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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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最終日:模擬戦


新人研修、最終日。


その日の予定には、クエスト名は書かれていなかった。


代わりに記されていたのは、たった一行。


ギルドマスターによる模擬戦。


訓練場には、新人とベテラン、受付嬢、そして多くの冒険者たちが集まっていた。


ギルドマスターは一人ずつ木剣を交え、模擬戦を行う。


勝敗は関係ない。


戦いながら、一人ひとりへ丁寧に助言を送っていく。


「足が止まってる。」


「そこは引いていい。」


「いい判断だ。」


新人たちは真剣な表情で耳を傾けていた。


やがて、ガレスが担当した新人の番になる。


木剣が激しくぶつかり合う。


豪快に攻める新人。


それを受けながら、ギルドマスターは小さく笑った。


「……よく似てるな。」


その一言に、ガレスは照れくさそうに頭を掻く。


模擬戦が終わると、ギルドマスターは満足そうに頷いた。


「いい試合だった。」


そして最後。


「エリック。」


名前を呼ばれたエリックは木剣を握り、静かに前へ出る。


ヒロはその背中へ歩み寄る。


小さな声で、一言だけ告げた。


「殺すつもりで行きなさい。」


エリックは息を呑む。


その言葉の意味は分かっていた。


本当に殺せという意味ではない。


覚悟だけは、本気で。


一切の遠慮なく。


そういうことだった。


「……はい。」


模擬戦が始まる。


エリックは迷わず踏み込んだ。


剣を振るう。


ギルドマスターは感心したように頷きながら、その剣を受け流す。


「いい剣筋だ。」


次の瞬間だった。


木剣が交わったまま。


エリックの左手がわずかに動く。


詠唱はない。


魔法陣も現れない。


無詠唱。


至近距離で放たれた魔法が、ギルドマスターを捉えた。


「――は?」


訓練場に、間の抜けた声が響く。


気付けば。


ギルドマスターは大の字になって地面へ寝転がっていた。


静まり返る訓練場。


ダメージはない。


だからこそ。


全員が驚いていた。


ギルドマスターは空を見上げたまま、しばらく動かなかった。


やがてゆっくりと起き上がる。


土を払いながら、エリックを見る。


そして。


少し離れた場所で静かに見守るヒロへ視線を向けた。


思わず笑みがこぼれる。


「……なるほど。」


「そう育てたか。」


その日の夜。


木漏れ日の酒場は、いつも以上に賑やかだった。


新人研修を終えた新人たち。


ベテラン冒険者。


職人たち。


皆が自然と集まり、店のあちこちで今日の出来事を語り合っている。


その中で、一番驚かれていたのは別のことだった。


カウンターの一番端。


いつも一人、黙って酒を飲んでいたギルドマスターが。


今日は輪の中にいた。


ジョッキを片手に、冒険者たちと笑っている。


その光景を見て、女将は呆れたようにため息を吐いた。


「まったく。」


「最初からそうしときゃよかったんだよ。」


ギルドマスターは照れ隠しのように酒を一口飲み干す。


そしてヒロを指差した。


「ヒロ!」


「てめぇ!」


「新人に無詠唱なんか教えてんじゃねぇ!」


店中が静まり返る。


ヒロはきょとんと首を傾げた。


「え?」


ギルドマスターは腕を組み、もっともらしく頷く。


「魔法ってのはな!」


「まず基礎からだ!」


「無詠唱なんざ、そのずっと先だ!」


ヒロは困ったように苦笑する。


「でも、エリックなら――」


そこへガレスが勢いよく割って入る。


「俺は文字読めねぇから!」


「最初から無詠唱だ!」


ギルドマスターは間髪入れず叫んだ。


「お前は黙ってろ!」


酒場が大きな笑い声に包まれる。


「はははは!」


「それはそうだ!」


「ガレスは例外だ!」


ジョッキがぶつかり合い、笑い声がいつまでも止まらない。


その様子を、セレナは静かに見つめていた。


隣に立つ女将へ、小さく微笑む。


「ギルドマスターも。」


「ようやく輪に入れたんですね。」


女将は賑やかな店内を見渡す。


笑う職人たち。


騒ぐ冒険者。


困ったように笑うヒロ。


その輪の中で、大声を上げて笑うギルドマスター。


女将の口元がゆっくりと緩んだ。


「……ふふっ。」

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