」


アルバスが吹き出した。


「はっはっはっ!」


軍幕の空気が一瞬止まる。


帝国の将軍たちは目を丸くした。


昼まで命を懸けて戦っていた。


その国の王同士とは、とても思えない会話だった。


皇帝は机を叩く。


「それになんじゃ!」


「あの西門の馬鹿は!」


「獣みたいな声を張り上げおって!」


「開戦の合図も待てんのか!」


セバスは思わず吹き出した。


肩を震わせながら笑う。


「……あれは。」


「ガレスですからな。」


「理屈は通じません。」


皇帝も苦笑する。


「分かっておる!」


「だから困るのじゃ!」


「正門へ行けば!」


「戦姫と魔王が並んで立っとる!」


「あんなの攻め込めるわけないじゃろう!」


「北門は『国家問題に関われない』ギルドマスターが堂々と斧を振りおる!馬鹿かあの男は!それにその隣には”アマゾネス”マーサ!」


「南門を攻めようと思えば!」


「今度はわけの分からん職人に魔術師団を全滅させられる!」


「どうせヒロじゃろう!」


アルバスは笑いながら頷く。


「まったく。」


「職人とは何なんじゃ。」


皇帝は大きくため息をついた。


軍幕の中では。


帝国の将軍たちだけが、状況についていけず立ち尽くしていた。


ひとしきり笑い声が収まる。


静かな時間が流れた。


アルバスは手にした杯を見つめる。


酒面に映る自分の顔を、しばらく眺めていた。


やがて、小さく口を開く。


「……もう。」


「やめにせんか。」


軍幕が静まり返る。


皇帝は何も言わず、アルバスを見つめる。


アルバスは続けた。


「一つ。」


「頼みがある。」


「役人を。」


「貸してくれんか。」


将軍たちがざわつく。


アルバスは静かに言葉を紡ぐ。


「わしも。」


「民を守りたい。」


「貧しい者を救いたい。」


「飢える子を。」


「これ以上、見たくはない。」


杯をそっと机へ置く。


「じゃが。」


「自由だけは奪えん。」


「帝国のようにはできんのじゃ。」


「それでも。」


「役人の知恵を借りたい。」


「制度を学びたい。」


「王国なりのやり方で。」


「民を救いたい。」


アルバスは皇帝を真っ直ぐ見た。


「わがままだと思う。」


「帝国の制度を学びながら。」


「自由は守る。」


「そんな都合の良い話など、ないことは分かっておる。」


少しだけ笑う。


「じゃが。」


「これが。」


「わしの自由じゃ。」


軍幕は静まり返る。


皇帝は何も答えない。


ゆっくりと目を閉じる。


静かに天を仰ぐ。


長い沈黙。


やがて。


ゆっくりと目を開いた。


そして、小さく頷く。


「……あいわかった。」


その一言だけだった。


アルバスは静かに頭を下げる。


「恩に着る。」


皇帝は苦笑する。


「勘違いするな。」


「貸すだけじゃ。」


「次に会う時は。」


「遠慮なく勝たせてもらうぞ。」


アルバスも笑った。


「望むところじゃ。」


その夜。


敵国の二人の王は。


初めて、同じ未来を語り合った。


翌朝。


帝国軍は静かに撤退を始めた。


整然と。


一糸乱れぬまま。


包囲していた軍勢は次々と陣を畳み、王都から離れていく。


誰も追わない。


誰も背中を斬らない。


ただ静かに、その姿を見送った。


この世界の歴史上。


これほどの大軍が挙兵し。


これほど多くの国が参戦しながら。


たった一日で戦争が終わったことなど、一度もなかった。


各門でも。


守備についていた者たちが、それぞれ王都へ戻っていく。


その時だった。


王都中へ、聞き慣れた大声が響き渡る。


「逃げんなぁぁぁぁ!!」


「俺はまだ戦えるぞぉぉぉ!!」


西門の方角だった。


ヒロは思わず吹き出す。


南門の職人たちも腹を抱えて笑い出した。


「ぶはははは!」


「まだ聞こえる!」


「どんだけ声でけぇんだ!」


「ずっと声だけ聞こえてるな!」


その笑い声に、魔族たちもつられて笑う。


「会ってみたいな。」


「そのガレスという男。」


「どうせ馬鹿なんだろうな。」


職人たちは声を揃えて笑う。


「ああ!」


「あいつは馬鹿だ!」


「とんでもない馬鹿だ!」


「でも。」


親方が笑いながら続ける。


「誰よりも真っ直ぐな馬鹿だ。」


魔族たちは顔を見合わせる。


そして。


「なるほど。」


「ますます会いたくなった。」


再び大きな笑い声が響く。


戦争は終わった。


そのことを誰よりも実感させたのは。


王都中へ響き渡る、一人の馬鹿の大声だった。

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