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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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ヒロはいつものように地下へ潜っていた。


工具箱を肩に掛け、魔力導管を一つひとつ点検していく。


異常なし。


異常なし。


今日も王都のインフラは正常に動いている。


それを確認するのが、ヒロの日課だった。


その時だった。


地下道を照らす魔力灯が、一度だけ小さく点滅する。


「……故障かな?」


ヒロは足を止めた。


球切れではない。


魔力の供給も安定している。


首を傾げながら見つめていると、今度は少し先の魔力灯が点滅した。


さらに、その先。


一定の間隔で。


地下道の奥へ向かって。


まるで道標のように。


ヒロは思わず目を細める。


「そういえば……。」


「前にも、こんなことがあったような。」


記憶の奥底に、小さな違和感が蘇る。


しかし、思い出せない。


理由は分からない。


それでも。


なぜか懐かしさを覚えた。


気付けば、足が自然と動いていた。


点滅する魔力灯を追うように、地下道の奥へ進んでいく。


十年間。


王都のインフラ整備クエストを受け続けてきた。


地下へ潜った回数など、もう数え切れない。


王都の地下は知り尽くしている。


そう思っていた。


だが。


目の前に広がる景色には見覚えがなかった。


「……。」


巨大な扉。


地下道の行き止まりを塞ぐように、静かに佇んでいる。


ヒロは一目見ただけで理解した。


「魔力炉……。」


鼓動が少しだけ速くなる。


好奇心。


知識欲。


胸の奥から湧き上がる。


ヒロは扉へ歩み寄り、そっと手を触れた。


開かない。


結界だ。


何重にも重ねられた強固な結界が、扉そのものを守っている。


視線を落とす。


中央には、王家の紋章が刻まれていた。


「……まあ。」


小さく苦笑する。


「そうだよね。」


「王都全域へ魔力を供給する魔力炉なんだから。」


「簡単に入れるわけがないか。」


未練はあった。


だが、それ以上に勝ったのは理性だった。


ヒロは静かに踵を返す。


その瞬間。


「……ヒロ。」


足が止まる。


静まり返った地下へ、もう一度。


「ヒロ。」


確かに聞こえた。


扉の向こうから。


誰かが、自分の名を呼んでいる。


ヒロはゆっくりと振り返る。


「……え?」


しばらく扉を見つめていた。


やがて工具箱を持ち直す。


迷いはなかった。


その足で、王宮へ向かう。


歩きながら考える。


(なんて説明しよう。)


(『魔力炉から声が聞こえました』なんて言って、信じてもらえるかな。)


そんなことを考えているうちに、王宮の正門へ着いていた。


衛兵が一礼する。


「ご用件をお伺いします。」


「セバスさんにお会いしたいんです。」


衛兵はヒロの顔を確認すると、すぐに道を開けた。


「どうぞ。」


「……え?」


あまりにもあっさりだった。


顔パス。


理由も分からないまま、ヒロは王宮の中へ入っていく。





執事室。


セバスはヒロを見るなり穏やかに微笑んだ。


「珍しいですね。」


「今日はどうされました?」


少しだけ雑談を交わす。


そしてヒロは静かに切り出した。


「魔力炉から。」


「声が聞こえました。」


その一言だった。


セバスの表情が凍りつく。


椅子が大きな音を立てて倒れた。


「……何と、おっしゃいました?」


ヒロは戸惑いながらもう一度繰り返す。


「魔力炉から、僕の名前を呼ぶ声が聞こえました。」


セバスは一瞬だけ目を閉じる。


次の瞬間には踵を返していた。


「謁見の準備を。」


「至急です。」


王宮中へ、慌ただしく人が走り始めた。

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