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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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帰還


魔王城。


城門の前。


ヒロを見送るため、魔族たちが集まっていた。


魔王も静かに立っている。


ヒロは全員を見回し、小さく頭を下げた。


「お世話になりました。」


そして。


地面へ手をかざす。


複雑な魔法陣が、ゆっくりと展開されていく。


その瞬間。


魔王の目が大きく見開かれた。


「……それは。」


ヒロは照れくさそうに笑う。


「転移魔法です。」


「解析は得意なので。」


「教えていただいた術式を解析して、自分なりに組み直しました。」


魔王は思わず絶句する。


「一度見ただけで……。」


ヒロは何でもないことのように頷いた。


「はい。」


「魔法工学は好きなので。」


そう言って笑顔で手を振る。


「それでは。」


「また。」


眩い光がヒロを包み込む。


「皆さん。」


「お元気で。」


光が消える。


そこにはもう、ヒロの姿はなかった。


城門は静まり返る。


誰も口を開かない。


魔族から見れば。


ヒロは決して強くない。


魔力量は少ない。


人間として見れば制御能力は高いのだろう。


だが。


魔族にとって魔力制御など。


呼吸をすることと変わらない。


成人の儀でも。


特別な能力は何一つ目覚めなかった。


それでも。


たった一度見ただけで。


転移魔法を解析し。


自らの術式として完成させた。


そんな者を。


誰一人として見たことがなかった。


老魔族は静かに涙を拭う。


「……誇らしい。」


誰かが小さく頷く。


「本当に。」


「魔王様に、そっくりじゃ。」


魔王は光が消えた場所を見つめたまま、小さく笑った。


「まったく。」


「最後まで。」


「面白い子だ。」





ヒロの捜索のため。


ギルドは、かつてないほど騒然としていた。


王都の地図が何枚も広げられ。


冒険者たちは次々と捜索隊を組み、街の外へ向かっていく。


王宮から派遣された魔術師たちは、残された転移魔法の痕跡を必死に解析していた。


しかし。


手掛かりは何一つ見つからない。


受付に座るリリアは、俯いたまま動けずにいた。


目の前には書類が積み上がっている。


けれど。


文字を読んでも、意味が頭へ入ってこない。


手にした羽根ペンも、先ほどから一度も動いていなかった。


木漏れ日の酒場は、珍しく店を閉めていた。


女将もギルドへ来ている。


ヒロとガレスが王都へ来て十年。


雨の日も。


雪の日も。


祭りの日でさえ。


店を閉めたことなど、一度もなかった。


それでも今日は。


酒場を開ける気にはなれなかった。


親方をはじめ、職人たちもギルドへ集まっている。


誰も大声を出さない。


誰も冗談を言わない。


ただ、自分たちにできることはないかと、何度も地図を見つめていた。


医務室では。


傷だらけのガレスが、静かに眠っている。


その傍らにはセレナがいた。


椅子へ腰掛け。


ガレスの大きな手を、両手で包み込むように握っている。


「……早く起きなよ。」


返事はない。


セレナは手を離さなかった。


受付では。


魔力を回復させ、再び分身を作ったアンネローゼが、リリアの隣に立っていた。


何も言わず。


ただ、俯くリリアの肩へ手を置いている。


アンネローゼ自身も。


ヒロが無事だとは言い切れなかった。


魔王の目的も。


連れ去った理由も。


何一つ分からない。


だから。


安易な慰めの言葉を口にすることはできなかった。


重苦しい沈黙が、ギルド全体を包んでいた。


その時だった。


ギィ……。


ギルドの扉が、静かに開く。


誰もすぐには反応しなかった。


捜索隊の誰かが戻ってきた。


そう思っただけだった。


しかし。


入口に立つ姿を見た一人が、息を呑む。


その音に釣られるように。


一人。


また一人と、顔を上げていく。


長く伸びた黒髪。


見慣れた服。


いつもと変わらない、穏やかな表情。


そこに。


ヒロが立っていた。


「ただいま。」


たった一言。


いつもと同じ言葉だった。


リリアの手から、羽根ペンが落ちた。



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